第28話 開戦
帝も上皇も軟禁状態、遂に後には戻れなくなった。残るは信西の首ただ一つ。しかし信西は行方を暗まし所在不明。そして義平が信西追討の兵を挙げるが.....
平治元年(1159年)12月10日
「まさか、昨日父上が三条殿を襲撃するとは....」
「俺たちの耳に届いていないってことは相当の情報統制が行われていたはずだ」
「帝も上皇も義朝さんの家臣達が護送し、今は軟禁状態にあると...」
俺も義平さんも汗をかきながら今後の行く末を考えている。ここまで来たら後戻りは出来ない、信西を殺し源氏の天下にする必要があるのだ。
「そういえば義平、信西の行方はわかっているのか?」
「今部下に追わせています。ただ息子達は捕縛しました。」
「残るは信西ただ一人か、」
「(....なんだ?この胸のモヤモヤは?)」
「どうかされましたか、優殿?」
「....ううん、いやなんでもない。そうだ、義朝さんの所へ行こう。何か状況に変化があるかもしれない。」
「そうですね、父上の所へ急ぎ参りましょう。一応甲冑の用意を。」
「あぁ。」
数時間後
「おお、義平に優殿!よく来たな!」
「義朝さん、何か変化は?」
「んーいやそれが、逃亡した信西の行方が全く掴めなくてなぁ...」
「そこで義平に信西追討の兵を率いてもらおうと考えていたところだ。」
「わかりました。では早速出陣します」
「いや、待ってください。」
「?どうかされましたかな優殿。」
「...私が行きます。義平は義朝さんの元にいるべきです。」
「何故ですか?」
「そろそろ都の情報が平家一門の耳に届くはずです。そうなると急いで今日に戻るはずです。その際源氏がバラバラだとこれ迄の成果が水の泡となってしまいます。」
「なるほど。確かに平家も急いで京へ戻るはず...父上、ここは優殿に任せて我々は摂津国で平家を迎え撃つ準備をしましょう。」
「摂津か...そうだな、我々は平家を摂津で迎え撃つ。では優殿よろしくしますね。」
「ただ一つお願いがあります。」
「お願いですか、一体どの様な?」
「....実は」
二日後熊野では..
じーーーーーーー
「おいおい重盛、いつまで文と睨めっこしておるのだ。そろそろワシにも読ま....」
ガタガタガタガタガタガタガタガタ
「手が震えとるぞ、何を恐れているのだ。それに冷や汗まで...お前は将来棟梁になるのだからしっかりしてくれよ」
「ち、父上、今はそんなことを言ってる場合ではありません....」
「んん?なんて書いてあるのだ?」
「我々が六波羅を経ったあとその日の夜に源義朝が三条殿を襲撃、帝と後白河上皇を保護、現在軟禁していると書かれています...」
「ば、馬鹿なァァァ!!」
「それと信西殿が逃亡し、現在追われていると...」
「今信西殿に死んでもらう訳にはいかん。者共!!急ぎ都へ戻り義朝を討ち取るぞ!!」
「(予感が的中した....最悪だ。しかも書状の内容だと義平や優は今回の襲撃を知らない感じか。)」
「父上、今我らの兵は僅かです。義朝らを討ち取るには人数が少なすぎます。まだ彼等と戦う訳にはいきません。」
「確かにそうだが、しかし...」
「今闇雲に動けばこちら側が危ういです。都へ戻りますが、ひとまず源氏方に敵意が無いことを示しましょう。」
「兵はその後集めましょう。」
「.....わかった重盛、そちの策でいこう。」
12月13日 山城国 田原にて
「はぁ、はぁ、はぁ、」
「信西様、すぐそこまで追っ手が来ています!急いで!!」
「...日頃もう少し運動をしておけば」
「わしはもう動けん、ここらで隠れる。」
「隠れる!?しかしここらに隠れるとこなんて何処にも...」
「おいお前、そこら辺に穴を掘ってくれ。私はそこに竹筒で空気穴を作って土に埋もれて隠れる。」
「え、穴ですか?」
「そうだ、奴らとて地面までは確認せんだろう」
「そうですか...とりあえず掘りますね」
えっさ、ほいさ、どっこいしょ
「と、とりあえず、掘りましたよ、ぜェぜェ」
「すまないな、では中に入るゆえ上から土を被せてくれ。」
「わかりました。追っ手が去り次第掘り返しますので、それ迄お待ちください..」
そして数刻後....
「優殿!足音がございます!きっと信西もここら辺に!!」
「そうだな、よしお前ら!ここらを徹底的に探すぞ!!」
「さてと、おい頼朝何をボーッとしてるんだ?」
実は俺がお願いをしたことは、信西を追う際に頼朝を同伴させることだった。ただ何故頼朝を同伴させたかは正直わからない。ただの直感に過ぎない。
「...信西って悪い人なんでしょうか?」
「え?」
「信西は父上らを遠ざけてはいますが、それ以外はどうなんでしょうか?というか殺す程の事なんでしょうか」
素朴な質問だったが俺は答えがでない。というより俺は忘れていたのだ。俺は気づかないうちに人を殺めることに何の躊躇いも無くなっていた。知らぬ間に俺が俺でなくなっていた。
「そ、それは...」
「信西殿のせいで為義さんやその子供達は皆打首に...」
「でもそれは源氏だけでなく平家の方もでしたよね?それに打首になったのは崇徳院の側について反乱を起こしたからではないのですか?」
「....確かにな。なぁ頼朝、お前は源氏の天下を作りたいのか?」
「うーん、作りたいです!!でも少しそれについて気になることが...」
「なんだ?」
「源氏の世っていうより武士の世界を創りたいのです。」
「武士の世かぁ...大きくでたな」
「源氏の世だと、それ以外の者に不満が募ります。それじゃあ朝廷の藤原氏と何も変わりませんよ...」
こいつ本当に13歳かよ...今はまだまだだけど将来大物になるかもな
「なぁ頼朝、信西殿は殺さず捕縛するだけにしよう。俺も彼に聞いてみたいことがあるし。」
「そうしましょう!父上も信西の話を聞けば気が変わるかもしれませんしね。」
「あの〜お取り込み中すみません、あれなんでしょうか?」
「ん?あれは...」
そこにあったのは掘り返した跡がある地面に一本の竹筒が刺さっていた。
すると一人の兵が竹筒の穴を足で塞いだ。
「....んしょ。」
「んごぼぉぉ!ごっほぉぉお!!」
「居たぞぉぉおおおお!!!」
まじかよ、こんなあっさり見つかるものなのか??
もっと他に隠れる方法あっただろ...
「ぜェぜェ、後少しで掘り終わるぞ...」
ある程度掘り起こしたところで信西の上半身が見えてきた
「貴方が藤原信西ですね。私は源義朝の部下である渡辺優でございます。」
「俺は貴方の命を奪うつもりは毛頭ないです。ただひとつお聞きしたいことが...」
「....聞かん名だな。なんだ?」
「何故死刑を再開させたのですか?これ迄平安京では長い間死刑は行われなかったのに」
「そんなことか。簡単なことだ、私は武士という存在が嫌いでな」
「まず源氏開祖である源経基、やつは平将門討伐に関わり名を轟かせた。さらにその子満仲は朝廷内でも力を持ち始めた。武士のくせにな。」
「さらにその数代後源義家はその武勇から初めて昇殿を許され、全ての武士の手本となる存在だ。」
「では何故平家と手を組んだ?彼らだって武士だろ?」
「平家はお前ら源氏よりかはまだ振る舞いがマシだ。どの道いつかは手を切るつもりだったがな」
「何故武士が嫌いなんだ?」
「そりゃあいくら皇族の血が流れてるとはいえ、所詮は地方の田舎侍。学もないヤツらに政治ができると思うのか?政治は我ら賢い貴族に任せておいてお前ら猿どもは本来の役割通り貴族を守れば良いのだ。本来の役割を忘れた欲深き猿どもめ。」
猿か、初めて言われた罵倒だ。だが満仲さんやその子孫である義家、それ以上に武士そのものの存在を否定され、それが俺の癇に障った。
「そうか、本当は直ぐにでも殺したいところだが生かしてやる。有難いと思え。」
「ただ最後に聞いておきたい、朝廷にいる貴族たちはお前と同じような考えをもつ者ばかりなのか?」
「愚問だな。それに生き恥をかいてまで生き残るつもりはない。」
すると信西は短剣を喉に突き立てた
「まさか俺たち武士に生かされるのが恥だと言うのか?」
「そうだ。ではさらばだ野猿よ」
グサッ
信西は短剣を喉に突き刺し自害した。
「.....猿共」
「その言葉だけはいただけんなぁ」
俺は抜刀すると信西の首めがけて思い切り振り下ろした。
ぶしゃ
信西の首は胴から離れ、俺は信西の血で真っ赤になった
「....ぺっ、汚ぇ、」
「おい、この首をその薙刀に括りつけろ。都に戻るぞ。」
「ははっ!」
「なぁ、頼朝」
「なんですか?」
「創るか、武士の世の中」
数日後俺たちは信西の首をかかげ、都を凱旋した。
そして信西の死をもって、戦の火蓋は切られた
今日は長め!




