表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

本来のヒロイン、現る。

ミラレーナの町を出て数日。

感情の停滞現象を解決した俺たちは、次の目的地『ルーミア学園都市』へと向かっていた。


「ここが……学園都市か」


高い塔と、水路が走る美しい町並み。魔導学と騎士学が融合したこの都市は、冒険者の登竜門であると同時に、俺たちの旅の中継地点でもある。


俺たちはこの町で数日間滞在し、補給と情報収集をすることになっていた。


リリアとの距離は、以前より確実に近くなった。

手をつなぐことにも、並んで歩くことにも、もう抵抗はない。


だけど──


「悠真くん……だよね?」


その声が、すべてを変えた。


振り向いた先に立っていたのは、制服姿の少女。

透き通るような金髪に、真っ直ぐな藍色の瞳。整った顔立ちと、品のある立ち居振る舞い。


見覚えのないはずなのに、どこか懐かしさを感じた。


「わたしの名前は、ティア=フォルセリア……あなたと出会うために、ここに来たの」


その言葉が告げる意味は──あまりにもはっきりしていた。


「まさか……この子が……」


フェイトの声が震えていた。


「はい、正規ルートのヒロイン。悠真さんが本来、運命的に出会うはずだった存在……その人です」


====


学園都市のゲスト寮で、俺たちはティアと改めて向き合っていた。


「ティアさん……ですか。どうして、急に……?」


リリアが問いかける。ティアは、静かに微笑んだ。


「私、ずっと待ってたんです。運命の相手──Rewriteの適合者が、わたしのもとへ来るのを」


「Rewriteの……?」


「私は、フォルセリアの神託で選ばれた巫女。あなたの力を引き出すために存在する、本来のパートナーなんです」


頭が混乱していた。

ティアの語る内容は真実味があり、何より彼女の存在そのものが自然すぎた。


まるで、ここにいるのが当然だったみたいに。


「つまり、悠真と最も運命的に結びつくはずだったのは……このティア、というわけです」


フェイトの言葉が、どこか苦く響いた。


「じゃあ……私は、やっぱり間違いなの……?」


リリアの声がかすれた。


言わせたくなかった。絶対に、もう二度と。


「ちがう。俺は、リリアとの旅で、今の力を得た。誰と出会うはずだったかなんて、今の俺にはどうでもいい」


「……そうですか」


ティアは、ほんの少しだけ目を伏せた。


「でも、それでも──私はここに来た。だってあなたは、私の運命だから」


その言葉は、まっすぐで、どこか切実だった。


====


その夜、俺は一人で寮の中庭にいた。

星空を見上げながら、胸の中のもやもやを吐き出そうとしていた。


そこに、フェイトが現れる。


「混乱してますか?」


「まあな。急に正解が出されたみたいで……こっちの想いが、間違いみたいに思えてくる」


「……運命の正解って、たいてい、誰かの幸せの排除で成り立ってるんです」


「……?」


「ティアさんが正解なら、リリアさんは排除される。リリアさんが正解なら、ティアさんが、過去の誤算になる……そして私は、最初から選択肢にすら入らないバグです」


「……お前、それでいいのかよ」


「いいわけ、ないですよ」


フェイトは、どこか苦笑のような顔をした。


「でも、それが、私の位置ですから。それでも──それでも、見守りたいって、思ってしまうから……わたし、やっぱりバグなんですよね」


そう言って、彼女はそっと夜空を見上げた。


静かで、強がりで、少しだけ泣きそうな横顔だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ