第12話 無傷の帰還
遂に東国にたどり着き、平将門を討つ目前まで迫った。初陣に対する緊張感や罪悪感を背負っていた一方で、連絡兵からの一報が俺たちを唖然させることになる....
その一報を聞いた瞬間、俺は何が起きているのかわからなくなった。
「きゅ、急報です!数時間前、平貞盛と藤原秀郷の連合軍と平将門の軍が衝突ッ、そ、その際、将門はう、討ち取られた模様でございますぅッ!!」
「ば、馬鹿な、連合軍だと?そんな話全く聞いていないぞ?」
「同感です、父上。おい貴様、嘘ではなかろうな?」
「全て事実でございます!どうやら平貞盛は朝廷の討伐兵を待たず、藤原秀郷と共闘しこれを撃退した模様です!」
「あ、あのぉ、非常に申し訳ないんですけど、藤原秀郷って誰です?」
俺はその名前の人物について知らなかった。平貞盛はこれ迄何度か聞いたが、この人物だけは初耳であった。
「さっき俵藤太って言ったじゃろ?そやつの本名が藤原秀郷っちゅうんや。お主ら源氏の長がここにいる経基殿なら我ら武家藤原氏の長は秀郷じゃ。」
「な、そんな凄い人が俺たちよりも先に将門を討つなんてな...」
「な、何はともあれ良かったのではないですか父上、我らの初陣はお預けということで...」
満仲は何処か嬉しそうな表情をしながら話した
「そ、そうだね。では忠文殿、目的が居なくなったので帰りますか?京へ」
「...少し物足りないがしょうがないか。よし、全兵士よ!!これより京へ帰還するぞぉぉぉっっ!!!」
「!?う、うぉぉぉぉぉぉ!!!」
この叫び声の感じ、味方の兵士たちもだいぶ混乱しているな... でもせっかく東国まで来たのにすぐトンボ帰りする羽目になったらそうなるか...
平将門の最後について、資料によってバラバラではあるが、「扶桑略記」には貞盛の放った矢が当たり、負傷したところを秀郷自ら討ち取ったとある。ここに新皇と称した平将門の乱は集結した。
「ふー、ようやく館が見えて来ましたね経基殿」
「全くだよ。まさかトンボ帰りするとはなぁ...朝廷は連合軍の事を知らなかったのかなぁ...」
「確かにそうですねぇ、親王様なら何が知ってるかも知れませんよ?」
俺達は互いが思う仮説を話しながら京の館まで帰ってきた。そして、
「お、帰ってきたな二人とも笑」
「お久しぶりです親王様。」
「ん?何故笑っているのですか?」
俺はちょっと考えた。この人が笑っている時は大概面倒いことばかりだからだ。
「失礼ですが、親王様。此度の一件全て知っておりましたか?」
俺は頭によぎった一つの仮説を直接聞いてみた。すると、
「あーバレちゃった?実はね二人がここを出る数時間後に密偵から連合軍の存在を示す文が届けられてね,言おうか迷ったんだけどせっかく準備までしてもらって悪いから、」
『悪いから?』
「言うのやめちゃった」
やっぱりな
「じゃ、じゃぁ親王様、我々が行く時悲しげな顔をしていたのは...?」
「ゴメン、にやけ顔が止まらず変な顔になってたかも」
その言葉を聞いて満仲さんは唖然としていた。俺もそうだ。この人は本当に親王だった人なのかと疑いたくなった。思わず放送禁止用語を吐きそうになったが、俺はグッと堪えた。
「で、本題なんだけどさぁ、」
「な、なんですか一体...」
「実は瀬戸内海に大暴れしている輩がいてねぇ (ニヤニヤ)」
「ま、まさか」
「そのまさか。チャチャッと討伐してもらえる?」
「そ、そんな軽く言わないで下さいよォ、第一朝廷はなんて言ってるのですか?」
「今回の一件でさすがに忠文と君たちが不憫だからって全く同じ構成で向かわせるって感じかな。いや〜良かってね!見せ場できて笑」
どうやら俺はまたあの老将達と一緒に戦へ行くらしい。やれやれだぜと言いたいところだ...
「ところで親王様、瀬戸内海で大暴れしている輩 とは一体誰ですか?」
「あーそうだったね。実はその男は元々海賊を取り締まる追捕使だったんだけどね、反対に自分が海賊の棟梁になっちゃったの」
「な、なんて人だ...いっ、一体なんて名前なのですか?」
「藤原純友って人だよ」
朝廷には忠平、武家には秀郷や忠文殿、そして海賊の純友まで藤原氏は良くも悪くも色んな人が居ると実感した。




