幻青計画
中学校。クラスで一際目立っている女の子がいた。有り体に言えば、可愛い。
子供の無邪気さと大人の落ち着きが同時に出てくる微妙な時期。この歳になれば、多くの者が人による容姿の違いを痛切に意識するようになるだろう。
可愛さは罪だ。中学二年になって一ヶ月が経った頃、周りの女子はその恵まれた容姿を妬み、いじめが始まった。
どこにでもある、学校という世界でのいじめ。
その女の子はみんなから親しみを込めて『夏希ちゃん』と呼ばれていた。いじめが始まる前はクラスの中心で、みんなの憧れの存在だった。それがある日を境に、一瞬で形を変えてしまった。
きっかけは俺にはわからない。裏で、女子同士のいざこざがあったのだろう。露骨な無視や落書き、おおよそいじめと呼ばれるものを一身に受けていたと思う。
けれど、夏希ちゃんがいじめられてからも、彼女はある女の子と友達だった。
とてもおとなしい女の子。
『リエちゃん』というその子はいじめには加担せず、夏希ちゃんも心の拠り所としていたと思う。
彼女たちは静かに、目立たないように、二人で毎日を過ごしていた。
「どいてよ」
いじめのリーダーが、扉の近くで夏希ちゃんと話をしていたリエちゃんにそう声をかける。
「いや……です……」
リエちゃんなりの抵抗だったのだと思う。友達がいじめられているんだから、私も頑張らなくちゃ、と。
そこからはすぐだった。
理由なんて要らなかったのかもしれない。すぐにリエちゃんがいじめの標的に変わった。
その当時、周りがやりたがらないクラス委員長を務めていた俺は、そんな彼女たちの姿を見ながら、手を差し出しはしなかった。
ある朝、登校したらリエちゃんの机には落書きがしてあった。子供の書く、稚拙な単語達。
花瓶の水を変えておいてと先生に頼まれ、一番に教室に来ていた俺は、それを彼女が来るまで放置し続けた。
次に彼女が教室に入ってきてそれを見て、こちらを一瞥した後泣きそうな目で口を結んだ。
思えば、何度か助けを求められていたのだと思う。
彼女たちが時々見せる、縋るような目。教員に相談しても、まともには取り合ってくれない。
大人たちは信用できないと、クラスで頼れそうな俺に解決を求めていたのだ。
それでも当時の俺は、彼女たちが置かれている状況に純粋な恐怖を感じてしまっていた。
普段明るい子供達が見せる、底知れない暗闇。彼女たちと関わったら俺も何かされるだろう、と確信めいた思い。
俺は彼女たちに寄り添うことはできなかった。
陰湿ないじめは確実にリエちゃんの心を蝕んでいく。笑顔は減り、日に日にクラスの雰囲気は悪くなっていく。
躊躇いながらも俺は動き出すことができない。
これ以上ひどくならないだろうとどこか楽観的に考えていた俺は、最後まで彼女らに何かをすることはなかった。
結局その後もいじめは止まらず。
始まってからおよそ一年が経ち。
中学二年の冬、リエちゃんは死んだ。