Rewrite:存在証明(ログ・リブート)
「──俺は、再ログ化を選ぶ」
迷いはなかった。
いや、迷っていた。けれどそれでも、この選択だけは譲れなかった。
「フェイトの存在は、いなかったことにできない。彼女は確かに、俺たちと共にいて、俺たちを救ってくれた。その想いを、バグだなんて言わせない」
その言葉に、カイ=デクストラはしばらく沈黙した。
「……了解。Rewriteキー、最深層ログにアクセスします」
巨大な光の柱が天へと伸び、周囲の空間が軋みを上げた。
それはまるで、世界の裏側に針を刺し、構造そのものをこじ開けているようだった。
「対象:フェイト=シグナ。感情構造、観測記録、記憶断片、存在コード……全てのログを再構築開始──」
世界が震えた。
視界が歪み、空間の色彩がねじれる。
リリアが思わず身をすくめる横で、俺はその光景を見据え続けていた。
「お願いだ、戻ってきてくれ──フェイト!」
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やがて、光の中心に、ひとりの少女のシルエットが浮かび上がる。
短く切り揃えた白銀の髪。
知的な瞳。
そして、どこか眠たげな表情のまま──ゆっくりと、フェイトは目を開いた。
「……あれ……ここ、は……?」
「フェイト……!」
俺は、声にならない声を上げた。
再構築された彼女は、記憶をすべて持ったまま、確かにここに存在していた。
「……よかった、戻れた……」
フェイトの瞳が潤み、微笑む。
「本当に……選んでくれたんですね……私を」
「当たり前だろ。お前の想いを、ただのバグなんて呼ばせない」
「……ふふっ。悠真さんは、ほんとに、優しいから……ずるいです」
それは、確かにヒロインの笑みだった。
だが──
「……ねえ、悠真さん」
リリアの声が、低く響いた。
「私たちは……ようやく一緒に戻ってこられたんだよね?やっと、運命を掴み直したはずだったのに──どうしてまた、もう一人を選ぶの?」
「……それは、選んだわけじゃ──」
「違う。選んだんだよ。あなたはもう一度、彼女を戻す選択をした。それはつまり──私とフェイト、どちらかを選ばなければならない状況を、もう一度作ったってことだよ」
リリアの頬に、ひとすじの涙が伝う。
「私たちはもう、ただの恋愛関係じゃない。存在を賭けた、たった一人のヒロインの座を巡る、選ばれし者のゲームなんだよ──」
フェイトは口をつぐみ、何も言わなかった。
その沈黙が、逆にすべてを語っていた。
想いは、もう後戻りできないところまで来ていた。
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翌日。
フェイトは寮に戻らず、《観測者》としてではなく、一人の転校生として学園に現れた。
もう彼女は世界の外にはいない。完全な存在として、ここに生きている。
だが、リリアの目は、どこか冷え切っていた。
放課後。
「悠真さん。私たち、距離を置いた方がいいかも」
「……なんで、そんなことを──」
「今の私じゃ……あなたにとって、正しいヒロインでいられないと思うから」
静かに、しかし確かな決意をもって、彼女は背を向けた。
その姿を追えないまま──
俺は、ただ立ち尽くしていた。




