運命の審判者、ログ抹消された少女の罪
「──これは、観測者フェイト=シグナの最終違反ログ記録です」
空に、巨大な魔法円とともに現れたのは、漆黒の外套を纏った存在だった。
名を『カイ=デクストラ』
運命制御機関システム上位存在にして、ログ抹消された観測者の判定と裁定を担当する監察官。
「おまえは……誰だ……!」
「この世界の根幹を監視する存在。そして、フェイト=シグナの行為──Rewrite権限の不正使用──に関して、裁定を下す者です」
彼の手には、半透明のログ断片が浮かんでいた。そこには、微かに震える少女の声──
《リリアさんを救って。お願い、悠真さん……》
フェイトの、最後の言葉だった。
「これは……!」
「このログは、完全に消去されたはずのフェイトの感情コードです。しかし抹消処理後も断片が残存している。これは重大な違反、つまり魂のバグです」
「魂の……バグ?」
「抹消された観測者は、情報として完全にゼロ化されるのが定義。だが、彼女はなお、誰かの中に残っている。この世界の構造にとって、危険な例外です」
カイは、リリアを一瞥した。
「あなたのRewriteによって、リリア=クラヴィスは正規ヒロインとして再構築された。だがその裏で、彼女の代わりに消された少女の記録が、世界のどこかに残っている──」
「それが、悪いことなのか?」
俺は声を荒げた。
「フェイトは、俺たちを救うために、自分を犠牲にしたんだ!それなのに、ルール違反だからって否定するのかよ!」
「ルールは、世界を安定させるために存在する。しかし……」
カイは一瞬だけ目を伏せた。
「……今回のケースは、通常の削除対象とは異なる。彼女のログには、観測者の枠を超えた想いがあった」
「……!」
「よってこの件について、最終判断は、あなたに委ねられます」
「俺に……?」
カイは手をかざし、二つの選択肢を提示した。
【選択肢A】
《ログ完全消去を認める》──フェイトの痕跡を完全に抹消し、世界を安定させる。リリアは確実に守られるが、フェイトの痕跡は永遠に消える。
【選択肢B】
《再ログ化を希望する》──フェイトの魂断片を再構築し、存在に戻す可能性を選ぶ。ただし、世界の再バランスが必要になり、ヒロイン枠が一時的に崩壊。再び、誰を想うか選ばなければならなくなる。
「おまえの心に、まだ彼女がいるなら──
世界の構造を揺るがしてでも、選ぶ覚悟があるか?」
リリアが、そっと俺の袖を掴んだ。
「悠真さん……私は、あなたの選択を信じます」
「リリア……」
「あなたが、どんな道を選んでも。私は、あなたの隣にいたい。
でも──フェイトさんが、本当にいなかったことになるのは、悲しい」
リリアも、分かっていたのだ。
あの旅の中で、フェイトがどれほど、俺たちを支えてくれていたか。
──俺は、問われている。
ただ「誰かを選ぶ」んじゃない。
何を大事にするかを、選ぶんだ。
フェイトの想い。
リリアの今。
そして、運命を形作るこの世界そのもの。
俺は、選ばなければならない。




