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12話 - 桃色喜劇

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。

「ガザの村?」

 冬の声が響く。

 丁度畑仕事を終え、冬と輝夜(かぐや)の三人で昼飯を食べていたときだ。

 麗華さんが来たのでこの辺りのことを説明しても貰うことにしたのだ。

「はい、この村の正式な名前です。とはいえども、この村は所詮この村。ここを『ガザの村』と呼ぶのは藩主とそこの城下町に住む人たちだけですよ」

 苦笑しながらの言葉だ。

「輝夜さんの居た村は『シギの村』です。後は近くに『フウの村』『ジジの村』『グンの村』があります。他には藩主の城下町を挟んだ向こうに幾つかの村が存在しますよ」

「なるほど……。勉強になります」

 麗華さんの講義に冬が頷く。

 まぁ、この説明を求めたのは冬であるため本人は至極真面目に生徒に徹している。

「では、重ねて質問です」

「どうぞ」

 続いて冬の質問に、お茶を啜りながら笑顔で応じる。

「城下町で商いをするときの注意などは以前にお聞きしましたが、近いうちにこの村から商いをしに行く人は居ますか? できるならばそのものに同行して、商いの現場を見たいのですが」

「……ああ、そういうことですか」

 麗華さんが納得したように笑顔で頷く。

 僅かに考えるそぶりを見せ、やがて何かに気づいたかのような仕草を取る。

 表すなら顔の真横で豆電球がペカッと光り輝いた感じである。

「そういうことでしたら(ひこ)が近いうちに行くと思いますよ」

「彦?」

 これは俺の言葉。聞きなれない名に思わず口を挟んでしまった。

「ええ、この村で織物を作っている者です。また、この村で作ったものを城下町まで売りに行く時に持っていってくださる人ですよ」

 どうにも、その彦さんという人がこの村と城下町を繋ぐ商人のようだ。

「よろしければ、私が彦に話しを通しておきましょうか?」

「お願いします」

 この申し出に冬が頭を下げる。

「わかりました」

 麗華さんが再度笑顔で頷く。

 ……いい人だ。

 本来の用事ではないのに、冬の突然の願いに応じ、それだけではなくそれとなく手助けまでしてくれた。

 非常に出来たお人だと思う。


 と、麗華さんはなにやら面白そうな笑みを浮かべると冬に向かって切り出す。

「ところで、冬月さん」

「なんでしょうか?」

「実は、本日はこれを冬月さんに届けに参りました」

 どうにも、本日たずねてきた本当の用件らしい。

 麗華さんが懐から取り出した包みを開き、中の小さな織物を取り出す。

 それは鮮やかな藍染めのリボンだった。あしらわれている繊細な華の柄が時間をかけて作られたことを証明している。

「娘が必死に染めたものです。冬月様に、と」

「………………ええと、ええと」

 冬が非常に引きつった顔でそれを受け取る。

 他人の好意を無下にできない冬では受け取るしかないだろう。

「自分が会いに行くと逃げられてしまうので、とも」

 そのリボンは恐らく想いがこもった本物の品だろう、何故かピンク色のオーラを感じる気がする。

「その、……桜様にはありがとうございますと、お伝え下さい」

 いまや盛大に引きつった顔のまま礼の言葉を述べる。

「ふふふ、確かにお伝えしましょう。娘も喜ぶと思います」

「そ、そうですか」

 麗華さんが非常にいい笑顔で応じる。

 ……。

 ……強く生きろよ、冬。



「……暑い」

「あはは、頑張ってください」

 俺の呻きに輝夜が苦笑で応じる。

 家の中で鬱状態に突入した冬を残し輝夜と二人で再度畑仕事にせいを出しているのだ。

 役割としては輝夜が鍬と鋤で畝を作っていき、俺は冬が仕入れてきた種苗を植えていく。

 本来なら「役割が逆じゃね?」とか思うのだが、三人で力比べや体力比べをした結果、何故か輝夜がトップに輝いたのだ。

 腕相撲の勝負を挑み、結果五十戦五十敗したのは記憶に新しい。

 一応俺も基礎体力は高い方だし肉体は強化されているはずなのだが、それでも叶わなかったのだ。なんの抵抗もできずに輝夜の細腕にねじ伏せられたのは実に苦い記憶。

 あの時はただでさえ薄い俺のプライドがさらに粉々になった。

 ……いや、忘れよう。今でも思い出したら泣きそうになってきた。

 まぁ、とにかく結論として力仕事は基本輝夜が賄うことになったのだ。

「罪業の身体能力はマジでぱねえっす」

「え?」

「いや。なんでも……」

 ……。

 この世界に来てからというもの男としての自身を失いそうである。


 最後の苗を植え終わると、立ち上がりざま腰を捻る。

 コキッ、コキッといい音が鳴る。

「これで一先ずはお終い、と」

「此方も大体耕しておきました」

 応じる声が一つ。

 見れば畑一面が綺麗に耕されている。

「疲れてない?」

「いえ。ぜんぜん大丈夫ですよ?」

「……さいでっか」

 俺の問いにきょとんとして返す。

 先日の俺の苦労を僅かな時間で越えられてしまった。

 ……いい加減心が折れそうだぜ。


 と、輝夜がふと尋ねてくる。

「ところで冬月様は?」

 周りを見回した後、頭を傾げながら問うてくる。

「ああ、どうにも桜さんにどのようにお礼をすべきか悩んでいるよ」

 我が相棒は律儀である。桜さんからのプレゼントにどのようにお返しすべきか心の底から悩んでいるのだろう。

「ええと、ただお返しをするだけじゃ……」

 輝夜の顔には微妙に困ったような笑みが浮かんでいる。

 おお、そうか! 輝夜は冬と桜さんの関係を知らないんだったな。

 まぁ、ぶっちゃけちゃうと……。

「桜さんは冬のことが好きらしいぜ」

「え?」

 瞬間冷凍を食らったかのように硬直する輝夜に事の詳細をばらす。

「桜さんは冬のことが好きらしいぜ♪」

「「……」」

「で、でも、女性同士ですよ!?」

「俺は桜さんじゃないからわからないが。どうにも、ね」

 低く笑い、続ける。

「以前、手篭めにしようと実際に手を出していたからな」

「へ、へ~。そうなんですか」

 輝夜の笑みが盛大に引き攣っているのが意外に笑えてしまった。


 ……。

 農具を洗って仕舞う。

「これで今日のお勤めも一先ず終了。夕方までは寝て過ごすさ」

「それでしたら私は夕食の仕込みでもやっちゃいましょう。先程麗華様が持ってきましたお肉がありますから、それを夕食の一品にしちゃいましょう」

 輝夜が笑みを浮かべながら提案をしてくる。

「いいんじゃないか」

 この世界は生鮮食品の保存技術もあまりにも乏しい。

 生物(なまもの)は早々に処理するに越したことはない。

「うふふ。では本日は煮物ですね。先日冬月様から教わった豚の角煮とやらを試して見ます。残りは干し肉にでもしちゃいましょう」

 最近は塩と胡椒以外にも、砂糖やお酢、醤油(しょうゆ)や味噌、味醂(みりん)を僅かながら作れてきている。

 まぁ、何分知識はあっても工程が未熟で手探りのためまだまだ課題は多いが。

「しかし、調味料というのは偉大ですね」

「だろ! 調味料のない料理なんて炭酸のぬけた温い(ぬるい)コーラみたいなもの!」

「……こーら?」

「……まぁ、そういう飲物が存在するんだ、というよりしたんだ」

「……はぁ」

 と、料理で思い出した。

「そういや、最近料理の腕が上がってきてるじゃないか」

「え? あ、その……///」

 輝夜の頭を撫でる。

 どうにも、輝夜は俺に頭を撫でてもらうのが好きなようで、撫でるといつも気持ち良さそうに目を細める。

 まるで懐いた犬のような奴だ。

「冬月様の指導もいいので」

 ……。

「…………………………………………………………………………指導?」

「ええと………………はい」

 あいつも何だかんだで輝夜とはずいぶんと打ち解けてきた。

 今では言葉通りに料理の「指導」をしている。

 ……。

 遠い目をして、ポツリと一言。

「……指導、ね」

 冬月の料理の知識「だけ」は確かに大したものである。

 ならば、指導と呼んでも問題ないだろう。

 尤も。

「ふ、冬月様も腕は悪くないですよ! た、ただちょっと味覚が他人と変わっているだけで……」

「……ちょっと、ねえ」


 味覚音痴。それも世紀末を代表できるレベルの。

 これが冬の料理下手の原因。

 本人の料理の知識は確かに大したものである。だが、それが伴わないのは本人の、この味覚音痴が輝いているからだ。

 流石は教授(プロフェシオン)の娘。

 完璧に見えてどこか抜けているところがあるのは教授本人にそっくりである。


「ふ、冬月様もがんばってはいるんですよ」

 正直な話、頑張らないでほしいと思う。俺の舌と胃のために。

「ま、まぁ、その努力は認めたいと思う。……できれば結果が伴って欲しいとも思うが」

 あいつの作る殺人料理には一切の悪意がないのはよく知っている。

 まぁ、それだけに逆に(たち)が悪いのだが。

 と、家屋に近づいたその時だ。

 家の中からなにやら声が聞こえた。

「ふふふ、今日という今日はもう逃がしませんよ」

「あ、ダメ! やめて、やめて下さい! そこは……。あ、あああ!」

 それは明らかに食う者(さくらさん)食われる者(ふゆつき)の声だった。


「ふふふ、冬月様の髪と肌。とってもスベスベね。女の私から見ても本当に羨ましいわ……」

「そ、そんなことは……」

「それに、ここも」

 しゅるりと衣擦れの音が聞こえる。

「ふふふ、可愛いふくらみ」

「あ! あぁぁぁ、やめてぇ」

「ふふ、肌が薔薇色に染まってきたわよ。この蕾も可愛いわ」

「あ! あああああああぁ」

 冬の声に()としての艶が出てきている。明らかに嬌声だ。

「柔らかいわ、思わず食べたくなってしまう」

「ひうっ! だ、だめぇ……」

「あらあら、体に力が入らないのね。うふふふ、あの勇ましい冬月様が」

「はぁ、はぁ」

「それにしても、奇妙な布ね。これはいったい何かしら?」

「いやあ。とっちゃダメです。マスターにもまだ見せてないのに。返してください私の……」

「白い肌に黒の肌着。この白いフリフリは本当に可愛いわぁ、冬月様にはぴったしよ」

 ぴちゃっ、と何かを舐めるような音が聞こえた。

「ひううううっ!」

「うふふ。流石に雄矢様が居る手前、膜まで奪おうとは思わなかったけど、今は奪っちゃってもいいかなって思えてきたわ」

「いやあ! それだけは! それだけはダメです! 私のはじめてはマスターと!!」

「あら、略奪愛? ……それもいいわねぇ、ふふ。ほら、いくら嫌がっても体は、ね♪」

 再度、何かを舐めるような音がする。

「あ、ああ、ああああ……」

「うふ、うふふふふ」

 ……。

 ……。

「…………ゆ、雄矢様……」

「あー……。なんと言うか、実にあれな場面に出くわしたな……」

 部外者は、気まずい空気、黙り込む。

 なんか微妙極まる俳句が出来た! でも季語がねえ!

 ……。

 輝夜は真っ赤、俺は……きっと素敵に変な顔になっているんだろう。


「と、とりあえず冬を助けよう。合意の上ではないようだし」

「そ、そうですね」

 お互いに頷く。言葉は無くとも意思の疎通は完璧也。

 息を大きく吸い込み。

「おーい! 今帰ったぜえ」

「冬月様、手が空いているなら夕食の準備でもしませんか?」

 いささか以上にくさい芝居だが文句も言ってられないだろう。

 我が往年の相棒の貞操の危機だ。それも一応とはいえ、この世界に来る前は婚約に近い約束までした仲。見捨てることは出来ない。

 すると中から盛大な舌打ちが響きわたり、同時に鬼気迫るようなピンク色のオーラが消えた。

「「……」」

 再度輝夜と顔を見合わせる。

 恐らく、桜さんは裏口辺りから遁走したのであろう。

 頷き一つ。

 がらっと扉を開けると。

「ま、マスター、ですか……。助かり、ました……」

 全身を薔薇色に染め、息も絶え絶えになった我が相棒が倒れ付していた。


 ……。

「あー……。災難だったな」

「押し倒されてから剥かれるまでの流れるような手際。正直、戦慄の一言でした」

「そ、そうか」

 事実、見つけたときの冬の装いは殆ど全裸。申し訳程度にスカートとブラウスが纏わりついているだけ。ブラとショーツが見つからないところを見ると、桜さんに強奪されたのだろう。

 冬の肉体は準物質による構成体だが、その衣服は俺や教授がプレゼントしたり、自分で選んだりなどの本物だ。当然下着類も。

「まぁ、とにかく服を着ちまえ」

「そうしたいのですが、体に力が入らず……」

 ……おいおい、帝国最強の機動兵器も肉食系女子の前では形無しだな。

「あ……。なら、わたしが」

「……頼んだ」

 輝夜の申し出に頷くと、少女二人に背を向けた。


 冬がいつもどおりのゴシック調の衣服を身に纏う。

 黒地に白のレースとフリルがふんだんにあしらわれたゴスロリファッション。

 下着に関しては竜機神(ほんたい)から予備を持ってきたらしい。

 しかし。

「……桜さんも容赦がない」

 思わず苦笑が浮かぶ。

「ううう」

 俺の言葉を受けて、冬が蹲ってしまった。

 よもや冗談抜きで食われかけるとは……。

 恐らくは心的外傷(トラウマ)クラスの衝撃だろうに。

 というより。

「お前が今まで逃げ回っていたから、桜さんも暴走したんじゃね」

 ……。

 あ。時が止まった。


 トントンッ。

 扉をノックする音が響き渡る。

「すいません、雄矢さんはいらっしゃいますか~」

 この声は麗華さんか。

「居ますよー。どうぞー」

「では失礼します」

 俺の返事を受けて麗華さんが入ってきた。


「彦からの返事を持ってきました。丁度明日の朝に城下町に向かうからご一緒にどうぞ、と」

 麗華さんが優しげな笑顔で報告をしてくれる。

「助かります。場所や時間などは?」

「ええ。時間は明日の朝一で、場所は広場で待っているとのことです」

「わかりました」

 麗華さんには本当に世話になる。

「本当にありがとうございます」

「いえいえ。ああ、後これをどうぞ。先程家におすそ分けがありまして」

 麗華さんは笊を差し出す。笊の上には青々とした野菜が盛られていた。

「お! いいんですか?」

「ええ。家だけでは処分できないので」

 家の食糧事情はまだまだ乏しい。

 狩猟で手に入れた肉、畑で取れた野菜などで賄っているが、そもそもが始めたばかりでいまだ裕福とはいえない。一応「賢者様、どうぞ」と差し入れが割りとあるが、それを含めての食糧事情だ。

 故に、差し入れ多いに越したことは無い。


 と、麗華さんは困ったように笑いながら現在トップクラスのNGワードを放り投げる。

「うふふ。ああ、後桜から冬月さんに伝言があります」

 冬がビクッと体を震わせる。

 一呼吸の後に。

「次は逃がしません、と」

 ……。

 あまりにもといえば、あまりにもなお言葉。

 見れば冬も、顔が真っ青である。

「では確かにお伝えしました」

 麗華さんが微妙に困った笑顔のまま、家を辞した。



「…………ま、マスター」

 背後の冬から声が掛けられる。

 それはさながら地獄の最下層より響くような声だった。

「な、なにかな?」

 咽が渇きながらもどうにか返す。

 なにやら身に危険を感じる。

 おかしい、自宅にいるはずなのに……。

 と、俺が疑問を返した瞬間そのまま冬に押し倒された。

「ふ、冬!?」

「奪われる前に奪ってください!!」

 ……。

 一瞬の思考停止。

 そして、冬の言葉の意味を正確(・・)に理解する。

「「……」」

 一呼吸。

「お、お、落ち着けええええええええ!」

「嫌です、落ち着きません」

「わ! こら、馬鹿! 脱ぐな脱がすな! む、向こうには輝夜も……」

「桜さんに奪われる前に! あの泥棒鳥に越される前に!」

「ちょ、ま……」

「マスター愛しています。やはり略奪愛も時には必要です!」

「おま、桜さんに感化されてるからな! されてるからな!!」

「大丈夫です! 天井の染みでも数えていれば終わります! それに痛いのは私だけ、マスターは気持ちいいはずです!」

「そ、それは明らかに襲う人のセリフ! 後、いつそんな知識を仕入れた!?」

「大丈夫、全て私に任せてください! これでも教授からやり方は教わっています!」

「あ、あのダメ人間んんん!!」

「さあ、ここですね! これをこうして」

「馬鹿、触るな! 後その下着をどうするつもりだあ!」

「マスター! 下着は女の武器です!」

「あ! ダメ! そ、そこは! ら、ら、らめえええええええええ!」

 ……。


 ……。

 最終的には不死鳥の圧倒的腕力による解決で事なきを得た。

 ……。

 思わず天の教授に向かって独白する。


 教授。最近あなたの娘が病んで来ましたよ……。


 僕は将来が心配です……。

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。


ふゆつきがヤンデレにじょぶちぇんじした!(某RPG風


……というより、桜が完全に別人にwww

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