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第24話:作戦

 翌日の昼頃、記録部の主室にて。

 セシルはユルゲンに、呪文詠唱Aに関する現状を説明していた。


「……ということで、ほとんど全容が掴めてきました。呪文詠唱Aは"紫呪病"の原因で間違いありません。しかも、開発したのはガルダリス帝国の可能性が濃厚です。呪文詠唱Aの流行について、これまでの調査結果から、私は帝国が行っている侵略計画だと考えています」


 いつの間にか室内は静寂に包まれており、その場にいる誰もが固唾を呑んでセシルの話を聞いていた。

 ユルゲンもまた強い衝撃に襲われ、緊張と恐怖で喉が渇く。


「ガ、ガルダリス帝国の侵略行為……だと? まさか、そんな……」

「シュナイダー卿を通じて国王陛下にも進言しておりますが、宮殿の上層部を説得するにはもう少し調査が必要です。北東の国境付近にある街でも、呪文詠唱Aは流行していると考えられます。なので、騎士団とともに北東に遠征する許可をください。北東における調査を以て、正式に報告書を出そうと思います」


 ユルゲンが拒否することはなく、その場で遠征は決まった。

 セシルが自席に戻ると、すかさずクレイとアリシアが駆け寄る。

 二人とも、極めて心配そうな顔だ。


「セシル先輩、呪文詠唱Aと帝国が関係あるって本当ッスか? しかも、侵略って王国の一大事じゃないッスか」

「私、すごく怖いです。まさか、自分の知らないところでそんな恐ろしい計画が進行していたなんて……」

「二人とも、怖がらせてごめんなさい。でも、まずは落ち着いて。まだ確定したわけじゃないわ。確定させるために、私がこれから調査に行くのだから」


 そう伝え、諸々の準備を進めていると、クレイとアリシアが覚悟を決めたような表情と声音で告げる。


「セシル先輩、俺も……ついて行っちゃダメッスか。いや、ついて行きたいッス。北東地域なんて帝国の目と鼻の先でしょ。そんなところに行くなんて危険極まりないッス」

「そうですよ。私も連れて行ってください。新人でも雑用係くらいはできます」


 クレイとアリシアはセシルの身を案じて嘆願するが、当のセシルはゆっくりと首を横に振った。


「ありがとう。でも、そういうわけにはいかないわ。あなたたちが危険な目に遭ったら、それこそ大変よ。それに、護衛の騎士団がいるのだから大丈夫よ。王国の騎士たちの強さは、二人もよく知っているでしょう?」


 セシルが諭すように言うと、クレイとアリシアは渋々ながらも頷いた。


「……ちゃんと元気に帰ってきてくださいよ。死体になって帰ってくるとか洒落にならないッスからね」

「セシルさん……どうかお気をつけて……。無事を祈ることしかできませんが、精一杯祈っています」

「ありがとう、二人とも。絶対無事に帰ってくるからね」


 騎士団の準備もあるため、北東地域へは今夜出立することになった。



 □□□



 夜が訪れ、辺りがすっかり暗くなった頃。

 寮を出たセシルは、騎士団の兵舎に向かっていた。

 警備の騎士たちにすれ違うたび挨拶をしながら歩を進めると、宮殿の一角で立ち止まる。

 

「ちょっとだけ、近道をしようかしら。警備の騎士の方たちもいるから大丈夫よね」


 そう呟いて、セシルは建物の裏に進む。

 外灯に照らされた表通りに比べ、裏通りはさらに暗い。

 警備の騎士も巡回しているはずだが、タイミングの問題なのか誰にも会わなかった。

 コツコツと歩く音がどこか不気味に響く。

 ……いや、これは……。


 ――誰かにつけられている!?


 慌てて後ろを見るが、暗闇が広がるだけで何も見えない。

 近道は失敗だったかと思い走り出したとき。

 ひゅう、という風切り音が微かに聞こえ、セシルは咄嗟に横に飛んで避けた。


「……っ!」


 雲間から差し込んだ月明かりに矢先が光り、矢を撃たれたのだとわかった。

 さらに続けて、後方の暗がりから男の声が飛んでくる。


「セシル・ラブルダンだな?」


 低い男の声に自分の名前が呼ばれる。

 ただそれだけで緊張感が高まり、心臓が激しく鼓動を始めた。

 セシルは何も答えず、少しずつ後ずさる。

 暗がりに浮かぶ人影は五人ほどに見えた。

 おそらく……いや、ほぼ確実にザグル襲撃犯とその仲間だろう。

 呪文詠唱Aを調べる自分に対し、とうとう直接危害を加えようとしてきたのだ。

 即座に、セシルは人影とは反対方向に駆け出した。

 敵は手練れの人物と考えられるが、勝算はある。


「足の速さと強さには自信があるんだから……!」


 セシルは地面を強く蹴り、さらに加速する。

 記録官として生きてきて、ほぼ10年。

 事務仕事の他、数え切れないほどのフィールドワークもこなしてきた。

 特別な民族が持つ地方詠唱を記録するため、険しい冬山を登攀したり、泥だらけになりながら密林地帯を進んだりと、肉体的にも精神的にも厳しい経験を積んだ。 

 だから、セシルは意外にも身体能力に優れていたのだ。

 岩ばかりの冬山やぬかるんだ密林地帯に比べれば、整備された宮殿の敷地はむしろ何段階も走りやすい。


 ――このまま、待ち合わせ場所まで誘導する!


 複雑な裏通りの地理は頭に入っている。

 後は、つかず離れず逃げるだけ……。

 だが、セシルの目の前に何本もの矢が突き刺さり、立ち止まらざるを得なかった。

 十メートル先の正面には、また別の三つの人影が浮かぶ。

 挟み撃ちだ。


 ――……まずいっ! 予定より、だいぶ手前の場所で捕まってしまった!


 立ち止まるセシルに、前と後ろから襲撃者が迫る。

 正面の中央に立つ女の顔が、月明かりに薄っすらと浮かび上がる。

 その顔を見たセシルは、衝撃も驚きも感じなかった。

 なぜなら、予想していた通りの人物だったから。


「やっぱり、あなただったのね………………アリシア」

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