第15話 男
九州で大暴れする藤原純友を討つため、長官小野好古は軍を率いて九州を目指した。これが初陣となるが、初めての戦場で体は動くのか...
「おー、よ、ようやく着いたぞ...」
「さ、さすがに体がこたえるな、経基殿...」
天慶4年(941)5月 小野好古率いる官軍が遂に九州へ上陸した。
「とりあえず、本日は休みましょう、出ないとまともに戦えませんよ...」
「そ、そうだな、そうしましょう。」
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翌朝
「好古様、伝令です!どうやら純友が大宰府を焼き討ちしたとの報告です!」
朝からものすごいニュースだ。どうやら純友は官軍がコッチに来たことにビビり、自分が占領していた大宰府を焼いてしまったのだ。
「...ほう、それで?」
「純友軍は大宰府から脱出、船で逃れたところを後ろから大蔵軍が迎撃しております!しかしながら、戦況は五分五分と言ったところかと...」
「五分五分...そんなに強いのですか、純友は...」
「らしいね、他に連絡は無い?」
「はっ、大蔵殿からの伝言で、純友の配下である桑原成行が手強い、お二人に任せたいとの事です!」
「そうか、あいわかった!!我々は陸路から大倉軍を援護するぞ!!」
「で、では純友とは大蔵殿に任せると...」
「そうだ。俺達は桑原なんとかを討ちに行くぞ。そうと分かれば直ぐに出陣だ!!」
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「こ、これは...」
俺たちが出陣してから数時間後、ようやく大蔵軍の背後である陸路にたどり着いた。しかしそこから見えた合戦の様子は地獄絵図であった。強者同士が体を斬り合い、あるものは矢を放ちあるものは敵の首を刎ねていた。その景色を見て俺はたちまち吐いてしまった。
「ぅぅっっ、おえぇぇぇぇ....」
「軍の副将がそんなのでは思いやられるな経基殿」
「す、すみません好古殿...こんな血なまぐさい戦など初めてでして...」
「なら直ぐに慣れてくれ。俺たちはあそこの陸でやり合ってるヤツらを援護しに行くぞ。無理なら都に帰るのだな経基殿」
「皆の者、海辺の敵を蹴散らすぞ、全員突撃ぃぃぃぃぃぃぃい!!」
そう言うと好古殿は軍を浜辺に向けて突撃させた。だがその時俺は放心状態だった。
(なんて勇猛果敢なんだ好古殿は...それに比べて俺は手も足も出ない)
(ホントに都に帰った方がいいのか?仮に出陣しても足を引っ張るどころか自分が討ち取られそうだ)
「....経基様?行かぬのですか?」
(部下たちの声がする、行かないと、でも、)
(クソ、俺まだ20そこらだぞ。こんな歳で死ぬなんて)
「何をしとるかぁぁぁぁぁぁあ経基ぉぉぉぉ!!!」
「わぁっ!!って忠文殿、追いついたのですか!?」
「そうじゃ、だがこの合戦の様子からするに純友は恐らく負けじゃ。押されすぎておる。じゃが陸の兵士たちが手強い、好古殿は討たれてもおかしくないな。」
良く落ち着いて戦況を見ていられるな。俺はまた吐きそうだ。そう思っていると忠文殿はこちらを見ると、俺の襟を掴み喝を飛ばした。
「それが源氏の棟梁かぁぁぁぁぁぁあ!!経基!!」
「お主は唯の武家ではなかろうがッッッ!貴様はそこらの武家とは違い、帝の血を引く一族の長であろうがッッッ!!」
俺は何も言わず首を縦に振った
「なら、一門の名に恥じぬよう、死ぬ気で戦えぇェェエ!!」
「...クソ、クッソォォォォォオ!!!うらァァァァァァッッッ!!」
俺は覚悟を決めて雄叫びを上げ、抜刀した
「栄えある源氏の強者共よ!今から長官小野好古を援護し、桑原成行を討つ!この六孫王源経基につづけぇぇぇぇぇ!!!」
勢いのまま俺は浜辺に向かって突撃した
「....ふん、それで良い」
「忠文殿、我らは行かなくて良いのですか?」
「わしらが行くまでもない、あヤツらがやってくれるだろう」
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わぁぁぁぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあ
「ん?」
「好古様!背後から経基軍が来ました!」
「...ようやく男となったか、経基殿。全く。」
「よく来てくれた経基殿!!我らは目の前の敵を抑える、お主は敵将桑原の首を取ってまいれ!!」
「承知しましたぁぁ!」
誰だ、誰が敵将桑原成行だ。無我夢中で桑原を探す、兎に角探す、死んでも探す、一族の名に恥じぬようここでヤツを討つ。もう死ぬとかどうでもいい。なぜならここで勝つのはこの俺だからだ、
「笹竜胆の旗印...あれは、源氏の棟梁、源経基か?」
「左様でございます成行殿、噂通りデカブツですな。さらに力もありまする」
「...あヤツを純友様に近ずける訳にはいかん。ワシが迎え撃つ。」
「うらァァァ!!」
「グハッッッッッ!、」
俺は血眼になりながら桑原を探した。道中の敵を何人斬っただろう。幾つもの首を討った。日頃の鍛錬の成果が出はじめている。
「死ねぇぇぇ経基!!!」
「うっ、このクソボケがぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
背後から背を斬られたが直ぐに両断した。頭の中にあるのは桑原の首ただ一つとなっていた。そして、
「うぬが源氏の棟梁源経基だな?」
「...お前が桑原成行か?」
「左様、以前都にいた時に聞いた噂通りのデカさだな。ワシもデカいがそれよりとはな」
「ごちゃごちゃうるせぇぞ成行!」
「初陣の癖に血気盛んだな、経基。いいだろう我が剣で貴様の首を斬ってやろう」
その刹那、互いの剣がぶつかり火花が散った。
「グッっ、、、、」
「....チッ、うらァァァア!!!」
成行の剣が俺の額を切りつけた
「(よし、このまま死ねい経基!!)」
「その首もらったぁぁぁぁぁあ!!」
成行が刀を振りかけた。頭がぼーっとする。意識が飛びそうだ。だがどこからか声がした
「避けろ経基ぉぉぉぉおお!!」
「ハッッッ!」
..............................これは好古殿の声だ、違いない。
意識を取り戻した俺は剣で攻撃を防ぎ、振り払った。
「やべぇ、今の一声がなければ完全にイってたぞ」
「ッッッ!?意識を取り戻したか経基ッッ!!」
「あたりめーだ!!くらえぇ!!」
そう言うと俺の剣は敵の腕を切り落とした
「うぐっっ、、き、貴様ぁぁぁあ」
「な、何ぃぃい!?」
一瞬の隙をついて俺はヤツの首目掛けて剣を振るった、
「今だ経基ぉぉぉぉ斬れぇぇぇぇえええ!!!」
好古が檄を飛ばす
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ」
「うらァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァあああああああああああっっっっ!!!」
ズパッッッ
俺は最後まで振り切り、成行の首が天高く飛んだ。
ドサッと頭と胴体が地面に倒れる音がした。
「な、成行様!?」
「ハァハァはァっっ!!」
俺は成行の首を掴み叫んだ
「敵将桑原成行の首、この六孫王源経基が討ち取ったぞぉぉぉぉぉぉおおおお!!」
「うぉぉぉぉお経基様!!!!」
「許さぬぞ経基ォォォォォ!!」
首を掲げた瞬間、阿鼻叫喚の現場と変わり果てた。
「経基様、追っ手が参ります、直ぐに好古軍と合流しましょう!」
「あぁ、そうしよう」
そこから純友軍と成行残党軍は呆気なかった。純友は大蔵殿の軍に敵わないと悟ると伊予国に撤退し、残党軍は俺と好古殿の軍で殲滅した。つまり、残るは弱体化した藤原純友ただ一人となったのだ...
その日の夜
「ザッザッザ....今日はよくやったな経基殿」
「好古殿、その瓢箪は?」
「これか?これは祝い酒だ!まさか初陣で敵の首を取るとは、予想外だったよ。」
「へへへ、忠文殿に檄を飛ばされたからですよ、だからこの手柄は忠文殿のものです」
「そう言うな。成行を斬ったのはお主だろ?だから誰がなんと言おうともお主の手柄だ。ほれ、飲め飲め」
「では、頂きます」
「って、なんだこれからぁぁぁ!!」
「ハッハッハ、強い酒だろ?」
「(飲めたもんじゃないよ...)」
でもその酒は格別に美味かった、サークルなどで仲間と飲む酒とはまた別の味がした。きっと今後どの酒を飲んでもこの味を越えられないだろう。




