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第11話:サロン

「とあるサロン……? ペトラさん、詳しく教えてもらえるかしら」

「はい。名前は"メイク・ティークラブ"と言いまして、お茶の腕前を競い合うサロンです。ただ、他とは違った特徴があって男子禁制なんです。入会条件として、"流行に敏感である女性"と明記されています」

「男子禁制……」


 彼女の話を聞いて、セシルは疑問を覚える。

 サロンの設立や参加自体は、宮殿は禁止していない。

 禁止どころか、普段は接しない貴族と接する機会にもなるため、積極的に推奨していた。

 貴族同士の繋がりが強まれば、国内の地盤も強くなるという理屈だ。

 宮殿に務める人間は貴族の跡取りが多いので、互いの結婚相手を探すという合理的な目的もある。

 そのようなサロンの背景を考えると、男子禁制というのは不思議……いや、奇妙だった。


 ――むしろ、宮殿は男女入り混じる形態を推奨していたはずだけど……。


 疑問に思うセシルは、より詳しく深掘りすることを決めた。


「私はあまりサロンには興味がないのだけど、男子禁制や流行に敏感という条件を謳うサロンはよくあるの?」

「どうですかねぇ、私の知る限りはないと思います。宮殿に勤めるとき、どこかしらに所属しようと色々と探しましたが、そんな条件は"メイク・ティークラブ"だけでした」

「なるほど……。ロベルト様はどうでしょうか」

「私も聞いたことはないな。……しかし、"メイク・ティークラブ"か。知らないうちに、また新しいサロンが設立されていたらしい。宮殿はサロンの設立を推奨しているが、管理が行き届いていないようだ。今度、宮内部に進言しておこう」


 宮殿内のサロンは、毎日新しく設立されては閉鎖されたりと入れ替わりが激しい。

 設立申請は貴族が行うことが通例だが、逆に言うとそれ以外の条件は特にない。

 活動内容や実態に問題がなければ、貴族同士の交流の一環として扱われた。

 セシルはペトラの話をメモしながら、例の呪文詠唱Aについて尋ねる。


「では、この呪文詠唱Aを教えてもらった経緯を聞かせてちょうだい。もちろん、話せる範囲で大丈夫だわ」

「わかりました。最初に聞いたのは……たしか、お茶の淹れ方を教わったときです。呪文詠唱Aを言ってから、お茶がおいしくなる呪文を詠唱することが最近の流行りだと言っていました。誰に教えてもらったかまでは覚えていません。みんな使っていたので」

「ありがとう。最近の流行りということで教えてもらったのね」


 確認も兼ねて言うと、ペトラは頷いた。

 セシルは続けて、重要な情報を求める。


「"メイク・ティークラブ"の設立者は誰か知ってる?」

「いえ、知りません。最近、参加し始めたばかりですし、誰がこのサロンを作ったとかはあまり興味がなく……。すみません、あまり役に立ててないですよね」

「いいえ、そんなことないわ。とても参考になってる、本当よ。設立者は私が調べればいいわ」


 サロンを設立するには、宮殿の監査部に申請が必要だ。

 活動内容、設立者要するに責任者の情報、サロンの名前、などなど。

 当たり前といえば当たり前だが、昔はその辺りが緩い時期があった。

 まだサロンの数も少ない時代、ある若者たちが室内花火を嗜むサロンを作った。

 内々に楽しんでいた結果、ボヤが発生し、火事一歩手前に陥った事例がある。

 それ以来、宮殿は諸々の書類を求めた。

 尤も、正式に申請せねば空き部屋のスケジュールの確認や予約もできないので、活動のハードルは極めて高くなるが……。


「ペトラさんはどうしてそのサロンに所属しようと思ったの?」

「魔法騎士団は男性が多いので、女性だけで話せる環境がほしくて通っていたんです。やっぱり、女性だけで話したいこともありますし。あとは、単純にお茶を淹れる技術を磨きたかったからという理由もあります」

「そうだったのね。最後に一つだけ。サロンのメンバーは何人くらい?」

「いつも参加しているのは15人くらいだと思います。全部で何人かはよくわかりません」

「わかったわ。ちょっと待って、メモするから。……はい、いろいろと教えてくれてありがとう。これで質問はおしまいよ」

「あの……これでよかったんでしょうか。あまり質問に答えられなかったような気がするのですが」

「大丈夫よ、とても参考になったわ。夜遅くにどうもありがとうね」


 呪文詠唱Aについての聴取は終わり、解散となった。

 ペトラはあくびを噛み殺しながら礼をし、寮に向かう。

 ロベルトが外まで送ってくれるということで、セシルは彼に続いて歩く。

 静けさに包まれる兵舎を歩きながら、ロベルトもまた静かに切り出した。


「セシル、彼女の話はどうだった? エビング見習い騎士ではないが、参考になっただろうか」

「はい、本当に参考になりました。ペトラさんが呪文詠唱Aを知った経緯も知れましたし。ただ、気になるのは……」

「"メイク・ティークラブ"か?」


 ロベルトの問いに、セシルは真剣な顔で頷く。

 呪文詠唱Aの繋がりが確認され、今や有力な手がかりとなった。


「ニーナが回復次第、彼女も"メイク・ティークラブ"に参加したことがないか聞いてみようと思います。もし参加していれば、いよいよ呪文詠唱Aの秘密がサロンにあるような気がします」

「ああ、それがいい。私も監査部に設立申請書を見せてもらうよう頼もう。ついでに、設立時点の名簿も請求しておく。今は人数の変動が大きいだろうが、ないよりはマシだ」

「ありがとうございます。ですが、ロベルト様のお手を煩わすわけにはいきません。手続きは私の方で進めます」


 セシルが申し訳なさに言うと、ロベルトはフッと小さく笑った。


「これくらいはやらせてくれ。監査部はただでさえ仕事が遅い。こう言っては失礼だが、一呪文詠唱記録官よりは騎士団長が圧をかけた方がよいだろう。ましてや、サロンの申請書などという雑務なら尚更だ」

「ありがとうございます。そう言われれば、たしかにロベルト様が頼んだ方がいいかもしれませんね。お忙しいところ恐縮ですが、何卒よろしくお願いします」

「ああ、暫し待っててくれ。まったく、監査部は官吏や女官の粗探しだけは早い。他の仕事もそれくらいのスピードでやってほしいものだ」


 ぶつぶつと監査部に文句を言うロベルトの横顔を見ながら、セシルは静かに思う。


 ――やっぱり、噂みたいな怖い方ではないみたい……。


 まだ出会ってから一日も経っていないものの、そう思えた。

 たしかに厳しさはあるかもしれないが、理不尽な横暴さなどは感じないのだ。

 今後はセシルが主となって調査を行い、何かしらの成果が出次第、逐一ロベルトに報告することで話はまとまった。

 セシルは未だ石像のように固まったパウロのいる管理室の横を通り、女官寮に戻る。

 ふと夜道が明るいことに気づいて空を見上げると、雲がかった月が浮かんでいた。


 ――あっ、月。綺麗……なのだけど、どこか不安になるのはなぜだろう。


 普段は美しいと感じる朧月が、今夜に限っては不穏に見えた。

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