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第14話 如月ユナのNTR弁当

 目を覚ます斗真。今日も一日が始まる。その斗真は……。


「フ、フフフ……」


 朝から気持ちの悪い笑みを浮かべる様になっていた。

 なんやかんやで一週間が経過した。斗真の一日もパターン化されていった。


 まず朝は凛花と登校。いろんな人からの視線を受けながら学校の門をくぐる。

 そして授業を受け、昼になったら凛花と一葉が来て一緒に食事を取る。

 放課後は図書室で凛花・一葉・紗良と勉強会。

 そして帰りは凛花と家の前まで一緒。


「フ、ウフフフ……」


 いろんな事があったが催眠アプリでハーレム生活を送れている。とても幸せな事だ。

  今日もその予定通り──のはずだった。


「斗真くん。悪いけれどお昼は一人で食べて貰えるかしら」

「えっ……」


 それは衝撃的な言葉だった。あの凛花が俺と離れるなんて。


「お弁当を渡しておくわ。なんなら全部食べてくれても構わないわ」

「いや、それより理由の方が気になるんだけど」

「私も不服なのだけれど、担任から呼び出されているの。そしてその内容も聞かされていないわ。……とにかく、行ってくるわ」


 そういってどこか覇気のない背中を向けて教室を去っていった。


(ってことは葛城と二人で弁当か)


 そう考えていた。しかし――来ない。

 いつもならすぐに来るはずなのだが今日は来ない。彼女もまた用事だったりするのだろうか。


(……どうしよう。今までにないパターンだ)


 友人は誘うことすらしなくなったし、今まで食べてきたグループも今日は無くなった。独り、孤独を患う事になった。

 凛花の重箱を握りしめとりあえず教室から出た。


(こういう時に頼れる場所みたいなのがあればいいんだけど)


 例えば部室、とか。しかし文芸部は図書室と兼用。その中で弁当は食べられない。

 何かいい方法は、と思案していた所に声が掛かる。


「やっほ~斗真君。なんだか困っているみたいだね?」

「ユナ、さん?」


 風紀委員の如月ユナだった。今も仕事中……というわけではなさそうだ。彼女もまた普通の生徒と同じように昼休みを過ごしているのだろう。


「ね、そのおっきいのお弁当? 男の子だね」

「いやこれは……、まあ、そうです」


 凛花の弁当、というのがなんだか大変そうに感じたので自分のものという事にしておく。——ユナは背景を把握しているが。


「待って。言い当ててあげよう。君は今……弁当の食べる場所を探している!」

「まぁ弁当だけ持って廊下にいたらそうでしょう」

「あはは。それもそうか。——ねぇ」


 ユナが距離を詰めてくる。少し驚いて一歩下がるが、ロッカーに阻まれそれ以上下がれない。

 ユナは斗真の耳元で囁くように言う。


「一緒にイイトコロ、行かない?」


 その妖艶な、色っぽい誘いに息を飲んでから答える。「……行きます」と。


 向かった先は屋上だった。だがこういったところは施錠されていて解放はされていないはず。だが、ユナがノブを捻るといとも簡単に開いた。


「わあ……いいですね、屋上」

「でしょ~。夏になったら雨とか光とかで使いにくいけど、春の今頃はちょうどいい感じでしょ」


 太陽光は温かく、吹く風はほどよい温度で心地よい。絶好のロケーションだ。


「それじゃあここで頂きましょう。……ね?」

「はい!」


 ユナと同じように座り、同じように弁当を広げていた。

 ユナの弁当はとても綺麗に仕上げられており、中身も野菜や肉、果物といったバランスがとてもよく見える。凛花の男の子大好きセットとは違った魅力がある。


「……気になる?」

「え、なにが、ですか?」

「あはっ、分かってるくせに。——私のお弁当が気になるんだ」


 それはまあ確かに。でも凛花の弁当はボリュームがある上に、味も美味しくて――。


「ね、ちょっと交換してみない? アタシも油っ気があるのが食べたくなっちゃった」

「そ、そうですか?」


 ……ここにあるのは弁当だ。ただ、それだけの話。そのはずだ。


「う~ん美味しい! いいなぁ斗真くん、彼女にこんなの毎日作って貰ってるの?」

「いや、凛花は彼女っていうか……」

「違うよ、タダの指示代名詞的な意味。——それとも本当に付き合ったりしてた?」


 斗真の背中が寒気を感じていた。凛花とは、改めてどういう関係なんだろう。


「ほら、代わりにアタシの卵焼き食べていいよ」


 そういって差し出される卵焼き。その断面は恐ろしく綺麗で、料理屋で出されても遜色ない仕上がりのものだった。


(さあ斗真くん。今どっちを選ぶかで、あなたの立ち位置が決まるわよ)


 斗真は自分の弁当の卵焼きを見る。十分すぎる量。ここで受け取らなくても腹は満たされる。だが……。


「いただきます……」


 誘惑に抗えず食べてしまった。そして美味い。冷める事を計算に入れた少し甘めだがおかずになるいい塩梅だ。

 おいしい、と感想を言う前にユナが口を開く。


「あーあ。食べちゃった」


 そんな言葉にドキリとする。


「斗真くんには彼女がいるのに、彼女のものよりおいしいなんて思っちゃったんだ」

「い、いやこれは……」

「そのお弁当は、凛花ちゃんのもの、でしょう?」


 そう言いながら今度はから揚げを持って行った。


「うーん美味しい。幸せ者だね、こんなにおいしいものを作って貰えるなんて」

「そ、そうなんです。ホント、美味しくて……」

「でもアタシの方がおいしいって、ちょっと思ったんだ」

「そ、それは……」


 詰められる斗真。誘惑を振り切るように凛花の弁当にむさぼりつく。

 そんな俺を見てか、ユナはからかうように囁いた。


「——浮気者、だね」


 斗真に冷たい汗が流れる。ユナの卵焼きが美味しかったのは事実だが、決してそのような意図は……。

 ちょん、と視界の真ん中に卵焼きが置かれる。


「——食べていいよ」

「あ、ありがとうございま――」

「アタシの、卵焼き。味わってね」


 なんて意味ありげな事を言ってくる。汗が滴る。

 くす、と笑う。それはどこまでも、毒を含んだ勝者の笑みだった。


(俺、浮気してるのかな)


 そんなお昼になった。


     *     *     *


 昼はそれで終わり。時間ギリギリまで食べていたのでバタバタとした解散になった。

 そして放課後になる。


「斗真くん。今日の部活動だけれど――」

「わ、わるいな。今日は用事があって先に帰るわ」

「そう? なら私も帰ろうかしら」

「ああいや、妹に買い物を頼まれてな。寄り道をするから、今日は別々で帰ろう。な?」

「……まあそういうなら」


 というわけで、斗真は一人帰ることになった。


「あ、弁当は洗って帰すよ。ありがとな」

「そんなの気にしないわ。普通に返してくれれば――」

「いやいいんだ。これくらいは、な。じゃ、今日はお先!」


(言えない。あんなことがあって全部喰いきれなかったなんて……)


 そして教室を出て、校門も出て……しばらく歩く。その先に、人影。


「や。ホントに一人で帰るなんて」

「今日だけ、ですから」

「うん。今日だけ、ね」


 今日の勝者、如月ユナは妖艶にほほ笑んだ。


「じゃ、一緒に帰りましょうか」

「と、途中までな」

「ええ、途中まで」


 そして二人は歩き出す。二人が一緒の距離なんてたかが知れてる。だが――。


「えい!」


 ユナが斗真の腕に抱きつき、携帯で自撮りする。


「あはは。自分用~」


 そう言ってはしゃぎながら、すぐに二人は別れた。

 一人になった斗真は自責の念を感じていた。


     *     *     *


 凛花、自室にて。


(ここは複雑だからあえて分からないフリでもしようかしら。そうすれば斗真様ともっと距離を詰められるはず。……ふふふ)


 作戦を練る凛花。その横で震える携帯。


(グループトーク? なにかしら)


 メッセージを開く凛花。

 そこには、斗真の腕に抱き着くユナの自撮りがあった。


―――――――――――――――――

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