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第25話:対峙

 襲撃犯の中にアリシアがいた。

 衝撃的な事実ではあるが、セシルの心中はあくまでも冷静だった。

 厳しい視線を向ける中、当のアリシアも落ち着いた様子で語る。


「おや、あまり驚いていないみたいですね。やっぱり、私を怪しんでいたってことですか?」

「ええ、そうね。まさか、あなたが帝国の関係者なんて未だに信じたくはないけど」


 二人の間に沈黙が横たわる。

 数で勝っているというのに他の襲撃者は動かないことから、アリシアがリーダーなのだとわかった。


「……どうして、私が怪しいと思った?」


 アリシアは敬語を使うことはなく、尋ねる。

 自分たちはもう昔の関係には戻れないのだと、セシルは静かに悟った。


「決め手は"メイク・ティークラブ"への潜入調査だったわ。アリシアとクレイと手分けして調査した17人の患者。あなたが担当したのは5人。そのうち4人はサロンに参加したことがないと言ったわよね。でも、4人ともサロンにいたわ。何度も参加しているとも言っていた。そこで、あなたが呪文詠唱Aとサロンの関係性を誤魔化すために嘘を吐いた可能性が浮上した。そこから、今まで気にも留めなかった点が怪しさを持ち始めたの」

「……ふむ、続けてみろ」


 以前の穏やかな微笑みや天真爛漫さ、明るさは完全に消え失せ、アリシアの顔には強い憎しみや怒りの感情ばかり溢れている。

 自分を慕ってくれた後輩の本性が明らかにされていくようでセシルは心が辛かったが、言葉を止めるつもりはなかった。


「あなたは私の代わりに何度も地方出張に行ってくれたわよね。ガルダリス帝国との国境に近い北東地域に。表向きの理由は、呪文詠唱に興味があってしょうがないし、仕事がたくさんあった私を助けたいから。だけど、本当は違う。呪文詠唱Aが流行していることを、私や記録部に把握させないためだった」

「ご名答、仰るとおりだ。よく分析したじゃないか」

「"メイク・ティークラブ"で呪文詠唱Aを流行させたのは、流行に敏感な令嬢を媒介にして王国の風土に定着させるため」

「それもご名答。"流行りの言葉"だと教えれば、あいつらは意味もわからず喜んで詠唱してくれたさ」


 セシルの分析を、アリシアは笑いながら認める。

 まったく焦らず余裕を漂わせる様子から、セシルが計画を暴いても問題ないと認識していることが伝わった。


「そして、呪文詠唱Aを密かに流行させる場所として、あなたは"メイク・ティークラブ"を用意した。気がつかないうちに流行らせて、王国の風土に定着させるためにね。サロンの設立は、あなたがザグル様に頼んだんでしょ?」

「ほぅ、なぜわかった?」

「"メイク・ティークラブ"とアリシアの入職時期はほぼ重なるから、。女性好きで有名なザグル様は、アリシアみたいな可愛い子の言うことは何でも聞いてくれた。……それで、口封じのためにザグル様を襲撃した」

「低俗なのは令嬢だけではない、ザグルもそうだ。適当に調子の良いことを言ったら、何の疑問も抱かず言うとおりに行動してくれたよ。ははっ、この国の教育水準が心配になるな」


 アリシアの笑い声に、彼女の仲間も肩を揺らして賛同する。

 味方が一人もいない状況だが、セシルの言葉は止まらない。


「あなたの仲間たちは"劇団灯影座"のメンバーたち……違う? "劇団灯影座"が劇中で呪文詠唱Aを唱えながらお茶を淹れるのは、宮殿の外からも呪文詠唱Aを流行させるため。つい真似したくなるわよね」

「さすがにわかっていたか。……おい、答え合わせをしてやれ」


 アリシアが指を鳴らすと、ハインツの他、劇で見た俳優たちがフードを脱いで姿を現す。

 いずれも、部隊上で見たような柔らかな雰囲気は微塵もなく、それもまたセシルは悲しかった。


「さて、もういいだろう。セシル・ラブルダン、お前を殺せば帝国の侵攻はより円滑になる。……さあ、あの女を殺せ! 我らが帝国の障壁になる女だ!」

「「御意」」


 冷徹なアリシアの掛け声で、今まで動かなかったハインツと俳優たちが動き始めた。

 手元には重く光る剣を携え、前と後ろからセシルに向かって駆け出す。


 ――くっ……どうしよう……。ロベルト様たちとの待ち合わせ場所までは、まだだいぶ距離がある。戦うしか……ないわね。


 セシルが覚悟を決めたとき。

 ハインツたちは全員、何者かに吹き飛ばされた。

 地面や壁に身体を強打し、一瞬で意識を刈り取られる。

 呆然とするセシルを守るように、ふわりと大柄な男性が舞い下りた。


「怪我はないか、セシル」

「ロベルト様!」


 助けに来てくれたのは、ロベルトだった。

 大樹のような背中は生命力に溢れ、銀色の美しい髪は暗闇を照らすように月明かりに反射する。

 比喩でも言葉の綾でもなく、不安や恐怖に囚われた自分を照らしてくれた。


 ――もう、何があっても大丈夫だ。だって、ロベルト様が来てくれたから……。


 セシルの心からは不安や恐怖は消え、代わりに温かな安心感で満たされた。

 王国魔法騎士団長という類い希な強者を見て、アリシアの表情が変わる。


「君のおかげで、拘束するのに十分過ぎる根拠を集めることができた。……さて、呪文詠唱記録部一般記録官、アリシア。セシル・ラブルダン嬢に対する殺人未遂の現行犯、及び国家転覆罪の疑いにて拘束する」

「馬鹿にするな、王国の犬め。我が帝国の手に掛かれば、貴様らなど……っ!」


 瞬きした瞬間、ロベルトはアリシアの鳩尾に峰打ちを喰らわせていた。

 目で追えないほどの猛烈な速度だ。

 アリシアはぐたりと崩れ落ち、セシルは急いで駆け寄った。


「ロベルト様……ご無事ですか……!」

「ああ、私は問題ない。アリシア嬢も峰打ちだから、時期に目が覚める。今日は難しいだろうがな」


 ロベルトは静かに言いながら、アリシアを地面に寝かす。

 気絶した彼女の顔は、自分を慕ってくれる後輩そのもの顔だった。

 どうして、こんなことになってしまったのだろうと、セシルは辛く思う。


「でも、待ち合わせ場所はまだ先だったのに、どうして助けに来てくれたんですか……?」


 そう尋ねると、ロベルトはフッと小さく笑った。


「何があっても君は必ず守る。……そう言ったじゃないか」

「ロベルト様……ありがとうございます……!」


 心がいっぱいになり、セシルはその力強い胸に飛び込んだ。

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