第18話 代償
タイムスリップして現代に戻った。行く宛てもない中街を彷徨うと、お巡りさんがこんにちは。戻って早々留置所生活が始まると思いきや、まさかの再びタイムスリップ。目を覚ますと見慣れた天井が見えるが...
「とにかく皆が待っている。早く来なさい。」
一体誰だろう。検討がつかない。それよりも頭がめちゃくちゃだ。
この時代に変化はないのだろうか...
「...皆揃っているな?では対面といこうか」
親王様がそう言うと俺は襖を開けた
スっ
すると歴戦の猛者の様な見た目の兵士が沢山いた。鎧には笹竜胆の家紋がある、きっと源氏の人達だ。
『お待ちしておりました、六孫王経基様』
「親王様、一体この方達は誰なのですか?」
「...この者たちは優の後見人でもあった源満仲の子孫たちさ」
え、聞き間違いだろうか
親王様の口から源満仲の子孫という言葉が聞こえた。
俺が居なくなってる間に結婚したのか?
いや、俺はどのくらい館を空けていたんだ?それにこの人たちどう見ても30から60代の人もいるよな?
それよりも子孫って言ったか?子や孫じゃなくて?
一体何年経ったんだ???
「お、恐れながら親王様、自分が居なくなってから、一体何年経ったのですか...?」
本当に恐ろしい質問だ。数年なら許容できるが桁違いな数字が出てきそうでならない。一体どれだけの年月が経ったのか。
「自分でも気づいていないようだね...いいかい?落ち着いて聞くんだよ?」
ごくっ。 俺は喉を鳴らした。
「優が居なくなってから約200年と少し経ったよ」
にひゃく?にひゃくと言うと100が2つ揃ってるあれか?
嘘だろ?200年経ったのか?それじゃああの頃の人達は皆...
「つ、つまり親王様、ではあの頃の人達は皆この世には...」
「残念だけど皆この世には居ないよ。でも皆長生きしたよ。満仲なんて80超えてたし。」
そうだったのか、いや待てよ?なんで親王様は生きているんだ?この人が1番謎だ。
「あの、親王さ、」
「いやぁー、とにかく六孫王様が来られたのなら安心じゃな。血筋を辿れば別の源氏であるが、同じ帝の血を引くもの同士。」
「貴方なしに我ら清和源氏、言うなれば河内源氏の名声はここまで轟かなかった...。特別な体験をなされ何百年とたった今でも生きておられる現人神の様な存在、これで源氏の名声も元に戻るッ。」
「す、すみませんあなた達は一体誰ですか?」
すると猛者の一人が答えた
「ご紹介遅れました、私は父為義が長男、現源氏の棟梁である源義朝でございます。そして、」
「その父である源為義にございます。」
「...源氏の棟梁。一体何用で私を待っていたのですか?」
「ここは為義が。お話が少し長くなりますが...」
為義殿の話によるとこうだ。
満仲さんの孫にあたる源頼信が平忠常を討ち取り、その子頼義が東北を平定し、朝廷内にも源氏の勇ましさが轟いた。さらに頼義の義家は武に秀でた英雄的存在でもあり、初めて昇殿を許された武士でもあった。そのため日の本中の兵士が義家を崇めた。
だが、その子義親が反乱を起こし、伊勢平氏に討ち取られたことにより、源氏の名声は徐々に落ちていったようだ。
「我が父義親が真っ当に生きておれば、源氏の名声は天下に轟いたままであったのに...ましてや八男為朝も弓は良いが各地で暴れ回り、とても昔の様な源氏の面影はございません。」
どうやらこの時代の清和源氏、細分化すると彼らが属する河内源氏はこの時代良くない印象の様だ。
「少し話が逸れましたな。では本題です、貴方様にはこの為義か義朝を選んで貰いたいのです」
「え、選ぶったって、何でそんなことを」
「今朝廷では皇位継承問題により、朝廷が二つに割れております。現帝の後白河天皇か前帝の崇徳上皇の2勢力です。更に摂関家の権利争いもそこへ加わり、朝廷は混沌の最中でございます。」
「我々源氏や伊勢平氏の者共、両陣営から声がかかり悩んでおりまする。なのでどちらを選んでも源氏が生き残る為に天皇側には義朝、上皇様側には私為義がつくこととなりました。」
タイムスリップの代償にしては事が大きすぎる。俺は数える程度の山場しか超えてないし、猛者でもない。
どちらの陣営につこうかなんて、直ぐには決められない...
「今宵両陣営が衝突してもおかしくございません。直ぐご決断を。」
「わ、わかった。...よし俺は棟梁義朝殿の方につこう。」
「ハッ!」
勢いで義朝側についたが良かったのかな?
何も起こらなければいいのだが...
「ではワシら上皇兵は行くとするか...おい、行くぞ!」
為義が言うとその場に居合わせた数人の兵士が立ち上がり部屋から出ようとした。すると、
「弟たち、そして父上、ご武運を。」
「あぁ、お前も棟梁らしくしっかりとやれよ、」
「頑張ってくださいよ兄上」
「戦場で泣きべそかいても知りませんからな」
どうやら義朝殿の弟だ。辛いだろうな...
「しかし義朝殿、俺が戦場で源経基って名乗るのは不味くないですかね?ほら、俺既に死んでることになっているだろうし...」
「確か本来は嵯峨源氏のお方でしたな?でしたらこの際本名を名乗るのはいかがですか?」
「本名をですか?」
「確か摂津には嵯峨源氏渡辺綱の子孫たちが渡辺党って言う武士団作ってたよね?そこの出身ってことにしとけば?」
「そ、そんな簡単に決めてもいいのですか親王様」
「問題ないって。それに源経基って名付けた時もそうだったし。」
確かにそうだった。あの時は簡単に名付けられたんだった。今思えば奇行に近くないか、アレ。
「よし!では六孫王様には渡辺党出身の者としてこちら側についてもらいますぞ!」
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その数時間後
「やっぱりタイムスリップか、自分の時もそうだったからなぁ。ここまで長くはなかったけど...」
「しっかし200年かぁ、長いなぁ。にしても館はあまり変わりませんね。」
「そりゃそうとも。君が帰ってくると思って、歴代の棟梁がこの館を今の形のまま残していったんだから。」
「そ、そうだったのか、感謝しないとな。」
「それと一つ疑問なのですが、タイムスリップした人間は不死身なのですか?」
「んーそうかもしれない。ただ単に寿命がものすごく延びたとも受け取れるし、今のところ何とも言えないな。」
「そ、そうですか。」
不死身か桁違いの寿命か、どちらかはわからない。何より周りの人間は殆ど死に、源経基も死んだことになっている様だ。これからは渡辺の名を背負う人間として生きて行く必要があるみたいだ。
(でも渡辺党の人達に俺の存在がバレたら怪しまれないかな?)
この前PV数が急激に伸びました。ありがとうございます。この調子で書くぞい!




