11話 - 家族 - 第一章閉幕
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
卒論や帰省、コミケなどで更新がめっちゃ遅れてしまった……。
さ、さーーーーーせーーーーーん!!
体が全く動かない。
いや、動くには動くが、動かすたびに体に激痛が走る。
横たわっている俺の横では輝夜が巧術で治療を続けている。
いくら巧術でも、ミンチにされた俺の体は一朝一夕では治らない。
とりあえず。
「俺は文句を言っても流石にいいと思うだが、どうだろうか?」
往年の相棒と、先日同居人になったばかりの少女二人に視線を向ける。
前者は完全な無視。
雰囲気は「話しかけないで下さい!この変態!」ってな感じである。
後者は曖昧な笑み。
恐らく「どうしましょう?私が原因ですし……、でも……」ってな感じだろう。
「……はぁ」
横たわったまま、ため息をつく。
存外に重いため息が出た。
やれやれ。
「冬。ちょっといいかい?」
「何ですか?変態ヘタレロリコン主義のペド野郎様」
……。
「いや、うん。まぁ、いろいろと言いたいことはあるけど、ここは我慢しよう」
「殊勝な心がけですね、変態ヘタレロリコン主義のペド野郎様」
顔で笑って、心で泣くってこう言うこと言うんですね。
「例の採取は上手くいったかい?」
「……ええ」
「そうかい、一応畑の基礎は作ってあるから定植などの作業もやるなら早めにやっちゃいたいんだよね。それに塩の精製もあるし」
流石に流せる話題ではないと理解したのか、不承不承こちらを向く。
「そうですね、変態ヘタレロリコン主義のペド野郎様は体が動きませんし、輝夜を借りますよ。畑への定植作業はこちらでやります」
(変態ヘタレロリコン主義のペド野郎様は私の武装の限定顕現の練習も兼ねて、『オブシディアン』で有害物質の除去をお願いします。一応専用のプログラムは組んでありますから、それを走らせるだけです。問題は変態ヘタレロリコン主義のペド野郎様が制御を上手く出来るか出来ないかです)
「了解、上手くやってみるよ。ちなみに言っとくが、俺は変態でヘタレかもしれないが、ロリペドフィンではない」
「是。では、変態鬼畜ドヘタレ皇帝様と呼ぶことにしましょう」
「……」
涙が止まらなかった。
「えと、あの、お二人は何を話しているのでしょうか?」
俺と冬の会話を聞いていた輝夜が恐る恐るといった感じで聞いてくる。
「はい、私とそこの変態鬼畜ドヘタレ皇帝様はこれから一つの事業を立ち上げようと考えています」
「商いですか?」
「是。これをどうぞ」
懐から小さな箱を取り出し、蓋を開けると差し出す。
中には白いサラサラとした粉が入っていた。
あれは……。
「えと、はい」
輝夜は言われるまま、少量を摘み、口に含む。
途端。
けほっ、けほっと咽る。
「これは塩です。イムリの葉から精製したものではなく、岩塩から精製した純粋な天然塩。ミネラル等が豊富で滋養や強壮に効果があるものです」
間違ってはいないが、だますような形で摂取させるとはなんと悪辣な……。
「これは料理等に入れれば、味を調えたり、体調を整えたりと、万事において役に立ちます。そして、これを精製、量産して一稼ぎします」
「けほっ、けほっ、これを、ですか?」
「是)。もちろん貴方にも協力していただきますよ、輝夜」
冬は、宛ら人買いのような、見ようによっては陰惨な笑みを浮かべ宣言する。
「ええ、働いてもらいますとも。ちなみに世には、『働かざるもの食うべからず』という格言があります。ここに住む以上はキリキリと働いていただきますよ♪」
一瞬、冬の背と尻に悪魔の羽と尻尾が見えた気がした。
……。
……気のせいっすよね?
「さあ!キリキリ働いてください!」
「あううう」
外からは冬の楽しそうな声と、輝夜の若干泣きが入った声が聞こえてくる。
現在、俺が作っていた畝に採ってきた種苗を植えているのだ。
……やってるなぁ。
思わず口が笑いの形になる。
冬も今は輝夜に冷たく当たっているが、その内打ち解けるだろう。
冬はああ見えて、軽度の人見知りだ。けれど、それでも何だかんだで面倒を見ているのだ、今は輝夜との距離を測りかねているだけだろう。
元来は優しい娘である、打ち解けるまでにそう時間は掛からないだろう。
「さ、て、と」
座椅子にもたれかかりながら、目の前に置かれている紺碧の結晶に目を向ける。
冬が採取してきた岩塩だ。
俺の視界には、結晶の成分がリストアップされている。
「そのまま口に入れたら、半月も待たずにあの世いきだな」
思わず苦笑いが口元に浮かぶ。
目の前にあるのは、正に毒の固まり以外の何者でもない。
――『オブシディアン』起動準備。
俺の影の中にいる竜機神の本体、その兵装の一つであるナノマシン放射制御装置『オブシディアン』が起動する。
オブシディアンの準備から発動までは基本、全て冬に任せていた。
しかし、今回は俺個人でやらなければならない。
「だりぃなぁ、ちくしょうめ……」
――装填プログラム選択。
――装填プログラム『有害物質除去』を選択。
――使用ナノマシンの選択。
――非殺傷・自己消滅型を選択。
――放射範囲、指定開始。
――放射範囲計算中……。
――放射範囲、指定完了。
――選択プログラムのナノマシンへの入力、開始。
――選択プログラムのナノマシンへの入力中……。
――選択プログラムのナノマシンへの入力、完了。
――ナノマシン準備完了。
――『オブシディアン』起動準備、完了。
ここまでで凡そ十七秒。
その間、俺の網膜にはプログラム言語が滝のように流れていった。
一応、読めば理解できるが、その気もないので全て無視。
冬なら、この過程を僅か百分の一秒もかけずにこなす。
「ま、これは、今後の俺の鍛錬次第だね」
再度苦笑いしながらも、視線を眼前の紺碧の結晶に向けた。
――『オブシディアン』起動。
青い結晶が漆黒の光に包まれた。
竜機神『GAIA』に積まれている最終兵装、戦略級ナノマシン放射制御装置『オブシディアン』が発動している証拠だ。
時間にして僅か一瞬、それこそ瞬き一回分もの時間もない。
気づけば、紺碧の結晶を包んでいた漆黒の光は消滅し、結晶はより澄んだ空色になっていた。
「うん。上手くいったみたいだな」
視界に写された成分表からは有害物質は完全に消えていた。
逆に、天然塩に必須とされる有効成分は全て残っていた。
ちなみに、この時外からは。
「輝夜、あなたはこの二つの豊かな肉の塊でマスターを篭絡しようとしたのですね?」
「うう。冬月様、怖いですよぉ」
「ふん!」
「きゃんっ!」
「…………」
「えと、その沈黙はいったい……」
「…………所詮、私は絶壁のまな板ですよ……」
「冬月様?」
「シャーーーッ!!」
「いやあああ!やめて下さい! ……あっ!駄目、服を脱がせないで下さいー」
……。
……何をやっているんだ、あの二人は。
太陽が天頂に昇り、下る。
すなわち夜が訪れる。
本来は夕食が始まるのだが、昨日祝えなかった分として、身内だけでささやかな宴の席を設けたのだ。
辺りを芳しい香りが漂う。
「マスター、どうですか?」
いつのまに用意したのか、家からは冬が、串の刺さった肉を大量に持ってきていた。
ちなみに、呼び方については土下座をして、説得工作を続けること二時間。なんとか普通に呼んでもらえることに成功と相成った。
「おう!いい塩梅だ」
目の前には岩から凹字型に切り出した専用の焜炉。
凹の開いている部分を上に向け、窪みには熱した炭を入れてある。
でもってその炭であぶるように、串にさした肉を掛けて焼いているのだ。
まぁ、早い話、焼き鳥みたいな物である。
「しかし、便利なものだな、不死鳥の炎は」
「えと、……はい///」
俺の言葉に、輝夜が顔を紅くして照れる。
今回、この炭を作るのも、熱するのも輝夜が即席で行ったのだ。
炎熱を完全に制御できる不死鳥ならではの早業である。
「……マスター、どうぞ」
冬がいい感じに焼けた肉を差し出す。
輝夜を褒めた瞬間、冬から僅かにどす黒い妖気が漂ってきたりもするが、直接的な被害は今のところ出ていない。とりあえずは宴の席である。自重しているのだろう。
「お、おう」
受け取り、齧る。
外はパリッと、中はジュワッと。
噛むたび肉汁が溢れいい塩梅だ。
「うみゃい!」
先程精製した塩も使っている。
それに、これまた何時の間に用意したのか、冬が七味らしきものまで作っていた。
それもアクセントに加え、いい感じの串肉だ。
「美味しい!」
輝夜も、塩で味付けした串肉に感動していた。
「塩一つでここまで味が変わるのは流石ですね」
冬も満足そうにほうばっている。
ここにビールか純米酒か、もしくは焼酎でもあれば言うことなしだ。
調味料での事業が流れに乗ったら、酒蔵を作るのもいいかもしれない。
この世界の酒は酸っぱすぎる、俺の舌には罰ゲーム以外の何者でもないからな。
「うむ、やはり食事はこうでなくてはな」
この世界の食事もダメとは言はないが、それでもやはり故郷の味が恋しい。
このまま、塩以外の調味料もなるべく早めに作ってしまおう。
食事は人の心を豊かにする。
曰く、「衣食足りて礼節を知る」。
間違っては居ない。
人は住むべき場所と食べるべき物を得て、初めて心に安息と充足を得るのだ。
ああ、まったく持ってその通り。
……。
宴が始まってから凡そ二時間。
ひたすら皆で騒ぎつつけた。
流石に、二時間もの時間が経てば静かなもんだ。
「……うむ」
右手に持った杯を傾ける。
酒はないゆえ、果汁を搾り、それを加工したジュースで咽を潤す。
「まぁ、アルコールがないのも、有りといえば有り、か」
爽やかな香りが咽から鼻に流れてくる。
それも今はいいかもしれない。
「「……zzzZZ」」
下からは可愛らしい寝息の二重奏が聞こえてくる。
冬と輝夜だ。
冬と輝夜が俺の膝を枕に、横になって寝息を立てているのだ。
食事の後はいつでも眠くなるものだ。
食事の直ぐ後に寝るのは健康に悪いし行儀も悪い。だが、今回ぐらいはそのようなことも言うまい。
「ははは。今は寝ておけ、明日からは忙しくなる」
空いている左手で二人の髪を優しく撫でる。
長い黒髪の二重奏。
墨のように艶やかで、ビロードのような抜群の触り心地。
「綺麗なもんだな」
こんな美女二人に好意を持たれているのは実に男冥利に尽きる。
再度、杯を傾ける。
「そうだな、俺の苗字を使おうか。どうせこの世界ではあまり使う機会もないのだろうし」
元の世界では意味のあった苗字も、この世界ではあまり意味がないようである。
せいぜい苗字のようなモノがあっても、それは「何処の町」や「何処の国」出身の、という意味でしかない。
自らの家族の名前ではないのだ。
だからこそ、今一度おれの苗字に意味を持たせるために、俺の苗字を使おう。
そして、得た苗字は、冬と輝夜にも家族の絆として渡してやれる。
「……そうだな、『藤乃宮商会』なんてどうだろうか」
うん、どうせ冬は文句は言えど反対はしないのだろうし、輝夜はそもそも反対するということさえ考えないだろう。
だから。
「明日からは、『藤乃宮商会』三人で忙しくなる」
新しい家族を作ろう。
俺の手で。
往年の相棒の頭を優しく撫でる。
「我が相棒にして機械仕掛けの竜神よ、汝と我に祝福あれ」
新たな家族の頭を優しく撫でる。
「我が新たな家族にして炎の不死鳥よ、汝と我に祝福あれ」
今宵は満月。
欠けることなき黄金の月はまるで、俺たちの門出を祝福しているようでもあった。
故にこそ最後に杯を掲げ、天上の満月を仰ぎ見て謳った。
「我ら三人の新たな旅路に、無限の祝福あれ!」
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輝夜さんですが、分かりやすく言うのなら外見が蓬莱山○夜で能力が藤○妹紅と考えていただければ……。