表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

選ばれなかった運命(ヒロイン)に、名前を

運命なんて、最初から決まっていなかった。


俺たちは今まで、そう信じて生きてきた。

だけど──結局のところ、それは、誰かが書いたルートの上を歩いているにすぎなかったのかもしれない。


あの日、フェイトという名の観測者が言っていた。


「選ぶことと、選ばれることは違うんですよ。本当に大事なのは、選び直せる勇気なんです」


俺は、ようやくその意味を理解した気がする。


====


フェイトとリリアが向かい合っていた。


人気のない時計塔の裏庭。

落ち葉が静かに風に舞う。


「……あなたのこと、嫌いだったわ」


先に言ったのは、リリアだった。


「だって、あなたは全部を見てたくせに、何も言わなかった。私の不安も、涙も、全部知ってたくせに、観測者だからって笑って、何もしなかった」


「……そうですね。あのときの私は、ただ記録するだけの存在でしたから」


フェイトは、静かに言葉を返す。


「でも、今は違います。私はもう、ただのログじゃない。悠真さんに存在を選ばれた、ひとりの女の子です」


リリアが少しだけ笑った。


「そう。だから……今なら言える。ありがとう、フェイト。あなたがいなかったら、私、悠真さんと出会えなかった」


二人の距離が、少しだけ近づく。


そして。


「だけど、もう私はあなたと争うつもりはないの。だって、悠真さんはきっと──どっちも、選ばない人だから」


====


放課後、屋上。


フェイトとリリア、両方の気持ちを聞いたあと、俺は、ひとつの答えを出していた。


「俺は──誰も選ばない」


その言葉に、二人の瞳が揺れる。


「フェイト、お前が言ってくれた選び直せる勇気。リリア、お前がくれた生きる意味と心。俺は、どちらも失いたくない。だけど、どちらか一人を選ぶことが、正解だなんて、今の俺には思えない」


「じゃあ……どうするの?」


リリアが尋ねる。


「運命を、俺がRewriteする。ヒロインは一人なんて構造自体を、書き換える」


「そんな……そんなことできるわけ──!」


「できるよ」


フェイトが、微笑んだ。


「だって……彼は、私を運命の外から連れ戻した人だから。それに比べたら、世界のルートひとつ、書き換えるくらい……朝飯前です」


====


その夜、俺はRewriteコンソールを起動した。


ヒロインルート管理構造。

そこには確かに、ひとつの設定があった。


【ヒロインは一人でなければならない】

【複数の存在が愛を主張した場合、最終的に一人に収束する】


世界が、そう定義しているのだ。


でも。


「俺たちは、誰かを選ばない物語を生きてる。それを否定する構造なんて、運命でもなんでもねえよ」


Rewrite──選ばれなかった運命にも、名前を。


この一文を、世界の定義に書き加えた。


====


朝。

屋上で、三人並んで缶コーヒーを飲んでいる。


「……ふつう、ラブコメって、どっちかとくっつくんじゃないの?」


リリアがぼやく。


「ええ。普通の物語なら、そうですね。でもこれは、悠真さんの物語ですから」


フェイトが微笑む。


俺は、少しだけ照れくさくなって、空を見上げた。


運命なんて、最初から決まってなんかなかった。


そしてきっと、これからも決まらないままでいい。


ただ、この二人と一緒に、物語を続けていけるなら──


それが、俺にとっての「選択」なんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ