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第41話 次から次へ

私が決めた事は正しいのか、悪いのか。其れは誰にもわからない。未来に起きることなど、知るものは居ない。

だが予想することは誰にでも可能だ。友とはいえ、敵の弟の命を助けることはどうだろうか。道徳的には許される行為だろう。

だが平家時期棟梁として考えると許されないのかもしれない。

「頼朝はまだ13歳...。始末するなら早めの方が良いよな、」

「...はあ、私は一体何がしたいのだ。」


助けたいのか、それとも殺したいのか。自分でもわからなかった。

何時までも頼朝を座敷牢に入れておくわけにはいかない。そろそろ決断の時が迫っている。アイツを斬ることは容易いことだ。けれども自分の内の中に潜む「何か」が其れを止めようともするし、実行するように促す事もある。


「今夜は星がよう輝いて見えるなぁ...。人類はいつかあの星々へ行くのであろうか。」


ふと夜空一面に輝く星を見て、自身がが直面する問題から逃避した。

「かぐや姫は月に帰る直前に特別な羽衣を着させられ、地球にいた頃の記憶を失ったそうな。その羽衣があれば、この嫌な問題も、家柄も全て忘れることが...」


「いや、無理だな」

その声を聞いて、重盛は悪寒が走った。父の声ではない、なら近臣の者か?いやそんな声の者など知らない。

「ッ!!!」

「....だ、誰だお主は」

何時でも抜刀出来るように、右手で柄を握った。

だが手の震えが止まらず、カチャカチャと刀から音が鳴り響く。


「.....ほう、震えておるな平重盛よ。その見た目齢二十歳前後であろうか。戦には慣れておらず青二才ってところか。」

「...貴様、何処から来た?門兵はどうした?」

(なんだこの男、デカい。この男とは戦うなと自分の身体が訴えいる。父上を遥かに上回る畏怖を感じる。)


「んん?ああ、居たな、忘れてた。ほらよ。」

そう言うと男は中身の入った風呂敷を此方へ投げた。私は其れは掴むことが出来ず、鈍い音を立てて目の前に落ちた。

(この音、まさか...)

「.....ッ、お前、何者かは知らぬが度が過ぎているぞ」

風呂敷に包まれていたのは顔をズタズタに斬られていた門兵の首であった。


「初対面だからな、何か手土産が必要だろう?それで許してくれよ。使い道は、んーまぁ、任せる。」


「....茶番はよせ。お主何者だ?平家の者ではないだろう」

刀を抜いて男に向ける。刀身には不気味に笑う男の姿が反射している。

「よせよせ、老人に刃物を向けるな。当たったら痛いだろうが。」

「お前のような巨漢が老人なわけないだろう。其れにその髪の色、染めた様に見えん。地毛であろう。」

(何だ?何か変だ。この男只者では無いのは確かだ、奴の気迫からひしひしと伝わってくる。だがまるで闘気を感じられない。)


重盛は脳をフル回転、考えられる可能性を一つ一つ挙げて迅速かつ慎重に情報を駆け巡らせた。額から汗が流れる姿を見た男は口元をニヤリと動かした。


「フン、場数は踏んでおらんがその冷静さは悪くない。だが物足りんな、後十年、いや十五年も経てば幾分かマシになるであろうな。」

「お主先程からふざけた態度だが目的はなんだ?いやその前に名を名乗ってもらおうか。」


男は再びニヤリと笑った


「そうだな、「太郎」とでも伝えておこう。姓はお前の力で探し出してみよ。」


太郎、長男を指す名前、在り来りな名前だ。太郎という者などこの世にごまんといる。しかしさっきの言葉、姓を持っているという事は有力貴族や武家の可能性がある。しかし...


「な、!お、オイ!誰か早く来るんだァ!!」

「襲撃だァッ!!重盛様の無事を確認するのだ!!」


「流石にバレたか、まぁ良い。本日は偵察に来たに過ぎん。そろそろお暇するとしよう。ではまた会おう、重盛。」

「なっ...」


すると男は塀を勢いよく飛び上がり姿を晦ました。

「....太郎か、また悩みの種が増えたな。」


重盛が「太郎」に襲撃され一週間が経った。


「親王様、俺達何時までこの廃寺に身を隠すのですか。誰かに見つかっても不思議じゃないですよ、まったく。」

「とは言え他に身を隠せる所があるかい?頼朝の安否がわかるまで耐えるんだ。」


頼朝は未だ囚われているままだ。重盛は流刑の可能性があると言ってはいたが、実際の所雲行きが怪しくなってきた。そろそろ別の道を模索する段階に来ているのではないのか?

放った間者も連絡が途絶えた。足が付いた可能性も十分ある。

「親王様、頼朝以外にも義朝殿の遺児はいます。頼朝は残念ですが、其方に視野を広げても良いのではないでしょうか」


親王は少し目を瞑り、呼吸を整えた。


「...確かにその手段を選ぶ段階に来ているのかもしれない。しかし遺児たちは未だ十に満たない稚児ばかり。加えてその子達が今何処で暮らしているかもわからない。見つかった所で処刑か出家させられ死ぬまで平家の監視下に置かれるだろう。」

「...チッ。ん、あれは?」


再度これからどうするべきか色々と模索していた時、数日前に放った間者が此方へ戻ってきた。一時は安否が怪しまれたが見たところ満身創痍ではなさそうだ。


「それで、どうだった?何か動きはあったかい?」

「...実は一週間程前、頼朝殿が伊豆に流刑になると決まりました。」


二人は心の底からホッとした。間者の口から伝えられた情報は二人がずっと待ち侘びていたものであったからだ。

しかし間者は続いてもうひとつの情報を口にした。


「実は頼朝殿の流刑が決まった前日の夜、小松谷の重盛公の邸宅が何者かに襲撃されたという情報を耳にしました。犯人は見つかっていない様子ですが、偶然にも翌日急に流刑が決まったようです。」


何故今重盛が襲撃されるんだ?棟梁である清盛が敵討ちで襲われるというなら話はわかる。しかし重盛となると理由が全くわからない。重盛に恨みを買っている者がいるとでも言うのか?


「その、犯人の特徴や名前について何か言ってなかったかい?些細な情報でもいい。」


間者の男は懐から紙を取り出して渡した。

紙には別の間者が重盛から直接聞いた内容が残されていた。


「....太郎?在り来りすぎて検討がつかないな。身体の特徴も巨漢としか書かれていない。優よりも大きいなら直ぐに見つかりそうだけどなぁ。」

「加えて役に立つかわかりませんが、もう一つ情報がありまして、その紙は頼朝殿の刑が決まったその日に別の間者が書いたものなのです。ただ...」

「ただ?」


男はゴクリと喉を鳴らした

「その者が重盛公から襲撃の話を聞き出していた際、重盛公は顔面蒼白、額から汗がダラダラと滴っていたとの事です。しかも体が震えて、よっぽど襲撃された事に体が参っていた様子だったと...。」


重盛邸襲撃とその犯人、そしてその翌日決定した頼朝流刑。

果たして偶然であろうか。偶然にしては怪しい点が幾つもある。しかし何はともあれ頼朝の命が保証されている事は

確定した。次は此方が駒を進める番だ。

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