第13話 元の世界へ
平将門の乱も呆気なく終結した。館に帰り、久しぶりのお風呂に歓喜していたところ、またあの景色が目の前に現れることになったが...
その日の夜、久しぶりに風呂に入った。東国遠征により髪も身体も洗えず垢だらけだ。久しぶりの湯はまるで砂漠の真ん中で偶然遭遇したオアシスの様なものであった。
「あーー、きもちぃぃぃ」
「しっかし変わってますね経基殿は。陰陽師に頼らずお風呂に入るなど...この前は自分で爪も切っておられましたし」
「それが現代ではああやって湯に浸かるのが普通らしいよ、俺も試したけど案外気持ちのいいものだよ」
「し、親王様まで。わ、私も試そうかな...」
久しぶりのお風呂、天国だ。なんだかスライムの様に溶けてしまいそうだ。けどこのままだとのぼせてしまう、早いところ上がろう。
「あーいい湯だったなぁ〜」
俺はそう言って自室の襖を開けた。すると襖を開けたと同時に窓から見える空の色が黒から紅色に変化した。あの時と同じだ
「この空の色、あの時と同じだ...もしかしたら元の世界へ帰れるかも、?」
その前に確かめたいことがあった。他の皆はどうしているのだろうか。突然の空の変化に唖然としているか、或いは普段は見られない景色に感激しているだろうか。俺は廊下を走り皆がいる部屋へ駆け出した。
「み、みんな、空の色が...って誰もいない?」
誰もいなかった。さっきまでここには親王様に満仲さん、経生さんが確かにいた。
そうだ、外へ行こう。きっと外でこの景色にふけっているに違いない。そう思い玄関を飛び出した。
「みんなどこへ行ったんだ、」
三人だけでは無い。外へ出ると人の気配が全くないのだ。元々夜だったのでそれもそうだが、こんなにも空が紅いのに誰も空を見ないのだろうか。
そして俺は館の門の敷居をまたいだ瞬間、俺は意識を失った。
「んーん、こ、ここは...って車が走ってる!?」
そうここは俺が元いた世界、あの時気を失った大学の帰り道だった。
「おーい優じゃんかって、お前なんでそんな格好してんだ?ドラマのエキストラ?」
「え、?」
ここには俺が背負っていたカバンと、過去に腰にさしていた刀があり、更に俺は平安時代の服装のままだった。明らかに不審者である。
「あー、そうそうエキストラを頼まれたんだよ、この先で撮影始まるから、じゃ、じゃあまた大学でなー!!」
俺は咄嗟に嘘をつき図書館の方へ走り出した。調べたいことが山ほどある。源経基はどんな人物であったのか、最期はどうなるのか、そして他の皆はどう生きたのか。ひょっとしたらまた過去へ戻るかもしれない。それまでに調べられる事はさっさと調べてしまおうと思ったのだ。
「や、やっと図書館に着いたぞ...ぜェぜェ」
息を吐きながら俺は歴史コーナーの本棚にたどり着き、平安時代中期に関する書物を探し始めた。
「周りからの視線が気になるなぁ、無理もないか」
そんな事を考えながらとある本を読んでいると、源経基について書かれているページにたどり着いた。
「あったぞ、なになに、
源経基は清和源氏の開祖であり、平将門の乱では...」
ここまでは俺が体験したことと同じ内容が書かれている。そして藤原純友の乱について書かれている文があった。しかし俺はその分よりも後に書かれていたとある文が先に目に入った。
「応和元年11月に死亡って、あれから何年後だよ...」
きっとどこかに西暦で書かれているだろう。そう思いながらページを捲り、探している最中にまた空が紅に染まった。
「ま、またかよ。てことは過去へ戻るのか...?」
そんな不安と同時に俺はまた気を失いその場で倒れた。
「━━━おーい」
「━━━━━━━━おーい」
「うわぁ!!ハァハァッ」
「あ、目覚ました!大丈夫、優?」
「あれ、親王様?俺は何を?」
「君の部屋で凄い鈍い音がしたから何事かと思って来たら、君が泡吹いて倒れてたって訳よ」
「な、成程。そ、そうだ親王様!実は...」
俺は事の顛末を全て親王様に話した。
「なるほどねぇ。現代に戻ったのか。」
「は、はい、ひょっとすると空が赤くなるとタイムスリップするのかもしれません。」
「ふーん。確かに自分の時もそうだったなぁ。でも不思議なのは自分と違って元いた時間軸に無事に戻れた事だね。自分は戻った時には年数が大分経っていたからねぇ。」
恐らくこの時代でタイムスリップを経験したのは俺と親王様くらいだろう。もっと情報を集めたいが、誰もタイムスリップのことを話しても嘘としか思わないだろう。
「そ、そうだ親王様、応和元年っていつですか??」
「応和?そんな元号あったっけ?何死ぬの?」
「じ、実は未来の本では俺は応和元年に死ぬことになってまして...」
「んー恐らくこれから来るであろう元号だね。でもそれが何年後かは俺にはわからないなぁ。すまんね。」
「...応和元年かぁ」
いつかはわからないが俺はいずれくる応和元年に死ぬことを知った。それが来年なのか数十年後かはわからない。もし数十年後だったら俺はおじいちゃんになっているかもしれない。自分の死期を知るのは何とも言えない感情が湧いてくるが、それまで必死に生き抜くのが懸命なのだろうか。




