第5話 東国の猛者
先日朝廷から正式に臣籍降下を宣下され、源姓を名乗ることとなった。これから俺は源経基として第二の人生を歩むことになる。
「これで正式に源経基となったのか〜。ちゃんと上手くやって行ける気がしないなぁ...」
「父上ならきっと立派に一門の棟梁としてやって行けますよ。それよりも父上、早いとこ朝廷の役人に挨拶に行きましょう!役所仕事は面倒ですけどきっと直ぐになれますよ。」
「そうだね...。それよりも満仲さん?そのぉ、あのお、....」
すると満仲はどこか心配そうな顔して、
「どうかされましたか父上?まさか具合でも悪いのですか?」と言った。
「実はそのぉ、言いづらいんだけどさ、その父親呼び何とかならない?」
「え、何故です?だってもう父上じゃないですか。」
「いやぁそうなんだけどさぁ、実際満仲さんの方が歳上だし、父と子の関係って言うより兄弟の方が何か近い気がすると思うんですよ。うん。」
「はぁ。」
「せめて二人でいる時は経基って呼んでくれないかなぁ...その方が気が楽だし...」
満仲はその場で立ち止まり、少し考えた後
「成程一理ありますね。わかりました、ではそう呼ばせてもらいます経基殿!」と、威勢よく答えた。
きっとこの人はどこの世界でもやって行けるだろうと思った。俺はこの人のことを名前しか知らないが、多分ビックな存在なる気がする。
そのまま数刻歩いた後朝廷の門をくぐり抜けた所で、ある役人が大きな声で泣き叫ぶ姿が見えた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんツツツ!」
「ちょ、こんな所で大泣きしないでくれ護殿、一体何があったというのだ」
俺たちは声がするほうへ行き、
「一体どうしたのですか?」
「これはこれは源経基殿と満仲殿。実は東国から戻ってきた源護殿の様子がおかしいのですよ...」
「父上、源護殿と言えば我々と同じ源氏の方で常陸国で国司をされている方です。して護殿、一体何があったのですか?」
満仲の質問に護はようやく泣くのを止め、少しずつ口を開いた。
「ぐすん。私が常陸国で沢山の私営田地を持っていることは皆さん知っているでしょう。実はその事で平真樹と境界線を巡って一悶着があったのです。」
「それで両者間では解決に至らず、同じく平氏の平将門殿に仲介してもらったのです...」
「まっ、ままま将門ォ!?」
俺はその名を聞いて驚いてしまった。平将門と言えば、数年後に乱を起こし鎮圧された有名な人物だ。
「うわぁっ!どうしたのですか父上!もしかして将門殿について何か知っているのですか?」
「あっ、いや、ゴホン。すまない護殿続けてください。」
護は不思議そうにこっちを見つめながら、続けた。
「...?で、では続けます。実は将門殿が決めた調停を我々は呑む形となりましたが、空に私と子の扶、隆、繁は中々納得できませんでした...」
「そ、それで家来や息子達と共に将門がいる館をしゅ、襲撃したのです。」
「は!?襲撃しちゃったのぉ!?」
役人は襲撃という単語に物凄く反応した。そりゃそうだ。仲介者を襲うなんて現代で言うDQN見たいなもんだ。
「そ、それで護殿。一体どうなったのだ?」
「襲撃は失敗。私と少ない兵士は命からがら逃げ出しましたが、私の大切な息子達は皆討ち取られましたぁぁぁぁぁあ、うぉぉぉぉん!!!」
そう言うと護殿はまた泣き叫びだした。子どもを無くしたのは可哀想だがどこか自業自得のような気もする。
「そ、それは悲惨であったなまも」
「さっ、さらにぃ鎮守府将軍平国香殿も此度の襲撃の被害により亡くなられましたぁぁぁっ!」
「たいらのくにかぁ?誰だろう。」
「何を言っているんですか父上!平国香殿と言えば桓武天皇の皇子である高望王の子ですよ!つまり父上と同じ臣籍降下した人なんですよ!皇族でなくても桓武天皇の孫である国香殿が亡くなったとなれば大問題ですよ!!」
すると役人は
「ん〜確かに噂だが国香殿と将門殿は仲が良くないと聞いたことがあるなぁ。もしここで将門殿を抑えておかなければ東国はえらい事になりそうな予感だ。」
「で、では誰かが将門殿を討つと?」
「恐らく将門殿の叔父である平良兼殿や亡くなった国香殿の息子である貞盛殿でしょうな。」
平和な京の都とは違い東国では争いが起きている。しかも相手はあの平将門。鎮圧されることは知っているがそれまでの過程について、残念だが俺は知らない。
知らないと言うより、ここに来てから日本の歴史について少しずつ忘れてきている。満仲さんの事も本当はきっと何か知っていたはずだ。そう思いながら護殿との話を何とか終え、朝廷へ挨拶へ向かった。
「これはこれは経基殿にその子である満仲殿。よくぞ参られた。」
『ははーっ。』
この偉そうな男は藤原忠平と言い、朝廷では摂政を務める超エリートだ。
「そち達顔を上げよ、これから重要な話をするぞ。」
「はっ。それで忠平様、重要な話とは一体なんでしょうか。」
「経基殿に満仲殿、東国にて源護の息子達や平国香が亡くなったことは知っておるな。それで東国へ兵を向けることにした。そこでそちらお二人に出陣してもらおうと思ってのお。」
「なっ、なんですと!我々がですか!?」
「はっはっは。冗談じゃよ。本当は平良兼と平国香、
そして源護と婚族関係の平良正に兵を率いてもらう予定じゃ。ただしそれでもダメな場合はお主達に行ってもらう事になるがの。」
親王様もそうだが、この時代の人はあっさりと凄いことを言うなぁ。少しはこっちの事を気にかけて欲しいものだ。
「わ、わかりました。その際またお呼び下さい。それでは本日は失礼致します。」
「うむ、頼んだぞ経基殿に満仲殿。」
「あーウザイなー忠平のやつ。この前まで皇族だった時はペコペコしてたのに、降下した途端これだもんなぁ。」
「まーまー満仲さん、平貞盛殿らが将門を討てば問題ナッシングですよ。」
「そうだといいですけどねぇ。」
そう言うと俺たちは館へ戻った。そしてそれから一年が経ったころ、朝廷の使者が館へ来た。
ドッドッドっと大きな足音を立てながら親王様が襖を開けた。
「経基に満仲、貞盛達負けたってよ。」
『なっ...』
「それにこの書には不明確ではあるが、良兼は死んだと書かれておる。」
予想外だった、ここまで将門が強いとは。
「親王様それで、他の者達は?」
「生きてはいるが、多分更迭だ。しばらく戦には出れんだろうよ。次に出陣するのは多分君たちだよ。」
『そっ、そんなぁ。』
タイムスリップして一年。いつになったら安心できるのだろうか。




