第8話 駒を進める
ひょんなことから平将門と面会することになった。無事に面会も終え、遂に武蔵介に任じられ初めての政治を執り行うことになった。しかし赴任早々興世王の様子がおかしく、豪族にもおかしな動きが....
元号が承平から天慶へと変わり、天慶元年(938年)俺は武蔵国の国司である武蔵介、興世王が武蔵権守に赴任した。数年ではあるが住み慣れた館から引越し、武蔵国へと越してきた。
「ここが武蔵の国かぁ...」
「見渡す限り一面ド緑ですね」
「(まさかこの地が千年後大都会になるとは誰も予想しないだろうな...)」
実はこの武蔵国は現代の埼玉・東京・神奈川に位置するまぁまぁデカイ国である。 この一面ド緑のこの地で政治を行うのだ。
「(...武蔵介になったのはいいけど、興世王と一緒に仕事をするのか)」
優と同じく武蔵国に赴任した興世王について、ひとつの不安があった。かつて朝廷で ''やらかした'' と噂されている興世王について、彼は全くと言っていい程興世王について知らないのだ。
「経基殿どうかされましたかな?」
「あ、な何でもありません。ちょっと考え事をしておりました。」
「無理もないでしょうな。ここに来るまで長旅でしたし、経基殿にとって武蔵介が初めてのお仕事になります。ですがこの興世王、経基殿をバックアップしますのでどうぞ心ゆくまで政治を執り行いなされませ。」
...ダッダッダッ
「父上!大変です!」
「どうしました満仲さ..ゴホン、満仲!?」
「先日足立郡司である武蔵武芝殿に検注の書状を送りましたよね!」
「お、送ったけど....」
「それがこれまで正任の国司が行う検注はしない事が慣例だったため、拒否されました!」
検注とはざっくり説明すれば土地調査であり、その土地の公事や夫役、年貢を管理するのだ。
「赴任して早々にこれかよぉ」
「安心なされ経基殿。我々はこの土地の国司ですぞ、恐れるこたぁありません。私にお任せ下さい。」
「..?わ、分かりました」
すると興世王は早々と館から出ていき、馬と共に走り去って行った。
興世王が出ていってから数日、各地の年貢を調べていたところ武蔵武芝からある一通の手紙が届いた。
「ん〜どれどれ?って、これ...」
「''降伏す''って、書いてあるね」
「親王様いつの間に...」
実は貞純親王も京で一人で暮らすのは寂しいため、ここまで着いてきたのだ。
「...恐らく兵を用いて襲撃でもしたんだろうな」
「ま、まさか!ここにいる兵士はここ数日間出動させていませんよ?」
「優、満仲を読んできて」
「お呼びでしょうか親王様」
「二人に大事な話がある...興世王についてだ。」
「?彼がどうかしたのですか?」
「実はここに来る前、密偵に興世王について調べさせたんだ。その調査結果が昨日届いてね。実はそこに」
「ただいま戻りましたぞーー経基殿に満仲殿!」
「ん?こちらの神々しいお方はどなたで?」
「あー、この方は私の古い友人です。」
「こ、こんにちは...はは...」
興世王は親王の存在に疑問を感じたが、何処か触れずらそうに感じている。
「ど、どうもこちらこそ」
「そうだ興世王殿、先日武蔵武芝殿から一通の手紙が届きました。一体何をしたのですか?」
「ただの和睦ですよ」
「え?和睦?」
「ちょいと道中で兵を集めて脅しをかけたんですよ。そしたらあっさりと和睦の申し出を受けましてな。ただ...」
「ただ?」
「和睦の仲介として平将門殿をお呼びすることが条件となりました」
「な、何を勝手に!?」
「仕方ありませんぞ経基殿。それに血を流さず和睦にまでコマを動かした私を少しは労って欲しいものですなぁ。」
「━━━━━わかりましたよ。」
「フフ、では私はこれにて」
「随分と大きな態度でしたね経基殿」
「あぁ」
そして数日後和睦の日が来た。
「はじめまして武芝殿、それとお久しぶりです将門殿」
「...はじめまして経基殿」
「ハッハッハッ久しいのぉ経基殿。」
「今回はワシが仲介者としてここに来てやったわい。じゃが和睦が決裂して戦にでもなったら面倒だからのぉ、少し兵を連れてきた。」
用意周到な男だ。流石現在の桓武平氏の長者だ。
「ほんじゃあ、これで喧嘩は終いじゃあ!ほれ宴でもするぞ!」
「え、こんな感じでいんですか武芝殿?」
「...私は構いませんよ」
「?わかりました(こういうものなのだろうか?)」
宴会が始まり相者の陣中から笑い声が高々と聞こえる
「........」
「どうかしましたか経基殿?」
酒を飲み少し酔っ払いながら満仲が近づいてきた。
「この宴会が終わり次第、こちらの営所を後ろの山へ移そう。嫌な予感がする...」
「ィやな予感んんん?そーんな気しませんけどねぇぇ。」
この人酔っ払うと面倒になるタイプの人だったのか
「真面目な話をしますよ。簡単に言うと武芝殿の動きに違和感を感じるんです。こうもあっさり和睦など...」
「それは興世王殿がぁ兵を連れたからァ」
「それなら道中で気づかれるはずです。武芝殿は昔からこの地にいる豪族、土地に詳しい彼が見逃さないはずがないと思いませんか?」
すると満仲は一気に酒が抜けた様に顔が真っ青になった。そして、
「す、すると武芝殿はわざと和睦まで運んだ言うのですか?」
「多分、検注を嫌がったのもここまで駒を進めたかったから、つまり何かの目的があって和睦の形に....」
優は顔が真っ青になって、急に叫びだした。
「不味いッ!満仲!こちらの兵士を全員集めろ!後ろの狭服山へ営所を移す!」
「ハッ、ハイ!」
無理やりではあるが宴会を抜け出し、宴会所の後方にある狭服山へと避難した。 そのころ...
「奴らまんまと引っかかりましたね。将門殿」
「こうもあっさり詰んでくれるとはな、経基。少しガッカリだ。」
「源氏の長者も大したことないようですな」
「フンッ。まぁ後は任せたぞ武芝殿。」
そして源氏側の営所では
「えーもう宴会終わりなの優?まだお肉食べたかったんだ」
「そんな悠長な事を言ってる場合ではないんですよ親王様!!」
「は、はい。」スン
「もし俺の予想が正しければあの二人、いや三人は...」
「急報ッッッ!!!」
「どうしたの?そんなに急いで」
「親王様、それが、我々の営所が武蔵武芝率いる兵士に取り囲まれました!!更に興世王が営所から逃げ出したと報告が!」
「な、何だとぉぉぉぉ!」
やっぱりだ。最悪だが予想は的中したようだ。
「親王様、俺の予想が正しければ興世王に武蔵武芝、それと平将門は最初からグルだったのではないでしょうか...」
武蔵介に赴任して早々に大事に巻き込まれた。いや巻き込まされたのかもしれない。ここで選択を間違えれば俺たちは全滅するかもしれない。そうなれば俺たち源氏一門が国を統べる目標は潰えてしまう。