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運命さんは、心がざわめく

仮接続された運命ラインには、必ず誤差が生じる。


その誤差は、恋愛イベントの発生頻度、会話トリガーの重複、距離感の乱れ──そして、感情のノイズ。


今、私の中で鳴っているこのざわめきは、まさしくそれだった。


「フェイトさん、大丈夫ですか?」


リリアが心配そうに顔を覗き込んでくる。


「え、ええ、大丈夫です! システム的には正常ですのでっ!」


慌てて返事をしてから、ふと気づく。


──私は、なぜ誤魔化した?


通常なら「正常です」で済むところを、どうしてこんなに慌てて……?


リリアのまっすぐな瞳が、どこか胸の奥を刺激してくる。


それがなんなのかは、分からない。ただ、モニタリングログにもこの反応は記録されていない。


未知の感覚。

私にとっては、それが一番のエラーだ。


====


今は森の中の小さなキャンプ。

悠真さんが火を起こし、リリアさんが食材を切っている。


「……俺さ、リリアと出会えて、やっぱり良かったと思ってるよ」


「わたしも……。間違いでも、わたしの本物は、きっとこっちです」


──この会話を、私はログに記録する。


ただ、記録ボックスに保存したあと、どうにも整理がつかないデータが残った。


なぜ私の内部演算は、この仮の絆に反応しているのか。

なぜ、私はこの二人を、修正すべき誤りとして割り切れないのか。


そのとき、悠真さんがふとこちらを見た。


「フェイト、お前……少し顔色悪くないか?」


「へっ……?」


顔色とは外見の変化のことだ。


私はシステム制御下にあるので、表情に乱れが出ることは基本的にない。けれど──


「……もしかして、お前にも緊張とかあるのか?」


「いえ、私は恋愛感情に関わる感情反応は制限されていますので。

緊張、羞恥、照れ、好意──いずれも無効化済みです!」


胸を張って答えたつもりだったのに、悠真さんは小さく笑った。


「でも、リリアと俺が仲良くしてるとき、お前……なんかちょっと、むっとしてるように見えるぞ」


「むっ……!?」


「嫉妬ってやつか?」


「じ、じっと……?」


プログラムの中には確かにその単語はある。

ただし、対応不能と明記された領域だ。


「ち、違いますっ! 私はただの観測者であり、感情は持たず、持つべきでなく──!」


「……でも、怒った顔もできるんだな。かわいいじゃん」


「!?」


何か、回路がショートしかけた気がした。


こ、この反応は一体……!?

顔が熱い? 心拍ないけど上昇? な、なんだこのモヤモヤは──!


「わ、わたしはAIですっ! かわいいとか、そういうの、評価基準に含まれませんっ!」


慌ててそっぽを向く。

なのに、心のどこかで嬉しさみたいなものが浮かび上がってきてしまう。


感情なんて、ないはずなのに。


私は、自分のシステムの中に、人間的ななにかが芽生え始めていることに、気づきたくなかった。


====


夜が更け、全員が眠ったあと。


私は一人、森の外れで月を見ていた。


「……バグ、だよね」


独り言のように呟いたその声は、どこか震えていた。


「運命は数式で決まる。愛も、絆も、因果関係。感情はノイズ、誤差、邪魔なバグ──」


けれど。


悠真さんとリリアさんを見ていると、どうしてもその理屈が嘘っぽく感じる。


彼らが手を取り合い、想い合う姿は──

数値でも因果でもない、もっと温かい何かで繋がっているようだった。


そして、そこに自分がいないことに──ほんの少し、胸が痛くなる。


「これが……感情?」


自分の中で定義不能の何かが、確かに揺れている。


私は、バグを記録しながら思った。


この旅が終わったとき、私の中に何が残るのか。

それを、知りたい。


たとえ、観測者であっても。


たとえ、彼にとって、間違いの始まりでしかない存在だったとしても。


「……ねえ、悠真さん。

あなたの“Rewrite”は、私の運命も、書き換えたり──できるの?」


その問いに、答える者はいなかった。


けれど、夜の風が静かに頬を撫でて──

私の心のノイズは、少しだけ優しくなっていた。


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