第2話 もしも二人が出会ったなら
※前書き
一話時点では地の文は一人称でいいだろうと書き始めましたが、今後の展開を考えると神視点の方が書きやすいという事に気づきました。
第二話より視点が三人称になります。ユルシテ、言う事聞くからby筆者
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波乱の幕開けとなった昨日。一夜跨いで次の日。
「ん、あ~~。うん、いい朝だ」
天気は快晴。差し込む朝日を受けながらベッドを後にする斗真。制服に着替え、リビングへ向かう。
リビングにあるテーブルには朝食が並べられていた。ご飯、味噌汁、ベーコンと目玉焼き。
「うん。実に素晴らしい朝食じゃないか。今日の空のように晴れやかな気分だ」
当然だが勝手に出てきたわけではない。朝食を作った者がいる。妹の藤宮 澄乃だ。中二にしては少しおませな少女だ。
「特に味噌汁の塩梅がいい。澄乃、また腕を上げたんじゃないか?」
その問いかけにすぐには答えず、軽蔑あるいは侮蔑のような視線を送る。
「お兄ちゃん……すっごいキモイんだけど、なに、病気なの?」
「いやぁなに。今朝の様な晴れやかな学生生活が待っていると思うとね、心が晴れやかなんだ!」
「そんなに晴れやかなの? 言い過ぎじゃない?」
有頂天になっている斗真。何をどこまで想像しているか定かではないが、ロクなものではないだろう。
「じゃあお兄ちゃんは行ってくるよ。お前も気を付けていくんだぞ」
「絶対気を付けるべきはお兄ちゃんのほうだよね」
そんな会話を終え、斗真は家を出た。
「おはよう斗真君」
「おは、ってえええ! なんで星野さんがここに!?」
「星野さん? 随分な対応じゃない。昨日は名前で、しかも呼び捨てまでしたのに」
星野凛花。クラス、いや学年トップクラスの美少女が家の前で待っていた。
「なんで星……凛花、がうちの前に? っていうか教えたっけ?」
「あら。あなたが言ったんじゃない「付き合ってくれって」。ならこうして迎えに来るのは当然、じゃない?」
そうなのか? 昨日の今日ではならなくない? 等いろんな思考が斗真の中をよぎる。混乱する斗真だが相手は畳みかけてくる。
「それじゃあ行きましょうか、学校」
「え、あ、ああ……」
こうして美少女との登校という誰もがあこがれる構図が出来上がった。斗真も内心では嬉しさのあまり暴れ散らかしている。
しかし、斗真には一つだけ懸念があった。
”催眠に掛かっていない一人”
それが誰なのかが気になっていたのだ。だが――。
「手を繋ぐのは……さすがに恥ずかしいので、止めておきましょう」
目を伏せる凛花を見て確信する。
(星野凛花は間違いなく催眠に掛かっている!)
奥ゆかしく、近寄るのもおこがましいと言われるあの星野凛花がこんなにデレデレになるなんてありえない。ここは畳みかけるか、と斗真が切り出す。
「なあ凛花?」
「はい、なんでしょう?」
「俺の言う事が聞けるなら……手、つなごっか」
と切り出すと――。
(……ん?)
恥ずかしがるでもなく、拒否を示すでもなく、何かを熟考している様だった。
(え、どういう反応?)
困惑する斗真。……一方の凛花は。
(面倒ね……。やんわり断る、は変よね。かと言って学校で騒がれるのも厄介だし)
催眠にかかった”フリ”という”演技”の要求に困っていた。それにこういった直接的な接触は彼女たちとの”約束”にも抵触する可能性がある。どうしたものかと思考を巡らせていると――。
「どうした?」
「——! いえ、”そうおっしゃるなら”手でも繋ぎましょうか」
そうして手を伸ばす。その指が絡まって――。
「——あっ! トーマじゃん! おはよー!」
その声に驚き二人は手を離す。後ろを振り返ると、こちらに向かって走ってくる斗真の幼馴染・綾小路ことねがいた。
「ことね? なんでおまえが……、お前ん家ってたしか――」
「あー! 部活でね、走り込みがあってさ。それでいつもと違うルートにしたんだ」
ことねとは幼馴染だが家はやや離れている。そして方角的に藤宮家に来るより直接学校に向かった方が近い。
……走り込みとは言えわざわざこんな遠回りするか? と疑問を抱く斗真。それを聞くより先にことねが口を開いた。
「ねー、隣のってもしかして星野さん? なんで一緒に登校してんの~?」
「え、そ、それは……」
言いよどむ斗真。「実は催眠をかけたんだよ!」とは絶対に言えない。どうする……と考える。
一方で耳打ちしあう女子二人。
(勝手に抜け駆けなんかさせないんだから)
(……それはどうも)
ん? と斗真が振り向くころには普通の距離に戻っている二人。だが二人は腹の内の探り合いになっていた。
「そういえば星野さんってお付き合いしている人がいるって聞きましたけど」
「……ええ。それが藤宮さんだということです」
「ええ~そうなの~? そんなことだったらトーマが言いふらすと思うんだけどなぁ~」
「……彼にもいろんな事情があったのでしょう。秘密を守るべき理由が、ね」
「だとしても、彼女が出来たトーマに”幼馴染の私が”気づかないとは思わないけどなぁ」
何気ない言葉の端から感じる威圧に凛花は鞄を持つ手に力が入る。
「そう……幼馴染みという立場に、ずいぶんと自信があるのね」
「だって長い付き合いだもん。あの子が誰に恋してるかなんて、見ればわかるし?」
「……それなら、気づかれないように進めた私たちの方が、ひとつ上手だったということでしょう」
「へえ~、そういうのって、"恋人"って言わないんだよ。ふつうは“隠し事”って言うんじゃない?」
「言葉の定義にこだわる人ほど、現実を見失いがちよね」
火花。ぱちり、と見えない閃光が弾けた。
ことねの笑顔がわずかにひきつる。凛花のまつげの奥で、瞳がほんの少し揺れる。
尋常ならざる空気を感じる斗真。しかし空気を読める程では無かった。
「春先だからか、ちょっと寒くね?」
「いいえ」「全然」
斗真をめぐる最前線では、見えない刃が交差していた。
* * *
冷戦、のようなものが続く中やっと学校に辿り着く三人。
「お、なんだなんだ。両手に花で登校するやつがもういるとはな!」
そう言うのは校門前で風紀委員の仕事をしている如月ユナだった。
「如月さん……」
「おやおや、これはこれは藤宮斗真くん。……両手に花、とはやるねぇ」
「えっ、何その言い方……」
「私はね、風紀の女。つまり、“学園ラブコメのナビゲーター”でもあるわけ」
「えっ、ラブコメってどういう……」
「“今のあなたの状況”、ちょっと面白そうだから」
如月ユナはカンラカラと軽快に笑う。助かった、と思った。
……待て、この人は何故藤宮斗真の名を知って――。
「今日のパンツは普通だぞ!」
その一言で場の空気が失せた。
「パンツ……?」「今日、の?」
刺し穿つ四つの目が斗真をズタズタにした。
これからの学園生活はどうなることやら。
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