第13話:重傷者
「えっ……無くなっていたのですか?」
「ああ、そうだ。要するに紛失だな。監査部はいつの間にか書類が消えていたと言い訳している」
「いつの間にか消えていた……」
「挙げ句の果てには、サロン如きの書類など消えても構わないと開き直る始末だ。管理不足も甚だしい。次回の定例会議で必ず議題に挙げる。だから、"メイク・ティークラブ"の設立者や初期のメンバーはわからずじまいだ。申し訳ない」
ロベルトが憎々しげに話す一方で、セシルは疑問に思う。
――宮殿内で書類の紛失は時たまあるけど……タイミングが良すぎると思うのは考えすぎかしら。
「設立者については、私の方で調べがつきました。大まかな参加人数も……。やっぱり、ニーナも通っていたようで、彼女にもいろいろと聞きました」
「なにっ、さすがだな、セシル。私にも教えてくれるか?」
セシルは先ほどニーナから聞いた話を、端的に共有する。
50人という参加人数はロベルトも多いという印象を受け、設立者の名前を聞いたときは顎に手を当てた。
「ザグル……ネブラント侯爵家の次男か。あまり良い噂を聞かないが、彼が設立したんだな。しかし、男子禁制サロンの設立者が男性とは不思議な話だ。目的が見えない」
「ええ、私もロベルト様と同じ疑問を思ってます。ニーナ曰く、ザグル様はサロンの活動に参加したことはないそうですし。また、ニーナと同日に入院した魔法騎士のご令嬢ですが、彼女もサロンに参加し、呪文詠唱Aを教わったことが判明しました。ここまでの情報から、私はこのように考えています。呪文詠唱Aと現在宮殿で流行っている謎の流行病――紫呪病は何かしらの関係がある、と」
セシルの話を受け、ロベルトは頷く。
「……ふむ、そうだな。私もその可能性はあると思う。あくまで可能性だが」
「より確実に確かめるため、私はこれから医務部に行って紫呪病の患者の記録を見せてもらいます。一人一人に尋ねれば、サロンの参加歴もわかるでしょうから」
「ああ、よろしく頼む。私は……そうだな、サロンの設立申請書と名簿について、本当に紛失なのかもう一度調べよう。もしかしたら、何者かが盗んだ可能性もある。"この時期に"、な」
礼をして団長室を出たセシルは、その足で医務部に向かう。
目的の人物はもちろんのこと、宮殿一の医術師で友人のリリカだ。
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「セシル君はすっかり名探偵だねぇ」
医務部を訪れ事情を説明したところ、開口一番にリリカは言った。
休憩室の自席で快活に笑う彼女に、セシルはため息交じりに言う。
「もうふざけないでよ。こっちは真剣なんだから」
「別にからかっちゃいないさ。名探偵みたいな推理力と行動力だね、って褒めてるんだよ。……さてさて、紫呪病の患者の名簿はこれだ。今まで治療したのは全部で17人。もちろん、この中にはニーナ・ノイエンアー嬢も含まれている」
リリカは棚から一冊の本を取り出し、机に広げる。
紫呪病患者の診察記録であり、名前や写影魔法による似顔絵の他、入院日、各人の症状、経過など、診察における情報が全てわかりやすくまとまっていた。
「さすがはリリカね。とてもわかりやすいわ。字も綺麗だし読みやすい」
「名探偵からお褒めの言葉がいただけて、助手としても嬉しいよ。しかし、"メイク・ティークラブ"だっけ? コレクション……患者たちがそのサロンに参加していたかは聞いてないからわからないよ」
「大丈夫、それは私が調べるから」
「さすが名探偵は行動力も高い。今ちょうど三人ほど、紫呪病で入院しているのだけど話を聞いてみるかい? 幸いに回復傾向にあるから、サロンに参加したかどうかくらいは聞けるだろうよ」
「ぜひ、お願いするわ」
感染防御の魔法をかけられた後、リリカに連れられ、病室の一つを訪れる。
患者はみな女性ばかりな様子からそうではないかと想像したが、やはりいずれも"メイク・ティーサロン"の参加者で、かつ呪文詠唱Aの詠唱経験もあった。
休憩室に戻ったセシルは、いよいよ紫呪病と呪文詠唱Aの関係性が濃厚になりつつあるのを実感する。
「本当は詠唱頻度と紫呪病の症状の相関性も調べたいのだけど、みんなどれくらい詠唱したかはよく覚えてないみたい。まぁ、当然と言えば当然よね」
「それは本人が記録でもつけておかないとわからないだろうね。ボクも毎日魔法を使うけど、どの呪文詠唱をどれだけ唱えたか、なんて意識もしないのだから」
その点についても、調査の過程で明らかにしたいとセシルは思う。
「……ねえ、ザグル様も紫呪病で医務部を受診したことはある? 実は、サロンの設立者は彼なのよ」
「へぇぇ、あの女好きで有名なザグル氏がお茶飲みサロンを開くとは、けったいなこともあるもんだ。彼が医務部に来たことはないよ。紫呪病が流行る前からね。これからも来ないでいただきたいところだ」
「なるほど……。ニーナ曰く、ザグル様は一度もサロンに参加したことがないらしくて。参加はしないのに、どうして男性のザグル様が男子禁制のサロンを作ったのか……そこが気になっててね」
「そんなの簡単だよ。女性と親しくなるためさ。閉鎖空間で男性が自分しかいなければ、何もせずとも注目を集めるだろう」
「私もそう思ったけど、サロンに参加しないんじゃ女性と仲良くなれないでしょ?」
「そりゃそうか。うーむ、金持ちの考えることはよくわからんね」
「この後、本人に設立した目的や呪文詠唱Aについて、直接話を聞いてみようと思うわ。私みたいな下級貴族に会ってくれるかわからないけど。忙しいところありがとう、リリカ。おかげで調査が捗りそうだわ」
「いつでも遠慮なく来てくれたまえ。セシル君と話すと知見が広がるようで楽しいからね。ザグル氏に無事会えるよう祈っておくよ」
二人が椅子から立ち上がった瞬間。
休憩室の扉が勢いよく開かれ、数人の医術師が流れ込んできた。
「どうしたんだい、君たち。ノックもなしじゃ淑女に嫌われてしまうよ」
「大変です、リリカ先生! 重傷者です! ザグル・ネブラント様が重傷で運ばれてきました!」
「「ザグル様(氏)が!?」」
セシルとリリカの間に緊張が走る。




