異世界へ導く女神は図書館にいる!!
「僕は異世界転生物の作品は好きじゃあないね。だって、今生きている世界で失敗しても、異世界転生をして新しい世界で一からやり直せるって話なんでしょ。そんなことを考えてる暇があったら、今の世界で頑張れって話だよ!」
とYouTubeで偉い人が言っていた。間違っていない。でも、僕はこんなクソみたいな世界に1分1秒足りともいたくない。だって、政治家は裏金を作り、芸能人は名声を使って女を抱き、権力者は戦争をして人を殺している。僕一人で何ができる? 頑張ったって意味がない。
もう嫌だ。こんな世界。ドロップキックでもかましてやりたいけど、僕にはそんな度胸もない。じゃあどうする? この世界に見切りをつけて、別の世界におさらばするしかないんだ。
僕はネットの掲示板でこんな投稿を発見した。
「早池峰市にある早池峰図書館に異世界へ転生できる書物が隠されている。その書物の空欄に六芒星を書き、その真ん中に『飽きた』と書けば異世界に転生できる。」
半信半疑だったが、なにか妙に心が引かれた。早池峰図書館なら車ですぐだ。気がつけば、僕は車のハンドルを握っていた。
車を走らせ、早池峰図書館に着いた。古びた建物。中に入ると、若いメガネの女性が受付をしていた。
話しかけられるのが嫌で、例の書物を探す。あった。歴史書の棚にひっそりと隠されていた。その本をパラパラとめくると、人類の歴史が書かれていたが、残り30ページほどは空白になっていた。そこには、いくつもの六芒星と『飽きた』という文字が書かれていた。
そんなはずはない、と思いながらも、もしかしたら異世界に行けるかもしれないという淡い期待が芽生えた。
僕も空欄に六芒星を書き、『飽きた』と記した。その時、一瞬、図書館の明かりが消え、真っ暗になった。これはもしや……。期待に胸が高鳴る。女神でも出てきて、異世界に連れて行ってくれるのかもしれない。だが、明かりがつくと、そこは早池峰図書館だった。
ネットに騙されたんだ……。異世界転生なんて、そんな都合のいい話はない。
がっくりと肩を落としていると、受付の女性が話しかけてきた。
「新しい世界へようこそ」
「新しい世界?」
「ええ。あなたは異世界に転生したの」
「でも、前の世界と変わらない気がするけど……」
「どうして異世界が、魔法やモンスターが溢れているファンタジーの世界だと思ったの? 現代風の異世界だってあるじゃない」
「確かに……」
妙に納得してしまった。
「これから予測できないことがたくさん起こるかもしれない。それは辛くて悲しいことかもしれない。でも、楽しいことが待っている可能性だってある。それはあなたが望んだファンタジー世界でも同じでしょ。なにが起きるか予想できないんだから」
図書員の女性はメガネをクイッと上げて言った。
「この異世界には希望があるの?」
と僕は聞いた。
「私は異世界に迷い込んだ人たちを導く女神よ。安心して、これからあなたはこの世界で無双するの。希望に満ちているわ」
女神は笑った。僕はほんの少し、異世界に来てよかったと思った。