第29話 友
遂に朝廷の権力者である藤原信西を討ち取った。しかしまだ平家が残っている。平家追討を提案する義平であったが、有頂天の最中である藤原信頼は驚きの発言をする。
斬って 払って
また斬ってを繰り返す
腕を斬り、胴をきる
動けなくなったところを首を取る
俺はいつの間にか戦に慣れていた
純友制圧の為に初陣を経験したあの一戦で慣れた
慣れてしまったのだこの時代の価値観に
俺が殺した兵士にも家族はいただろう、でも躊躇うことも無くあの時は刀を振り下ろしていた
俺は罪を犯しているのではないだろうか。現代なら一発死刑だろう。あの時何人も殺したのだから。
........................
「うへぇ、こりゃあ見てられん」
「あれが権力者藤原信西の首かぁ、一体どうなるものか。」
晒された信西の首を通行人が次々と足を止まらせ凝視している。
「ふー、いやぁ頼朝に優殿、よく信西の首を持ち帰って来てくれた、ガハハハハハハッ!!」
「...しかし殺すのが惜しい人物でしたよ。義朝さんにも見せてあげたかった、貴族の本性を。」
「どうやら信西に何か言われたようですな。しかし既に死んだ今、最早気にする事もござらん。」
「そうですね、とにかく目的の信西排除は叶いました。この後どうしますか?まだ信西の息子達が生きておりますが。」
「んーー、そうだな、ひとまずは保留だな。」
「それにしても良かったですね、父上は播磨守に就任して頼朝は右兵衛権佐に任じられて。俺は何もしてないから恩賞なかったけど。」
実は信西が自害した翌14日、朝廷内の力を掌握した藤原信頼により臨時の除目が行われた。義朝や頼朝以外にも藤原信頼が近衛大将に就任し、朝廷内の力を磐石なものにした。だがクーデターで得た地位のため、非難轟々であった。
「しかし義朝さん、貴族である藤原信頼は信頼できるお方なのですか?」
「確かに私はまだ信頼殿にお会いした事ないです。父上、信頼殿はどんな人なのですか?」
「何というかちょっと欲深い人かな。そうだ、これから館へ集まるところだったからお前たちも来なさい。美味い飯でも振る舞われるかもしれんぞ。」
「なら行くしかないですなぁ」
俺たち一行はその足で藤原信頼の館へ向かった
「いやぁ〜義朝、よくやってくれたな。ささ、これは褒美じゃ、もっと食え食え!!」
「いやぁすみませんなぁ信頼殿!」
山盛りのコメに新鮮な鯛の刺身、豪華な食事が一人ずつ振る舞われた。
「さて、お食事中ですがそろそろ本題に入りましょう、信頼殿。」
「ん?本題とな?」
「私義平から説明致します。まもなく熊野から平清盛ら平家一門が都に戻ります。その前に摂津国で彼らを迎え撃つ算段ですがいかがでしょうか。」
「平家を迎え撃つぅ?そーんなこと必要ない。」
「!?」
「な、何故ですか信頼殿!奴らはいずれ必ず兵を率いてきますぞ!奴らの兵力が高くない今は絶好の好機ですぞ!」
「これだから侍は頭が悪いのぉ。いいかよく考えるんじゃぞ、今こちらには帝や上皇様がついておられる。」
「つまりは我々は官軍だから平家を迎え撃つ必要はないと。」
「そうじゃ義平。もし奴らが我々に反逆すればその時点で奴らは賊軍となる。つまり戦う必要はないのだ。」
「しかし念の為不安の種はここで摘むべきでは?」
「よぉしとも、もういいじゃろ?そなたも頭が固いのお。念願の播磨守になれたのだからもう良いではないか。」
「(もしかして私はとんでもない人と手を組んだのかもしれんな...)わ、わかりました。」
その後少し話をして、飯を平らげ館を後にした。
「...父上、信頼と手を切るべきでは?実際に会ってみましたが、あの方の元では私は命が張れませぬ。」
「気持ちはよくわかるが、源氏の世を作るためだ。まだあの方の力が必要なのだ。」
「しかしあの男、何処か信用なりません。帝や上皇様周辺の警備をより一層固くしておく必要があるのではないですか?」
「優殿、実は私もそう提言しているのですが信頼殿は天狗になっているというか、そうしようとしないのです。」
「そんな馬鹿な、それじゃあ帝や上皇様が平家の元に渡ったら今度は我々が賊軍ですよ!!」
「....よし、ワシからもう一度提言するか....。」
そして17日、平家が帰京した。
朝廷にて
「最近の信頼殿の振る舞いといったら見ていられません...」
「全くだ。どうにかして信頼殿を排除できないものか...」
「やはりお前たちも憤りを感じていたか」
「これは内大臣三条公教殿。そうすると貴方様も...」
「あぁ、実はな。」
「やはりそうですか...我々はどうしたら良いのでしょうか」
「お前たちに話がある、ちこうよれ。」
「.....................」
「な、なんと!?しかし上手くいくでしょうか...」
「やるしかない、これしか手はないぞ。」
そして数日後、運命の12月25日
早朝 信頼の館にて
「いやぁよく来てくれた清盛。してこの書状は一体?」
「それは我々平家一門の名簿並びに信頼様へ恭順の意を示した文となっております。」
「おぉ!そなたまでわしの力となってくれるのか。頼もしいのぉ。どうだ?朝早いが一杯やっていくか?」
「あいにくですが仕事がある故、これにて失礼致します。」
平清盛が信頼の館を出た数時間後、俺と義平は平重盛と合流した。
「....なんだって!?」
「だから今夜だよ!!今夜合戦が始まるんだよ!」
重盛の口から今後の戦について語られた。
「今日の夜、平家に近い貴族の方が帝や上皇様を安全な場所へ移すんだよ!」
「おいおいおい、それじゃあ俺たちは賊軍になるってのか!?ていうかお前こんなこと俺らに言って大丈夫なのかよ!?」
「今はそんな事考えてる場合じゃないぞ義平!お前娘が生まれたばかりだろ?今は兎に角離反して落ち延びるべきだ!」
「なぁ重盛、万が一だが清盛殿は源氏を生け捕りにすると思うか?」
「残念だか優、それは無い。もしお前たちがここで陣営から離反しないと俺はお前達を討ち取らなければならない...」
「マジかよ...弱ったなあ」
「だから頼む、友を殺したくないんだ。離反してくれ!!」
「....義平」
「すまない重盛、俺もお前と同じで将来は源氏の棟梁だ。逃げる訳には行かないんだ...」
「....だよなぁ、どうにもならないのかクソっ!!」
「....とにかく伝えておくべき事は伝えた。俺から伝えられたって親父に言わないでくれよ?殺されるからな。」
「あぁ、わかった。すまないな、重盛。」
「.....ふぅ。」
そしてその日の夜、平家陣営に動き出す
次回義平VS重盛




