09話 - 不死鳥
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
私の記憶に残る一番古い記憶は、暗い暗い竹林の中で泣いていたこと……。
私の名前は輝夜。
村の戦頭を務める、父安樹の養女だ。
幼い頃に今の養父に山中の林で保護されたという。
その時、近くにあったのは事切れた実父らしき者の骸と、私を包んでいた、「輝夜」と名の刻まれた布だけだった。
それを見つけた養父の安樹は、そのまま私を拾い育てることにしたという。
養父に拾われ、村に迎えられた私は他の村娘と同じように育てられた。
拾われた子であった私も村は温かく迎えてくれた。
小さな村であったが故に存在していた助け合いの精神が私を助けたのだ。
しかし、時が過ぎ成長していくごとに他の者との違いが浮き出てきた。
最初に気づいたのは肌が焼けなかった事だ。
皆と同じように畑仕事をし、山の中に薬草や山菜を取りに行った。
他の年頃の娘達を外で遊んだりもした。
けれど一切肌が焼けなかったのだ。
皆が健康的な小麦色に焼けていく中で、ただ一人生まれたままの白い肌だったのだ。
別にそれがいけないという訳でもないし、世の中には肌が焼けにくい人も居るという。
皆も気にしなかったし、私自身も特に気にしなかった。
……。
私は自分が他の者と違うと微かに気づき始めたのはそれから暫く、歳にして十歳になるかならないかといった時だろう。
その年の冬は雪が多く、また体の芯から凍ってしまうような冷たさだった。
私はその寒さに耐えかね囲炉裏に手を翳したとき、うっかり紅くなり熱を放っていた炭に触れてしまったのだ。
それを見ていた養父が急ぎ私の手を雪に突っ込んだため気づかれなかったが、……私には全然熱く感じなかったのだ。
その後、養父の目を盗み直接燃え盛る火に手を入れてみたが、……火傷をすることはなく、逆に安らぎを感じたのだ。
私の体が他のものとは違うと決定的になったのは十三の時、狩から帰って来た養父の剣を受け取ったときだった。
養父の荷物を持とうと剣を受け取ったとき、鞘を固定していなかった剣で腕を大きく切ってしまったのだ。
腕の骨が見えるほどに深く。
……。
養父も私も慌てたが、本当に驚くことはその直ぐ後に起ったのだ。
なんと、傷がひとりでに塞がり始め、五秒後ぐらいには傷痕さえ残らずに完治したのだ。
励術の上位である巧術でもこれほどの速度での治癒は不可能。
私は他の者とは違う、と思っていたが、流石にこれには私自身も驚きで声が出なかった。
だが、それ以上に養父も一瞬、何が起ったのか理解できないという顔をしていたが印象的だった。
人は自らが理解できないものに対し恐怖を抱く。
……。
それから養父との関係はギクシャクし始めた。
養父は私との関係に悩みだしたのだ。
養女として扱うのか、異形の存在として扱うのか。
異形の存在は災いの種にしかならない。故に、もしも異形の存在であるのなら村の戦頭として始末しなければならない。
……。
暫くそのような関係が続いた。
一度など、養父に障ろうとしたら手を払いのけられたこともあった。
……。
私自身は、しょうがないという諦めもあったゆえ、それほど傷つかなかった。
……。
……。
傷ついていないつもりだった。
……。
けれど、やはり伸ばした手を払いのけられたことは私の心に闇を落としていた。
……捨てられた過去。
……払いのけられた手。
……。
幼かった私の心に深い傷を残すには十分すぎた。
今でも、人に触れようとするのが怖いし、触れられるのも怖い。
誰かに頼っても、いずれ捨てられるのではないかと……。
……なぜ、私は普通の人間ではないのだろうか?
こんな力や体質は要らなかった。
普通の人間としての体が欲しかった。
養父の目を盗み、涙を流したのは一度や二度ではない。
異形の者を見る養父の目を見る度、私の心に亀裂が走っていくのが分かる。
暫くして遂には耐え切れず、養父の家を飛び出し近くの空き家で過ごすようになった。
死ねば楽になれると考えた時期もあった。けれど、それでもやはり死ぬことが怖くてみっともなくあがいた。
食べる物は森の山菜や茸が主であった、それでも食べる物がない時には木の根や泥水をすすることもあった。
そして年齢が十四になる頃には異常な力がついに現実になって現れた。
……私は火や熱を自在に操れるようになったのだ。
……。
最初は方術かと思った。
だが、私自身が発現した『術』は養父と同じ励術だった。
そして、養父から聞いていた『術』の話しを思い出し自分の力が方術とは全く異なる異常な力だと理解した、理解できてしまった。
二年ぐらいして、養父も自分自身の思考に決着をつけたのか以前のように接してきたが、既に私と養父の関係は完全に別物になっていた。
また私自身も人と接するのが怖くて、人が来ると逃げるようになっていた。
……。
……。
そして私の年が十六になったとき、村がジェヴォーダンの群れに襲われるという事件が起きた。
養父は私の前で金色の獣に食い殺された。
一人で暮らしていた私の元に養父が駆けつけたのだ。しかし、運悪く同じくして近くにいた黄金の獣に襲われることになったのだ。
私も養父と同じように死を覚悟した。
けれど、獣は私に貌を近づけ臭いをかぐと去っていってしまった。
けれど、私はこのときに思ってしまった。
私の秘密を知る人間が死んで良かった、と。
……。
父と呼べる人間が死んで悲しかったのは事実だ。涙が溢れて心が押しつぶされそうになったのも事実。けれど、私の手を払いのけた相手が死んで、……私の秘密を知る唯一の相手がしんで、安堵したのもまた事実なのだ。
なんて私は醜いのだろう……。
……。
そして、出会った。
雄矢と名乗る一人の男の人に。
最初は声を掛けられて驚いた、けれど不思議と怖くなかったのだ。
私は村の中でも腫れ物を扱うように扱われていた。
私の秘密がばれていたのではない。しかい、戦頭だった養父が扱いに困る娘として村の中でも有名だったのだ。
……悪い意味で。
だからこそ、私に堂々と話しかけてきた相手は新鮮だったのだ。
そして、頭をなでられたとき私の胸の中で温かい何かが疼いた。
これが人と接することなんだ、って。
やはり雄矢様が心配で追ってきてしまった。
元々私は身体能力がそこそこ高かったし、そこに励術を組み合わせることで雄矢様や洸樹様の後を置いてかれることなくついていくことが出来たのだ。
「……」
遥か遠くで森から火が上がっているのが分かる、それと戦闘が始まっているのも。
私は炎を操る力に目覚めて以降、熱を感じる力にも目覚めていた。ゆえに、遠くで火の手が上がったことも、同時に 皆が命を燃やして戦っていることも手に取るように分かるのだ。
それに、作戦が説明されたときにその場に居たため何が起っているのか凡そ分かる。
今頃は雄矢様や多くの者が命を賭けて戦っているのだろう。
「……どうか無事で」
胸の前で両手を組み、祈る。
だが、心の内に宿る曇天は晴れない。それどころか、ますます曇っていく。
「……」
目を閉じ祈り続けるが、それでも不安は色濃く滲んでいく。
「やはり……」
心配です。と、語尾は宙に溶けた。
自らを襲っている不安がなくならない。
ついには。
「っ!」
一瞬脳裏に何かが閃く。
いや、何かではない。
それが何かは理解できた。しかし、それを信じたくなかったのだ。
……雄矢様の死、など。
いよいよ不安が身を蝕み始める。
「っ、雄矢様!」
不安が恐怖を呼び、恐怖は恐慌を来たす。
タッ。
気づけば全力で雄矢様がいる方向へ駆けていた。
自らの身体能力と励術を組み合わせた、常識外の速度で駆ける。
自らを突き動かすのは、失うかもしれないという恐怖、二度と会えないかもしれないという恐怖。
隣村一番の励術師である洸樹さんですら到達できない速度で大地を疾走した。
―――冬月―――
蒼空の中一人佇む。
遥か下の大地に目を向ければ、その大地を一人の少女が走っているのがわかる。
膝下までありそうな長い艶やかな黒髪をなびかせながら、人外の速度で疾走している。
向かう先は。
「……マスターのところ、ですか」
眼下の少女からはマスターに対する敵意は一切感じられない。それどころか、その身からはマスターに対する多大な好意と僅かな恋慕を感じる。
……。
「マスター、後でミンチですね」
口からどす黒い妖気が漏れた気がしたが、気にしないことにした。
「しかし……」
……人間型の罪業、それも異能持ちですか。
相当に稀少な存在だ。
それに、あの娘の身体情報が示した異能は恐らく……。
……。
「まぁ、人外に好かれるのはマスターの運命ですね」
くすりと、笑いが漏れる。
そもそも、マスターが空軍から技研に移籍した際の条件が「エースパイロットとしての空戦能力、作戦遂行能力」それに「竜機神等の人外の者に対する相性」だ。
事実、マスターは人間の女性より、私や生研の妖精などの人外の者の多くに好かれていた。
本人は「もてない!」などと嘆いていたが、人間以外からは意外と「もてていた」のだ。
とくに生研の風音などはベタボレだった覚えがある。
ゆえに、あの罪業の娘に好かれていたとしても、そう驚くことではないだろう。
……。
心の底から、気に食わないが。
「さて、マスターのところはとりあえず、あの娘に任せましょう」
背に『ラピスラズリ』の推力を顕現させる。
マスターには今の所は無理だろうが、慣れれば竜機神の武装の力も限定的ながらこの世界に呼び出すことが出来る。
私個人としても、マスターのところに駆けつけたいが……。
「ひとまず、命令を遂行しましょうか」
マスターからは固有チャンネルと通して、「洸樹さん達の方に行って貰いたい」と言われている。
私の観測能力は三人の無事をはっきりと示しているが、命令を受けた以上、遂行するのが義務というもの。
「……桜様には会い辛いですね」
微妙に引きつった顔のまま、背から薄く蒼い光の翼を発して、飛翔した。
―――輝夜―――
超高速で空を翔る。
炎翼から発された爆発的な推力と、大気の熱を操って作り出した気流の路を滑ることで擬似的に宙を飛翔する。
なぜこんなことが出来たかはわからない。でも、大地を駆けるのがもどかしく、空を飛びたいと願った瞬間にこの方法が頭に浮かんだのだ。
本能的なもの、としか言えない。
やがて、見えたその光景に思わず悲鳴を上げた。
「雄矢様!!?」
私が無事を望んだ方は、片腕が拉げ、胴に穴が開き、夥しい血を流しながら大地に倒れ付していた。
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つーか、タイトルがまんま答え……
輝夜は作中では相当なバランスブレイカーですww
……。
しかし、やはりヒロインは黒髪ロングですよね!作者はなが~い髪が大好きです!!
以上、ヒロインは黒髪ロング人外派の作者でした!