第22話 運命
戦も終結し残るは戦後処理のみとなった。罪人となる崇徳上皇や源為義、平忠正らの処遇を貴族達が考えているが、予想外の出来事が起こる。
義朝の館にて
「そーいえば俺って何で死なないんだろう」
「もしかしてこの世が荒廃しても俺だけ生き残るとか?」
「そんな運命ヤダよ絶対...あー帰りたいなぁ、でも記憶がどんどん薄れていく...」
「何を一人でぶつぶつ言っておられるのですか?」
「うわ、なんだ義平かぁ、驚かさないでくれよ」
俺と義平は歳がそこまで変わらない、だから俺にとって弟ができたような感じだ。兄弟がいない俺にとってこの時代に来て良かった点だ。
「そろそろ稽古の時間ですよ、父上も待っているので早く行きましょーよ」
「わかったよ、着替えたら行くよ」
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「はぁ」
「あー、はぁ....」
「ねぇ、義平?義朝殿どこか様子が変だけど何かあったの?」
「え、知らないんですか?実は...」
昨日の争乱から数日後、朝廷は戦後処理に時間を費やしていた。
「上皇様は讃岐へ流罪、藤原頼長は戦の最中流矢に当たり亡くなりました。」
「上皇側についていた源為義、源為朝とその兄弟、そして平忠正らも捕えました。」
「さてと、あとは何処に奴らを流すとするかのぉ」
「...流すなど生ぬるい」
ここで戦後処罰に待ったをかけた男がいた。
「何かおっしゃいましたか?信西殿。」
「流刑は生温いと言っておるのだ。上皇様はともかく、上皇側についた武士共は皆死罪にすべきではないか?」
「それは恐ろしい、嵯峨天皇の時代より約三百年間この平安京では死罪など行っておりませんぞ。」
「いや、此度の戦は帝を裏切ったもの達がおるのだ。正に上皇側についた者は皆朝敵である。朝廷に仇なす者は死罪にすべきである。」
平安時代初期、嵯峨天皇の時代に死刑が廃止されてから数百年間この都では処刑は行われなかった。しかし信西の提言により、ここに来て死刑が復活してしまうのだ。これにより為義や忠正の死刑が決定的なものとなるのだ。
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「....てことがあったのですよ」
「そうだったのか...それは気の毒だなぁ。」
「しかも信西殿は執行人として、父上と清盛殿にすると決めたのです。父上は自分の父にあたる為義様を清盛は叔父の忠正殿の首を刎ねなければならないのです....」
「そ、そんなのあんまりだ!自分の父親を自らの手で殺めないと行けないなんて!」
「ですが父上はそれも棟梁の役目だと言って、話を聞かないのです...」
自分の父親の首を斬らないと行けないなんて...
そんなこと許されるのか?何故信西はそんな惨いことをさせるのだろうか
「ん?おぉ、義平に優殿!さぁ稽古を始めますぞ!
さぁさぁ竹刀を持って並んで並んで」
「(なんか見ていられないなぁ、可哀想すぎるよ)」
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次の日
「では確かにお伝え致しました。ではこれで。」
「待ってください!私の手柄に変えて、父や兄弟の命を助けてやってください!このとおり....」
義朝は朝廷から来た使者に頭を下げ続けている。戦では敵だったとはいえやはり肉親達を殺したくないのだろう...
「どうか、どうか、頼みます、お願いします!!」
「...義朝殿、以前朝廷に来た時もお断りしたはずです。これはもう決まったことです。覆ることはありません。」
「......」
「心苦しい気持ちはわかりますが、これは朝廷の命令です。従わなければあなたが、」
「わかったよ!!オヤジや兄弟の首を俺が切り落とせばいいんだろう!?クソォォォォォォオオオ!!!」
「!!...失礼します。」
朝廷の使者が来たこの日、義朝殿の姿は見ていられなかった。平清盛も同じ様に親族の助命嘆願をしたのだろうか...
「...為朝はどうやら流罪に済むらしい。しかし為義らの斬首は免れない、義親の時もそうだったが子孫が次々と殺されるのは何とも言えない気分だよ...」
「...心中お察しします親王様。失礼ながら我々はこれからどうなるのでしょうか....」
「優もわからないように私にもこればかりは解らないな...」
「そ、そうですか...」
館全体がまるで負の雰囲気に包まれている感じだ。
この段階まで来ると俺にできることも最早ない。
義朝殿が報われる日が来るのはいつなんだろう...




