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第21話:サロンへの潜入

 翌日。

 "メイク・ティーサロン"の月例会が訪れた。

 すでに、セシルと令嬢に扮したロベルトは、会場である大応接室の前にいる。

 扉越しに賑やかな声が聞こえるので、サロンの盛況ぶりが伝わった。


「……いよいよ、この日が来ましたね。準備はよろしいですか?」


 隣のロベルトに話すと、小さな頷きが返ってきた。

 セシルは今一度深呼吸し、気持ちを落ち着かせる。

 意を決して扉を開いた。

 床にはシックな赤絨毯が敷かれ、天井からは何台ものシャンデリアが室内を明るく照らす。 柔らかなソファには多数の令嬢が座り、互いのお茶の腕前を競っているようだった。

 入ってすぐ受付があり、まずは手続きを済ませる。


「こんにちは、見学に来たセシル・ラブルダンとマリー・シャルトーです」

「こんにちは、よく来てくださいましたわね。どうぞお好きなテーブルに座って、会話に入ってくださいまし。皆さん良い人ばかりですから、温かく迎え入れてくれますわよ」


 受付の令嬢は穏やかな表情でセシルとロベルトを迎えてくれた。

 サロンの見学については事前に申請していたが、無事に受理されるか少しばかり不安だったのだ。

 会場に入ったセシルは、素早く全体像を確認する。


 ――参加者は……ざっと数えて50人手前くらいかしら。サロン全体の人数とほぼ同じ。ニーナとペトラさんは……見当たらないわね。


 席を選ぶフリをしながら、令嬢たちの会話に耳を澄ます。

 どのテーブルも呪文詠唱Aを唱えてから、お茶をおいしく淹れる魔法や、ティーポットの温度を一定に保つ魔法などを発動していた。

 この光景を、セシルはつい最近目撃した。


 ――これは……"劇団灯影座"の夜会のシーンと同じだわ。


 お茶を淹れる動作など極めて日常的で、劇の一場面と重なったからといって何もおかしくはない。

 そう、呪文詠唱Aの存在さえなければ……。

 セシルは傍のロベルトとアイコンタクトを交わし、二人の令嬢がお茶を愉しんでいる席にアプローチした。


「ご歓談中、失礼します。今日、初めて参加したのですが、ご一緒してもよろしいでしょうか」

「ええ、どうぞ。私たちの席に来ていただいて光栄ですわ。ぜひ楽しんでいってくださいね。私はルイーゼ・ベーメンと申します」

「今ちょうど、茶葉の次なる名産地について談義を交わしていたところですの。あなた方の意見も聞かせていただけたら嬉しいですわ。リサ・パルマーです、どうぞよろしく」


 二人の令嬢――ルイーゼとリサは快く受け入れてくれ、セシルとロベルトもソファに腰掛ける。

 まずセシルが自己紹介すると、令嬢たちは興味深そうに言った。


「へぇ、呪文詠唱記録部の方ですか。ニーナさんと同じ職場ですわね。……それで、そちらのあなたはあまりお見かけしませんね。お名前を教えていただけます?」

「ワタクシハ、マリー・シャルトーダンシャクレイジョウ……デスワッ。ソウムブノシンジンショクイン……デスワッ」

「ゆ、幽霊みたいな歩き方に反して、ずいぶんと甲高いお声の持ち主でいらっしゃいますわね。声が大きくて羨ましいですわ、おほほ」


 ロベルトの裏声はだいぶうまくなったがやはり調整は難しく、令嬢たちは少し引いてしまった。

 自己紹介もそこそこに、セシルは本命の呪文詠唱Aについて尋ねる。


「先ほどから、周りの皆さんは不思議な呪文を詠唱してからお茶を淹れたりしていますが、お二人も詠唱してらっしゃいますか?」

「「ええ、もちろん」」

「その不思議な呪文詠唱は……誰に教わったんでしょうか?」


 セシルが緊張を胸に聞くと、令嬢たちは困惑した表情を浮かべた。


「誰に教わったか? ……うぅん、覚えてませんわねぇ。気がついたら使ってた、って感じですわ」

「私も同じです。このサロンで教えてもらったのは確かですけど、誰に教わったまでかは記憶にないです」

「なるほど……」

 

 令嬢の話を聞いたセシルは静かに思案する。


 ――呪文詠唱Aをこのサロンの令嬢たちに教えたのは誰なのか……。"劇団灯影座"だけ? その可能性も高いけど、それとは別に宮殿内で広めた人物がいるような気がする。


 セシルがもっと調査を進めようと周りを見たとき。

 アリシアが"メイク・ティーサロン"に参加していないと言っていた4人。

 その全員がいる光景が飛び込んできた。

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