第1話 戻れない旅
帰ったらシャワーを浴びてバイトに行こう。何気ない事を考えながら大学の校門を出た。
「今日は客が少ないといいなぁ」そう思いながら最寄り駅まで歩いた。
音楽を聴き、鼻歌を歌いながら歩いた。いつもの様に歩いた。
「やっぱりスキマ○イッチは最高だなぁ〜
っておわっっ! 痛ってぇぇぇ.....」
いつもは軽く避けている置き石に今日はつまづいてしまった。顔を上げるとさっきまでの青空はどこにもなく、今見えるのはだだっ広い草原と紅い空だ。何が起きたのかは自分でもわからない。
ただ自分を呼ぶ声が何処からか聞こえる。ふと後ろを振り返ると人がいる。下を向いているが男性だろうか。体はごつく身長は同じくらい、髪はマンバンヘアだろう。漫画やホラーの世界に迷い込んだ気分だ。
「失礼ですがどちら様でしょうか?そして何故名前を知っているのですか?」僕は疑問に思い男に問う。すると先程まで下を向いていた男が顔を上げた。僕は怖くなった。
「え?へ?なんで、どうして」
何故ならそこに居るのは姿は違えど完全に自分だ。鼓動が早まる。恐怖で涙が出てくる。
「優。○○○○○○」
そいつは僕の名前を再び呼び、何かを話しいている最中に僕の意識は無くなった。
「......おーい、おーい、あんちゃん大丈夫か?」
中年の男だろうか。自分が呼ばれている気がしてふと目を覚ました。
「うぅぅ...」
「おお!あんちゃん無事だったか!良かった良かった。せやけど何やそのおかしな格好は。京の人かい?」
「いやぁ、服は至って普通ですよ。それよりここどこですか?」
兎に角一番聞きたい事を聞いた。何故ならそこには家屋もなければ電柱もなく、地面は舗装されていない、とても現代とはかけ離れた景色がそこに広がっているからだ。
「ここは河内だよ。京からも近くていいとこだよ。というかあんちゃん何処から来たんだい?」
河内?なんで昔の地名?、と思いながらも
「愛知から来ました」
そう伝えると男はひょっとこみたいな顔をしながら
「んーそんな地名聞いたこたァねぇな。でももう大丈夫そうだな。おら畑仕事に戻るでな。」
男が目の前から去ろうとして焦った僕は、頭をフル回転しながら聞いた。
「待ってくれ、今何年だ!?」
自分が考えうる最悪の予想を立てながら聞くと男はあっさり答えた。
「何年って、そりゃ今は承平5年だよ」
頭が混乱している。承平と言えば日本史を勉強した人ならわかるが、平安時代の元号だ。
「そうですか...ご親切にどうも」
そう伝えると僕は膝から崩れ落ちた。当たり前だ現代から約1000年前にタイムスリップしてしまったのだから。
「これってあれだよなタイムスリップだよな...仁やサブローよりもずっと前の時代だよな...」
読んだことのある漫画の例えを出しながら、必死に脳をフル回転させ1つの結論に至った。
「俺死んだ」