間違われた運命
目を覚ましたとき、空が近かった。
……いや、ちょっと待て。さっきまで俺、信号待ちしてたよな?
部活帰り、スーパーの特売品に並んで、それから……それから……
「え?」
立ち上がると、草原だった。
見渡す限りの青い空、木々、花、羊みたいな生き物(?)
目の前には、見知らぬ少女が、呆然と俺を見つめていた。
「……あなた、誰?」
少女は、栗色の髪をくるりと揺らして問いかけてくる。
年は……たぶん俺と同じくらいか? 村娘っぽい服装だが、顔立ちは可愛い。
「えっと……天野悠真、高校二年。そっちは……?」
「リリアです。……このへんの人じゃ、ないですよね?」
そりゃそうだ。てかここ、日本じゃない。てか地球ですらない可能性が高い。
……俺、ついに異世界転生したのか? トラックに轢かれたか? 死んだか?
思考が追いつかないまま、リリアが「立てますか?」と手を差し伸べてくれる。
その瞬間──
キィィィィン……!
耳鳴りのような音とともに、空から金色の糸がすぅっと降りてきた。
まるで光る髪の毛のような、それは……
「え……これ……」
気づけば、その糸は俺とリリアの小指に結ばれていた。
──運命の糸。
……らしい。少なくとも見た目的には。
「これって……! まさか……!」
リリアの頬がみるみるうちに赤くなる。
そして、なぜか俺も鼓動が早くなる。そういう演出なのか? まさか本当に──
「はい、そこのお二人! ちょっとストップですー!!」
ズドン!
空から降ってきた謎の少女が、派手に地面に着地した。
銀髪、青紫の瞳、制服ともドレスともつかない不思議な衣装。
なによりも特徴的なのは、背中に浮かぶ文字。
《Fate:運命管理番号09472-A》
「……はい、確認しました! 運命の糸、誤配線ですね! 大変失礼いたしました!」
「ご、誤配線……?」
俺とリリアが同時に声を上げる。
「はーい、間違って結ばれちゃってますねー。あなた方、正規の組み合わせじゃありません!
この糸、さくっと切って修正しますねー!」
「ちょ、ちょっと待て! 説明しろ!!」
慌てて叫ぶと、銀髪の少女はビシッと立ち止まって、お辞儀する。
「自己紹介遅れました。私はフェイトと申します。異世界管理局・運命課の監査担当です!簡単に言うと……運命の擬人化です!」
「擬人化!?」
「はいっ! 本来、人の運命は神経回路のようにシステムで管理されておりまして~、恋愛運命・生死運命・転生経路などが担当別に振り分けられてるんですね~」
「軽っ!」
「で、ですね。あなた──えーっと……天野悠真さん? 本来の転生先はD区第六群、結ばれるべき相手はアリア=セリステルさん……になってたはずなんですが……」
フェイトはブツブツ呟きながら、腕に投影されたウィンドウを操作している。
空間に浮かぶ文字列が、なんかRPGのステータス画面っぽくて地味に怖い。
「やっぱりミスってますね! はいこれ、完全にエラーコード35ですね!異世界送りと恋愛糸接続のタイミングが0.7秒ずれて誤接続! これはもう私の責任です!」
フェイトはペコリと深々と頭を下げる。
「えーっと……つまり、俺とリリアさんが、結ばれたのは……?」
「間違いです!」
「ズバッと言ったな!?」
「本来ならあなた方の間に、運命の糸は存在しないはずなんですよー!あー、ほんとすみません! 一時的措置として糸は再接続しますので、今から管理局に申請出します!」
「いやいやいや、そんな軽く言われても!」
リリアは明らかに混乱していて、俺も正直ついていけてない。
……てか、じゃあさっきの「ドキドキ」は? この不思議な感覚は?
間違いでも、感じたことはウソじゃないよな……?
フェイトはくるっとこっちを向いてニッコリ(営業スマイル)する。
「というわけで、しばらくの間、お二人には、仮接続の状態で旅してもらいます!正規ルートに戻るまで、私が同行して調整しますので、よろしくですっ!」
「いや、ちょっと待──」
──こうして俺の異世界生活は始まった。
運命を管理するポンコツ少女と、間違って結ばれた優しい少女と一緒に。
たぶん俺の人生、またバグる気しかしない。