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最終話(第27話):思い

 ――魔法騎士のロベルト様が魔法を使わない理由……。これは、生半可な覚悟じゃ聞いてはいけない話だ……。


 今から本人の真髄に関わる話をされるのだと、セシルは心を準備する。

 夜風が凪ぐのを待っていたかのように、ロベルトは静かに話し出した。


「幼少期、私は魔法が好きだった。代々、優秀な魔法騎士を輩出してきたシュナイダー家の名に恥じぬよう、子どもの頃は懸命に魔法の修行も積んでいた。将来は剣術も魔法も強い、どんな敵からもこの国を守れる魔法騎士になるのだと信じて疑わなかった。そうあの日までは……」


 隣で夜の王都を見るロベルトの表情は、月明かりの中でも険しいものとわかる。

 今まで見ないよう努めてきた辛い過去、思い出したくない記憶。

 そういったものと正面から向き合っているのだと、セシルにはよく伝わった。


「ある日、シュナイダー家で大規模な魔法事故が発生した。使用人が呪文詠唱の選択を間違えたんだ。その日は昼食会が開かれる予定で、昼食を用意する過程で魔法事故が起きた。全てを飲み込むような真っ赤な炎が燃え盛り、人々が逃げ惑うあの光景は今でも鮮明に目に焼きついている。家族にも被害が出て、結構な騒ぎになったものだ。それ以来、私は魔法が怖くなり……嫌いになった。こんな危険な力は二度と使うものかと、心に固く誓った」


 二人の間を夜風が吹き抜ける中、セシルは何も言わずにロベルトの話を聞く。


「大人になれば変わるのかと思ったが、魔法に対する意識は変わらなかった。私にとって、魔法とは他人を傷つける危険な忌み嫌う存在でしかない。だが、ずっと目標だった魔法騎士になる以上、誰よりも強さが求められる。だから、何があっても剣術のみで敵を倒すことに執着した。周囲から"血の申し子"などと呼ばれようともな」

「そう……だったのですか……」


 そこで話は一旦途切れ、二人を静寂が包む。

 ロベルトが魔法を使わない人生を選ぶに至った背景。

 ずっと誰にも話さず内に秘めた想いを聞き、セシルはロベルトの苦しみが身に染みるようだった。


 ――子どもの頃に、そんな辛い出来事があったなんて……。ずっと苦しかっただろうに……。


 魔法騎士なのに魔法を使わない。

 その道を選び、生きるのは想像もできないほど厳しかったと思う。


「だが、私はセシルに出会って魔法に対する理解が変わったんだ。文字通り、セシルは私の人生を変えてくれた」

「私が……でございますか?」


 思わず問い返したセシルが見上げると、ロベルトの優しい微笑みがあった。


「本来、魔法とは人々を幸せにする力。毛嫌いして遠ざけてばかりでは、その素晴らしい可能性もなくなってしまう。人生から完全に排除するのではなく、きちんと注意深く使えばいい。そんな簡単なことにようやく気づくことができた。セシルのおかげで、私はもう一度魔法に向き合える。だから、ありがとう、セシル」


 そう言って、ロベルトが呪文を詠唱しながら手をかざすと、空中に様々な動物の幻影が現れた。

 ユニコーン、ペガサス、グリフォンにフェンリル……銀色に輝く伝説上の動物が、優雅に空中を飛んでは煌めく霧を降らせる。

 芸術ともいえる美しい光景に、セシルは目を奪われてしまった。


「すごい……綺麗……。発動するのがとても難しい魔法ですのに、こんな綺麗に使えるなんてさすがです……」

「私なりのお礼だ。……さて、話の流れで何だが……君はもう、"行き遅れ"などと自分を卑下しなくて済む。もちろん、受け入れてくれた場合の話だ」

「えっ……? す、すみません、それはいったいどういう意味でしょうか」


 突然、まったく別の話をされ、セシルは混乱する。

 そんな彼女に、ロベルトは耳の先まで真っ赤になりながら精一杯の気持ちを告げた。

 

「要するに……私はセシルが好きだということだ」


 最初は、何を言われたのかわからなかった。

 だが、徐々にその言葉の温かい意味が胸に浸透する。

 心が幸せで満たされ溢れそうになったセシルは、満面の笑みで応えた。


「私も……ロベルト様が大好きです! 何があっても、どんな悪意からも私を守ってくださるロベルト様が……!」


 煌めく霧の中、二人はどちらからともなく力強く抱き合う。

 愛する男性の背中越しに見える満月は、自分たちの幸せを祝すように輝いていた。

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