第7話 二つの一門
平将門が放免され東国へ帰る途中、何故か俺の館へ来た。兵を集める時間は無く、兎に角会うことにした。源氏と平氏、二つの一門の長は相対する時どの様な時に過ごすのだろうか....
「いやぁーはじめまして。私は平将門と申します。こちらは弟の頼将だ。」
「頼将です。はじめまして。」
「どうもこちらこそはじめまして。源経基です。こちらは息子の満仲です。
「こんにちは」
将門が来て数刻が過ぎた。目の前にある二つの巨躯を前に俺たちは、汗が止まらなかった。
「いやぁ〜それにしても経基殿はお若いですなぁ。昔から病がちで館に引きこもっていたとの噂で聞いておりましたが、まさかこんなに大きな息子殿がいるとは...失礼だがお幾つです?」
しまった。二十歳だなんて言えるはずがない。もしそうでも言ったら冗談と思われて、傍にある刀で両断されるだろう。
「え、えーと確か今はさ、三十五歳です。はい。」
何とか通ってくれ。そして両断しないでくれ。
「さ、三十五歳!?ほな同い歳やないですか ハッハッハッ!」
何とか通ったようだ。
「そ、それで将門殿、どのようなご要件でここへ?」
「ん?いやぁ我ら平氏と同じく帝の血を引く源氏の長がどの様な男か見てみたくての。それでここへ来たわけじゃ。」
「少し話をしよう。今昔朝廷では藤原、橘、平、源の四つの家が力を持っておる。我ら平氏と源氏は歴史が浅く、橘は最早力は無いに等しい。となると残る藤原が今後も力を持つだろう。」
「おかしくないか?帝の血を引いてる訳でもない藤原が我ら平氏源氏を押しのいて栄華を極めるなど。」
「はぁそれで?」
「そこで同じ源氏の長は今の世の中をどう思うか聞いて見たかったのだ。」
困った問だ。正直俺には源氏も平氏もどうでもいい、兎に角元いた世界へ帰りたいのだ。しかしそれが叶わない以上、この世界で何か目標を持つべきなのか。
「(そういえば親王様が一門の繁栄がなんたらかんたら言ってたよな)」
「俺は貴族がこの世を治めるのではなく、我々の様な強き者が国を統べるべきだと考える。」
俺は胸を張り大きく答えた。
「フハハハハッ!それは面白い。ワシも同じ様に考えておる。実に会いに来て良かったよ。」
「だが一つだけ聞いてもよろしいかな将門殿」
「今回東国で被害に遭ったのは嵯峨源氏の源護やその息子、更にあなたの叔父である国香殿。迎撃とは言え何故我らと同じ源氏や平氏の者を殺めたのですが。」
将門は開口一番驚くべきことを発言した。
「邪魔だからだ。源護の息子達に襲撃された時はこちらも危ういため、彼らには悪いがワシが葬ってやった。」
「じゃが叔父国香は別じゃ。奴はワシと相対する様な人間での、昔から目の上のたんこぶ見たいな存在であった。やつは護と仲が良かったから、そこをついて今回戦に巻き込まれたかのように殺したのだ。」
恐ろしい男だ。自分の理想のために叔父をあっさりと殺してしまうなど。
「成程。勇ましいばかりですね」
「クク、そう言ってもらえて何よりだよ。お主今度武蔵野守になるんだろ?つまりこっちに来るって訳だ。お主が東国に来るのが楽しみだよ。」
「こちらこそ楽しみですよ」
「━━━━ただ、一つだけ忠告しておくぞ。」
「....なんでしょうか。」
「東国は昔から我ら平氏が固めてきた土地だ。そこをぶんどる様な事でもすれば、その時はその首を切り落とすからの。」
ゴクッッッ。
「わ、、わかりました。」
「フ、すまんただの脅しじゃ。それじゃあお暇するかのお。行くぞ頼将。」
「...帰っていきましたね、将門達。」
「..................」
「どうしました経基殿?」
「や、や、や、や、や、やっっっちまったァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」
「どうしよう、俺国を統べるとか言っちゃったよ!不味いよねコレ!打首獄門レベルだよねこれェ!」
「そうだねー。隣の部屋で聞いてたけど、大きく出すぎたかな?」
『し、親王様!』
「そんな、頭下げなくていいから、ほらお上げ。」
「親王様、その、俺、まずかったでしょうか」
「んーでも面白かったよ。自分の一門が国を統べるなんて。いっその事行けるところまで行ってみたら?反逆しない程度で。」
「え、それって...」
「私は賛成だよ。優が言うこと。」
「では経基殿、夢はおっきく天下統一ですね!」
「んーそれは数百年後かなぁ」
『???』
夢は大きく源氏一門で国を統べること。しかし未来での記憶が消えつつあり、最近では源頼朝や義経といった有名な武将の事も名前以外さっぱり忘れてしまった。この状態で俺は一族の栄華を極められるのだろうか。
「兄上、貴方の目には源経基がどう見えましたか?」
「とても同い歳とは思えん、恐らく体のでかいだけの木偶の坊じゃ。ただ、これから更にデカくなる、化けるかもしれんな。」
「━━━となると」
「消すか。この世から。」




