第16話:潜入に向けて
セシルは強い決意を込めた目のまま、潜入調査について話す。
「調査の目的は2つです。呪文詠唱Aがどのように使われているか調べること、そして、広めたのは誰か調べることです。呪文詠唱Aが最初に確認されたと思われるサロンの現場に行けば、何かしらの新たな情報がわかるはずです。呪文詠唱調査の基本は、現地調査ですから」
実際にそれが使用される地域に出向き、その土地の風土と照らし合わせ、分析する。
――自分はいつも基本に忠実に、呪文詠唱に向き合ってきた。だから、今回も基本に忠実に取り組む。
「もし、呪文詠唱Aに隠された危険な効力があるのなら、記録官として謎を解明し、人々に周知する義務があるんです」
真剣な表情を浮かべるセシルに、ロベルトが言う。
「呪文詠唱とは、どのように生まれるんだ?」
「この世界にある数多の呪文詠唱が、どこから生まれてどのように広まるのかは正直詳しくはわかりません。大部分は自然発生的に生まれて、いつの間にか浸透しているものです。……でも、今回に限ってはそうじゃないと思うんです。どことなく作為的というか、人為的な印象を受けます」
「ああ、その点については私も同感だ。ザグル襲撃の件やサロンの書類の消失、いずれも呪文詠唱Aと無関係ではあるまい。……だが、"メイク・ティークラブ"への潜入には危険が伴うだろう。襲撃犯本人かその関係者が潜んでいる可能性もある。現時点で最も呪文詠唱Aの謎に近づいているのは君だから、謎の解明をよく思わない人物が真っ先に狙うとしたらセシルだろう。……よって、潜入には私も同行する」
「ロ、ロベルト様もですか!?」
予想もせぬ申し出に、セシルは思わず驚きの声を出した。
まさか、ロベルトからそのような話をされるとは思わなかったのだ。
「し、しかし、"メイク・ティークラブ"は男子禁制です。ロベルト様が無理やり入ったら怪しまれてしまうかもしれません。女性の魔法騎士の方をつけていただくのでも……」
「だが……君の身は私が直接守りたいんだ。他人のため懸命に働く尊い君を、この手で守りたい。それに、宮殿で何が起きているのか自分の目で確かめたいしな」
「ロベルト様……ありがとう……ございます……」
守りたいと言われたとき、セシルは胸の高鳴りをたしかに感じた。
鼓動の残る心臓を、バレないようにそっと抑える。
――今の拍動は……なに? 胸が軽く締め付けられるようで、でも苦しくない。どこか心地よさを感じるような、初めての……感覚。
どちらも何も話さず沈黙が訪れると、ロベルトが慌てた様子で宣言した。
「あ、いや、別に深い意味はない! ただ、騎士として守りたいという意味だ! それ以上でも以下でもないから気にしないように!」
「は、はい、わかりました! 決して気に致しません!」
あまりの勢いに、セシルもつられて勢いよく答えてしまった。
またもやどちらも話さず微妙な沈黙が訪れる。
夜の厳かな空気が舞い戻る中、セシルは軽く咳払いして話を続けた。
「"メイク・ティークラブ"について調査を進めたところ、月に一度全ての参加メンバーが集まる月例会が開かれるそうです。ちょうど来週に控えているので、そのタイミングで参加希望者として潜入しようと思います」
「承知した。私も日程を合わせよう。とはいえ、男子禁制の制約は厄介だ。それこそ無理やり入っては怪しまれてしまうし。どうにかして、男性だとバレずに入れればいいのだが……困ったな……」
「そうですねぇ。何か策が浮かびそうな気がするんですけど……」
しばし二人で悩んでいると、セシルの霧に包まれた頭に光芒が差した。
「……あっ、ちょうど良いアイデアがありました。これなら、ロベルト様も男子禁制サロンに潜入することができます。多少の細工は必要ですが」
「素晴らしい、さすがセシルだ。ぜひ聞かせてくれ」
伝える前に、セシルは思案する。
――もしかしたら……ロベルト様は怒るかもしれない。でも、私の得意を活かせば一緒にサロンに行けるかもしれない。
心の中であれこれと考えたセシルは、気持ちを整えるとひと息に言った。
「ロベルト様に女装してもらうんです」




