第3話 六孫王
「私たち皇族は今では朝廷の中に多すぎてねー、皇族から離れて地方に行けって言われたんだよ。酷くない?」
「まー私は降下はしないけど息子がする事になっているんだよ。」
「...あの」
「いやーでも息子ときたら所謂問題児でね、このままだと棟梁にはさせづらいんだよねー。そこでお主を養子にして息子を支えつつ出世もして、貞純一門を有名にして欲しいんだよねぇ」
ホントによく喋る人だ。こっちの声をまるで聞いていないかのようだ。永遠に向こうのターンのようだ。そんな事を考えていると向こうから思わぬ一言がでた。
「お主この世のものではなく、遠い未来から来たのであろう?どうせ身寄りもいなければ、住む家もない。ナイスタイミングってやつでしょ。」
「どうしてその事を知っているのですか!あとナイスタイミングって、英語を知っているのですか!?」
「無論。実は私も昔奇妙な体験をしてね。未来に飛ばされたことがあるのだよ。その世界では私のような服を着ている者は1人も居なく、みな硯を片手に歩いておったよ。」
「しかも噂に聞くとお主の姓は渡辺であったな。実は未来の図書館なるところで色々調べ事をした時、たまたま渡辺一門について触れてのお、どうやら先祖は皇族らしいではないか。血は遠くともどうせ臣籍降下扱いなら養子にしても問題なかろう」
とんでもない暴論だ。確かに自分の先祖は嵯峨源氏の一族である渡辺氏だ。昔じいちゃんから聞いたことがある。でもいきなり皇族の養子となり、更にその子を支えるなんて俺にできるだろうか...
「因みに私は朝廷で既に亡きものとされているからそこんとこよろしく。あと息子を支えるように頼んだが、臣籍降下した後武家の棟梁となるのはお主じゃからな。」
俺は頭が真っ白になった。貞純親王の息子は何人かいた気がするが、その中でも棟梁になったのはあの源頼朝や義経の先祖である源経基だ。つまり清和源氏の開祖となる人物だ。俺はその経基になれと言われているのだ。それに亡きものにされているってどういうことだ?
「どうして亡きものにされているのですか?それに本っ当に言いにくいんですけど、自分は学もなければ運動もそこまで自信ないです。それに棟梁だなんて...自分には務まりませんよ」 、そう言うと親王は
「先程未来に行ったと言ったであろう?そのせいか私はこの世で行方不明扱いとなり死んだことにされたのだよ。で、戻ってきてホットしたら時代もある程度進んでいて、なかなか自分が親王であると言い出せなくてねー。それならいっそ当時の家来達にだけホントのこと言って隠居しようかなーと思ってね。」
「あと武芸や学問はこれからみっちりとしてもらうから安心してくださいな。嫌と思うくらいしてもらうからねー」
俺は考えることをやめた。どうやらこれは俺の逃れられない運命らしい。
「わかりました。しかし今の私の名前では恐らく怪しまれるのでは無いですか? 」 すると、
「そうだなぁ。じゃあ経基って名前はどうかな?うんそれがいい。未来の書物でどっかで見た気がするけど、まぁいいか。」
「臣籍降下するまで朝廷では六孫王とでも名乗れば?経基王と呼ばれるよりそっちの方がかっこいいし。」
この人は未来の書物をチラ見程度でしか読んでいないのだろう。まさか自分の子孫が栄華を誇るなんて全く知らなさそうだ。それにあの経基や六孫王という名がこうもあっさり決められて良いのだろうか。
「わかりました。取り敢えず朝廷では経基王か六孫王と名乗っておきます。ですが急に朝廷に現れて怪しまれないでしょうか。」
「そこんとこは何とかしておくから大丈夫。それよりも先ずは朝廷での所作とか覚えなきゃだねー」
「....はい。兎に角頑張ります」
俺は泣く泣く自分の運命に従うため、ここでの生活を選ぶこととなった。あの六孫王源経基として。