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二次創作集

家が汚いから

作者: 歌川 詩季

家が汚い 3581

検索用Nコード:N6249IM

作者:島猫。先生

の二次創作です。

 作者の島猫。先生より許可をいただいております。


※ しいな ここみ 先生主催の【リライト企画】参加作品です



 私も、部屋綺麗じゃないです。

「きょう、あとできみの(うち)行くから」


 同じ大学の、同じ法学部・法律学科の、同じゼミの、同性の友人に好かれているっぽい。

 まず、おれはれっきとした異性愛者であることをことわっておこう。

 たしかに、まわりからは同性愛者疑惑をもたれてはいる。

 というのも、高校のときに。クラスでいちばん人気の高嶺(たかね)さんから、(うち)へ遊びに来たいとの申し出があったとき、「おれの(うち)は汚いから無理」との理由でそれを拒絶したからである。

 実際、おれの(うち)は汚いし。彼女が来たがったのも、姉ちゃんが飼っていた、なんとかというトカゲを見たかったからというのが真相だが。男からの誘いにつれない彼女の、爬虫類属性の性癖を知らない野郎どもからは、やっかみ込みの邪推を招き、おれの同性愛者疑惑の噂を呼ぶこととなった。


 おれの進学したのは、高校と系列の大学ということで、同じ法学部・法律学科にも同校出身者は多く、その噂は通説と化していた。

 そして、ある週末。

 同じゼミの友人から「(うち)に来たい」との申し出を、突然受けたのであった。

 気の合う友人で、休日にわざわざ会うことはなくても、大学の帰りにふたりで遊びに行くことも多く。

 まわりから、そういう目で見られていることだろうとは思っていたが。高嶺(たかね)さんとの経緯も説明したことだし、それが誤解とわかってくれているはずだと油断していた。

 当然、こいつに対しても同じ返答で、その訪問をはねのけてはいて。さらに、同性愛者疑惑をさらに強固にされてはたまらない、との理由もある。すでに疑惑と呼ぶには、まことしやかであるが、そのうえ男を連れ込んだ事実を認定されれば、もはや通説・判例となってしまう。疑わしきは被告人の利益にと叫ぼうにも、合理的な疑いの域を脱けてしまうのだ。


 しかし、こいつの申し出は、はじめの一回に終わらなかった。

 それから週末や連休ごとに、おれの承諾を求めての申請が繰り返されて。もちろん、おれはそれを拒み続けたのだけれど。

 おれのところは実家ぐらしで、父ちゃん母ちゃんに、爬虫類好きの姉ちゃん(プラス、トカゲなどが数匹)がいる。 

 古い(うち)のうえに、未整理のあれやこれやが多くて、近所からも「古屋敷」あつかいされていた。

 同性愛者うんぬんを抜きにしても、やはり誰かを呼ぶことはできないのだけれども。

 それを説明してはいるものの、こいつは引き下がることはなかった。

 その熱意を目にして。

 おれは悟った。こいつは、おれの釈明よりも噂のほうを信用したうえで、この訪問は積極的なアプローチなのだと。


 そして、どういうわけか。

 今回、こいつの口から出たのは打診ではなく断定。

 有無を言わせず、(うち)に押しかけると言う。

 どれだけ強く言っても、ついて来る気のようだし。最寄り駅も知られているうえ、会話の中で漏らしてしまった近隣情報から、絞り込みもそう難しくはないだろう。

 おれはあきらめて、渋々ながら同行を許すほかなかった。

 かといって、訪宅までを受け容れたわけではない。(うち)の汚さを外観から納得してもらい、門前払いを余儀なくさせてもらうためである。

 こうして、駅から15分ほど歩いて。

 とうとうおれの(うち)へと、こいつを連れてきてしまった。

 だが、それもここまでだ。おれにアプローチをかけてくる同性を(うち)のなか、ましてやおれの部屋になど入れるわけにはいかない。

 見たろ? この「古屋敷」ぐあいを。

 とっとと、納得して帰ってくれと念じていたそのとき。

 (うち)から、おれの母ちゃんが出てきた。

 そして、おれは彼女の反応に面食らう。


「おかえり。

 あら、いっしょにいらっしゃるあなたが、そうなのね。

 汚いとこ——なのは承知のうえか。

 さっそく、あがっていただこうかしら」

「お邪魔します」

 おぉい! なに?! なんで母ちゃんがおまえのこと知ってんの?!

 すでに、話を通しておいたうえでの「(うち)行くから(断定)」なのかよ!?

「お荷物、もう届いてるから。泊まるのはいっしょのお部屋でいいのね? お布団はあとで()いてあげるわ」

 はぁ? 泊まる?? おれの部屋で?!

 荷物も送っておくなんて、なんて手際だよ。

 しかもあの量。この週末どころか、一ヶ月は滞在するつもりかっていうトランクの数だぞ!?

 てゆうか、母ちゃん。

 家族におれの学校での噂なんて、話したこともないし。仮にそれを知っていたとしても、息子の部屋に恋人と思われる(まったくの誤解だが)同性を宿泊させるつもりか?? なに、受け容れちゃってんの?

 あるいは、単に男友達が泊まりに来ただけだと思っているのかもしれない。

 それはそれで、その状況を悪用して、当のおれが知らないうちにことを進めておくことを、こいつは選んだことになる。

 アプローチうんぬんは置いといて、友人だと思っていたのに! これはもはや、不意打ちを通り越して裏切りではないのか?!

 そして、さらに。この時間に帰宅しているのが珍しい、姉ちゃんまでもが顔を出したではないか。

「ねえ、それが例の子?

 いらっしゃい。くわしい話、聞かせてほしいんで、とりあえずあたしの部屋に来ない?」

「待ちなさい。お父さんともちゃんと話してあるんだから、そっちが先。

 お姉ちゃんは、明日(あした)からでもいいでしょ?」

 ……勘弁してくれ。姉ちゃんはおろか、父ちゃんにまで話が通っているとは。

 そして、揃いも揃って、なんですんなり受け容れてんの?!

 恋人とは思われていないにしても、不自然だろ?!

 おまけにこの汚い(うち)だぜ? てか、おれの部屋に布団を()くスペースなんてあったっけ?

 ……布団が()けないから、同じベッドでなんてことになったら。おれはまさに絶体絶命だ。

「布団を()くなら、場所あけてくるから、おれはちょっと部屋行ってくるよ」

 冷静になるべく、ひとまずこの場を避難しようとしたおれだったけれど。

「じゃあ、ぼくも手伝うね。ひとりじゃ無理だろうから」

 まんまと便乗したこいつは、おれの部屋への侵入を成功させたのだった。



「このクリームは溶剤がはいってて、タバコのヤニで汚れた天井や壁をこするだけで、ずいぶん落ちるんだ」


「とにかく、最初のスペースをつくる!

 そしたら動かせるものを動かして。

 何回にも分けながらなら、床を全面、()き掃除できるでしょ?」


「窓、どのくらい開けてないの?

 フレームの(みぞ)んとこ、綺麗にするよ」


 ええ……と、これはどうゆう???


 おれの部屋への侵入を果たすやいなや。例のトランクのなかから、いくつもの、そして見たこともないお掃除グッズを取り出しては、作業にはいるこいつ。着替えてきた作業着をふくめ、衣類やお泊まりグッズは、たいした量ではないよう。

 唖然として、手伝うことにさえ思いつかなかったおれの混乱した頭にも、ちゃんと理解できるように。やさしく説明してくれたのだった。


 こいつは掃除が好きで、機材を買い集め、将来は個人で清掃委託業を立ち上げるつもりらしい。おれの(うち)にきたがったのも、その練習台。普段から、汚い、汚いと言っておいたので興味がわいて、こっそり見に来ていたそうだ。

 そして、無料だから、おれの友人だからと、まず家族から口説き落として。この週末、二泊三日の大掃除を企画したというわけ。


 まったく、呆れた行動力だ。

 この状況に納得したというか、ひと安心したおれに、こいつは仕事を振ってくる。

「ほらほら、まだぼくには雇ってる従業員もいないんだから。

 きみも、手伝ってくれなきゃあ。

 じゃないと、今週末だけじゃなくて、来週末まで泊まりにくることになるよ?」

 冗談じゃない。それこそ、大学の連中に知られたら、おれたちがつきあってるってみなされてしまう。法律用語で「みなす」は「推定する」とちがって、くつがえることはないのだ。

 しぶしぶ、こちらもジャージに着替えてきて、雑巾を手にしたおれに。

 なんのつもりか、どこまで本気か。

 こいつは、あやしげな言い回しをする。


「けっこう、スジがいいじゃない

 これだったら、きみが就職きまらなかったときは、ふたりで仕事やるってテもあるよね。

 雇うんじゃなくて、共同経営者。

 いわば——夫婦みたいなものかな」


 悪気(わるぎ)なさそうに、笑えないことを言う。

 将来の選択肢をくれるのはありがたくはあるが、そのジョークは勘弁してほしかった。



 ……ジョークだよな???

 掃除は苦手。

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【こちらの作品の二次創作です】
家が汚い 3581
作者: 島猫。 先生
― 新着の感想 ―
[一言] 家が汚いと聞くとゴミ屋敷のイメージが有ります。 あまり行きたくないですね。
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