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第40話 願い

最近平清盛は気分の浮き沈みが激しい。先の戦で功績を挙げ、褒美を貰ったのはいいものの、ひとつの悩みがある。それは義理の母・池禅尼による"あるお願い"についてだ。


「ですから清盛、どうか母の願いを聞き入れて下さい。あの子の顔が死んだ息子である家盛と瓜二つなんです。」

「息子の亡骸をもう一度目の当たりにするなど、二度と経験したくないのです...」


清盛は苦しげな顔でその願いを常に聞いていた。


「母上、お気持ちはよくわかりました。」

「そ、それでは!」

「...ですが戦に出陣した以上、裁かなければなりません。それが弟の家盛と瓜二つであってもです。」


清盛は義母のお願いをどうしても受け入れたくは無かった。


「兎に角、頼朝の処遇は後日改めてお伝えします。それでは失礼します。」


その日の夜、清盛は一人静かに酒を飲みながら考えていた。


「昔、平将門は叔父である平国香を滅ぼした。そして数年後今度はその子である貞盛によって将門は討ち取られた。」

「親が討たれたとならば当然息子は敵を討つべく立ち上がる。まだ13歳の頼朝を生かすのは容易い。だがその先、平家に弓を引く可能性も捨てきれん。」


平家の安全を守るために清盛はここで源氏の力を完全に削ぎたい狙いがあった。しかし義母のお願いに板挟み状態となり、悩みが解消されない日々を過ごしている最中である。


「あぁ〜もうめんどくせぇ。何で信頼殿も義朝も謀反何か起こすんだよォ。」

「....いや待てよ?信西殿と協力して、結果的に二人の不満を募らせたワシにも責任があるのか。」

「んだよォ、結局避けられねぇのかよ...」


酒に酔ってそれなりに大きい声量で独り言を発している姿はいわゆる"関わってはいけない人"に見える。

だがそうなってしまう程、今の彼は悩んでいるのだ。


「あーなんか想像以上に面倒いなぁ。腹違いとは言え弟の事持ち出されたら無理って言いずらいしなぁ。」

「いや流石に元服してるとはいえ13の頼朝を斬るのはキツいしなぁ、でもここでやらないと後々面倒な事になりかねんしなぁ」


愚痴を零しながら一人で酒を注いでは飲んでを繰り返す。その姿をバレない所から重盛はずっと見ていた。


「(父上って戦以外だとでああだよなぁ、棟梁何だから自分が決めれば良いのに...)」


重盛は父の言動に呆れつつ、このまま事が収まらないか気が気でなかった。


「...何をそこでボサっと突っ立ておるのだ重盛。こっちへ来て早う酒を注がんか」

「...!、気づいておられたのですか。」

「馬鹿言え、バレバレじゃ。」


言われるがままに重盛は清盛が差し出す酒杯に酒を注ぎ込んだ。普段あまり酒を注ぐ機会が無いのか、杯から溢れそうになるくらい酒を注いだ。


「ど、どうぞ...」

「....ん」

清盛は並々に注がれた酒を勢い良く飲み干した。ゴクリゴクリと部屋中に喉の音が響き渡った。


「...プハッ。お前、先の戦では果敢に悪源太に挑んだな。」

「あ、ありがとうございます!今後も精進致します。」


父親に褒められる事を嫌がる人など滅多にいないだろう。子どもの時でも、大人になった時でも嬉しいと感じる人が多いのではないだろうか。


重盛が喜ぶ姿を見た清盛は目を細めじっと見つめた。

数秒見つめた後、勢いよく杯を床へ置いた。


「...お前、俺が褒めているとでも思っているのか?」

「えっ?違う、のですか?」


その言葉が清盛を激怒させた。


「こっっの大馬鹿野郎がァァァァァッッ!!!」


突然重盛は顔面に強い痛みを感じた。


「...うぐっ、な、何を、父上!」


「貴様は己の力量がどのくらいか未だ理解できておらんのかッ!!」

「...悪源太はお前と違い15の時には身内である叔父を討ち取る戦果を上げた程の男だ。」

「それ程の男を刺し違えてでも倒せると思ったのかこの自惚れがッッ!あの時首を取られなかったのは運が良かったのに過ぎんぞ!!」


鼻の穴から滴る血を手で覆いながら重盛は叱責を受けた。

手で押えていても指と指の隙間からは血が姿を表し、口の中に次第と血の味が広がった。

「貴様も何れ棟梁になる事くらいわかっているだろうが!!

我ら平家の先の事を考えろッ!!!」


「も、申し訳、ございませんでした....」


重盛は顔を覆っていた手を地面に着け許しを乞う姿勢を見せた。


「....で、何故そこで突っ立っていたのだ。父親の独り言を盗み聞きするとは悪趣味の様に思えるが?」


「申し訳ないです、実は、頼朝の処遇に関してお聞きしたく...」


清盛は耳にタコができる程聞かれたせいか、引きつった顔をした。


どいつもこいつも皆同じ質問をしてくる。元服したとは言え奴は齢十三。殺すにしては若過ぎる。

奴を斬る事など容易いことだ。太刀を一振すれば、それで終いだからだ。更に敵対している一族を絶やすというオマケも付いてくる、されど其れをよく思わない者も居る。


「貴様も義母上と同じく助命を求める、か。」

「...左様です。」

そうだ、俺はかつての友の弟を助ける、そう決めた。

けれどもその選択は正しいことなのだろうか。この選択が何れ自分の首を絞めないであろうか。

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