7.人手不足
7.人手不足
<ヤギュウ社の猛将イングマル率いる調査隊は、あっけなく蛮族に返り討ちにあった。イングマルは理術師の未知の力により殺されたという>
「火を噴く?触れずに相手を吹き飛ばす?」
ウィルスンが顔をゆがめた。
「俺はおとぎ話を研究しろとお前に命じたわけじゃないぞ」
「もちろん、この資料を鵜呑みにする必要はないです。しかし、こう記載される程の力を持ち、蛮族がヤギュウ社に圧力をかけていることが噂や資料から読み取れます」
「ヤギュウ社が重装備でイングマルまで連れ出して作戦をしたことを考えると、その力の存在を当初から認めた上で襲撃したと考えるべきか……」
「はい。そして、そうまでしてロコ族を攻撃する理由があったと見るべきです」
「宗教関係の対立か?」
「この時代に秘密裡に小さな宗教を潰すためにイングマル将軍を派兵したと?」
「うーむ。何かあるのは間違いないが情報が少ないな……」
「何かあるにしても、直接フォルク社とは関係なさそうな事件ですけどね」
「いや、ある。ロコ族について調べてみたい。実際足を運ぶ必要がありそうだ」
「危険すぎます。イングマルが率いる部隊が壊滅した土地ですよ」
「他に対策がないんだ。ロコ族の力の正体も気になる。ヤギュウ社の弱みを握って序列を維持できる可能性がある。そこが一番重要だ」
「まず軍事部門も本課もきっと人員をよこしてはくれないですよ」
「調査隊はこちらで集める必要がありそうだな。世界大戦を止めるための仲間だ」
「世界大戦、ですか。現実的に、避けられるのでしょうか」
「避けるしかないだろ」
「人員の当てはありますか?」
ウィルスンは首を振った。
「マイク。お前はロコ族や理術についての資料を集めてくれ。おとぎ話や噂でも構わない」
マイケルは資料のウィンドウを閉じるジェスチャーをしながら頷いた。
「将軍、ジョージ達なら動いてくれるかもしれません」
「ジョージか……まあいないよりましか」
ウィルスンが肩をすくめるとマイケルが苦笑した。
◇
ウィルスンが家に着いた時、すでに日付が変わりそうな時間だった。
ウィルスンが帰ってきても出迎えがなかった。フリーダはとっくに寝ているようだ。
机にラップされた食事が置いてある。娘が作ってくれたのだろう。このところ食欲がないが、娘の作った料理を食べないわけにもいかない。
ウィルスンは胃に食事を流し込んだ。
キリキリと痛む胃に顔を歪めながら、ウィルスンは「ロコ族調査メンバー」の人員について考えていた。
いよいよ自分も切羽詰まっているのかもしれないな、とウィルスンは思った。
この世界の平和が長く続かないことだけはわかっていて、それでもフリーダの平和な日常を守りたいとウィルスンは思っている。
そのためならなんだってできる。なのに打つ手がない。
ウィルスンは、食事を済ませ、風呂に入り、着替えを済ませ、寝室に向かう間中、ずっと考えていた。
おとぎ話や伝説の類の調査のために予算や人員をくれ、というのは横領と思われても仕方ないだろう。傍から見れば旅行の類と違いがない。
それでも、ヤギュウ社の序列の追い上げを止める必要がある。
そもそも、ウィルスンが集められる人員の目途が立たない。
マイケルやジョージだけでは、イングマルが倒されるほどの危険に立ち向かっても上手くいくとは思えなかった。
自己満足で死ねば、何かが変わるわけではない。調査は成功しなければならない。
今日もまた悪夢を見るのだろうか。
大丈夫よ、とサラの声が聞こえた気がした。
その時、ウィルスンは何かを思い出したような気がした。が、疲れが限界でそのまま眠りに落ちていた。
意識がまどろむなか、銃声が聞こえた。
――サラ。俺はどうしたらいい。