第4話:面白い女(Side:ロベルト①)
宮殿の大会議室。
最も位が高い"王の間"にも匹敵するほど広く、白と青を基調とした内装が清廉潔白な印象を醸し出す。
部屋の中央には黒檀の長机が置かれ、一番奥には国王――リデール王が座す。
王に続き、宮殿の上層部がそれぞれ座る形である。
席順にも厳密に意味があり、リデール王に近いほど王に次いで権力が高いこと――つまり、宮殿内での地位を示した。
ロベルトの席は、王の右側に当たる上座。
すでに集まった各省の大臣をも超える、重鎮中の重鎮であった。
全員が座したのを見て、進行役の大臣が告げる。
「……では、これより軍事会議を開始させていただきます。まずはシュナイダー卿、フリナ渓谷で発生したガルダリス帝国との武力衝突について、報告をお願いいたします」
「承知した」
ロベルトが長机に魔力を込めると、空中にフリナ渓谷――国境付近に広がる渓谷――の立体地図が映し出された。
そのまま、数日前に発生したガルダリス帝国による国境侵犯の顛末を報告する。
リデール王国との国際関係は日に日に緊迫しており、国境付近では軽い武力衝突が増え始めた。
無論、追い返すことが目的だが、加減を間違えると"報復"と捉えられ、侵略の口実にされる恐れがある。
国境の部隊から報告を受けたロベルトは、地形をうまく活用した立ち回りを指示することで、帝国側に事故を誘発。
必要以上の攻撃を仕掛けることもなく、撤退を余儀させたのだ。
報告を受けたリデール王は長い白髭を撫でながら、ホッとした様子でロベルトを労う。
「シュナイダー卿、帝国を刺激せんように配慮してくれてありがとうの。あやつらはとんと好戦的じゃから、どんな些細な出来事が刺激になるかわからんのじゃ。やはり、お主は我が輩の極めて重要な右腕じゃな。これからもよろしく頼むぞ」
「ありがたきお言葉を誠にありがとうございます、国王陛下。この身朽ち果てるまで、王国の平和に捧げます」
リデール王の労いの言葉に、ロベルトは首を垂れる。
ガルダリス帝国の国土と人口はリデール王国のおよそ1.5倍だが、魔法技術はこちらの方が優れている。
全面戦争となれば、双方に大変な被害が生じる。
それもまた、ガルダリス帝国が侵略を躊躇する理由の一つであった。
追加で二、三の議題を検討し、会議は終了となった。
ロベルトはリデール王に挨拶した後、部屋を出ると、宮殿の一角にある騎士団の庁舎に向かう。
道中の廊下で何人かの官吏や女官とすれ違ったが、みなロベルトを見ると瞬く間に壁際に逃げ、怖じ気づいた様子で頭を下げた。
その度に、ロベルトは他の誰にも聞こえないような小さいため息を吐く。
他の男性より頭一つ高い身長や、鍛え上げられた肉体、顔に刻まれた醜い傷、何より"魔法騎士なのに魔法を使わない"という自分の"過去"に基づく戦い方……。
それらが人を食べるといった、様々な"噂"を生んだ。
数多の噂は一人歩きする度に増長し、いつしか自分は周囲に恐れられる存在となった。
――すっかり慣れてはいるが、やはりあまり良い気分ではないな。
……などと考えながら歩く頭に、思い出されるのはセシルのことだった。
――そういえば……あの女はこのような態度を一度も取らなかった。
呪文詠唱記録官として基礎的な知識を説明するときも、別室で事故の検討を行っているときも、一時もその栗色の目を逸らすことはなかった。
震えたり怯える様子もせず、真正面から話した。
今まで、自分に対してそのような毅然とした態度で接する女性はおろか、人間は一人もいなかった。
今し方話した女性のことを考えると、自然と頬が緩む。
――自分の目で見たことしか信じない……か。セシル・ラブルダン、あいつは面白い女だ。
ロベルトの頭には、たしかにセシルに関する興味深い印象が刻まれた。




