(後日談)それでも世界は、続いていく
< 放課後の屋上にて>
「……ねえ、そろそろ選ぶ気になった?」
リリアが、半ば冗談のように、けれど本気で俺に聞いてくる。
「うーん、世界をRewriteするより難しい質問だな」
「……バカ」
呆れたように笑う彼女の隣で、フェイトが湯気の立つコーヒー缶を持ち上げた。
「でも、それも悠真さんらしいです。優柔不断じゃなくて、全部を受け止めるのが、あなたの強さですから」
「そう言われると、なんか逃げ道作ってるみたいに聞こえるんだけど……」
俺は天を仰ぐ。
世界はもう選ばなくてもいい構造になった。
でも、人の心はそんなに簡単に割り切れない。
感情はいつだって、矛盾してて、不器用で──
それでも、真っ直ぐで、愛しい。
「選ばなかったんじゃない。選び続けてるんだと思うよ。俺たちの関係も、運命も」
そう呟くと、フェイトとリリアが、どこか安心したように笑った。
<観測者フェイトの日常>
フェイトは、今やただの生徒だ。
成績は優秀、でもちょっと不思議ちゃん。
それでも、誰に対しても穏やかに接し、自然と周囲の輪に溶け込んでいる。
ただ──
「この教室、光の差し方が変わってきましたね。ログ的には、午前より23%くらい違います」
「フェイト、それただの日常会話には向いてないから」
「えへへ。クセが抜けないんです」
観測者だった過去は、完全には消えていない。
でも、それも彼女の魅力のひとつとして、みんなに受け入れられつつある。
リリア曰く、
「彼女、悠真さんの隣にいても違和感ないの、ちょっとズルいよね」
<リリアの再スタート>
リリアは、しばらく距離を置いていた時期を経て、
少しずつ、また隣に立つようになった。
「私はね、悠真さん。ヒロインとしてじゃなくて、一人の人間としてあなたの隣にいたいの」
「……それって、逆にいちばん重くない?」
「わかってないなあ。それが一番軽くて自由なんだよ」
彼女はもう、誰かに選ばれることだけを求めていない。
自分から手を伸ばして、自分の想いで、悠真と共にいることを選んでいる。
そんなリリアを見て、フェイトは静かに呟いた。
「……やっぱり、強いなぁ。リリアさんって」
<そして、これから>
卒業はまだ少し先だ。
でも、俺たちはきっと、どこかでまた分かれ道に立つことになる。
そのとき、またRewriteするかもしれないし、しないかもしれない。
でも──
「また三人で、屋上でコーヒー飲もうな」
「……うん」
「ええ。もちろんです」
選ばなかった運命。
その先にある、続いていく関係が、確かにここにある。