14.答え
<愛する家族と会うため、ウィルスンは死に物狂いで戦場を駆け抜けてきた。そこで妻の死の知らせを聞いたウィルスンは……>
彼は戦場にふさわしくない無力感に打ちひしがれ、膝をついた。
『大丈夫よ』
と言い残し彼女は去った。
ウィルスンは家族を守るために、必死に戦った。
何よりもまず、家族を守りたかった。
彼女が残した娘、フリーダは当時わずか九歳だった。
フリーダは母が兵士に撃ち抜かれる姿を目の前で見た。そして戦闘の荒波に飲み込まれ、傷を負ったと報告を受けた。
サラ。一体なにが大丈夫なんだ。
ウィルスンは膝から崩れ落ちた。
しかし、そのあいだにも、ネルビオの戦況は常に変化していく。
エルデでも爆発と瓦礫の破片と銃弾が飛び散っている。
ウィルスンはその光景が、まるで別の世界のように思えて、身体に力が入らなくなった。
娘を、守らなくては。
頭でそう思うのに、思考にもやがかかったように冴えない。
「……R区は今どんな状態だ」
かすれた声で問う。
「派遣された中隊はほぼ壊滅ですね。逃がせる住民は逃しましたよ。部隊を本部まで引き上げますか?あ、お嬢さんは戦線から離れて無事避難できましたよ」
状況に不釣り合いな軽い調子の声がウィルスンの脳に直接流れ込んできた。
「R区の兵力は後どれだけ残ってる」
「さあ。ここには俺たち七名だけです」
なんだこの態度は。ウィルスンは怒りに震えた。こんな士気の低い者がいるから、サラが……。
それはヤツアタリだとわかっていた。
自分がR区にいたら、あるいはこの状況が違ったものになったのかもしれない。
「引き上げることは許さない。前線に戻れ」
「は?もうこの一帯は敵が押し寄せてますよ。下がるべきです」
「敵前逃亡は死罪だ。いけ」
ウィルスンは怒鳴りつけるように言った。
「いやいや……」
通信先の相手が続けた。
「俺は娘を助けたんだぞ。その命の恩人に死ねと?」
ウィルスンは耳を疑った。一兵卒が、ウィルスンに公共の通信でこのような態度を取ることは、信じ難い出来事だった。
「お前、誰に口をきいてるんだ?」
「申し訳ありませんウィルスン事業部長。動揺して口調が乱れてしまいました」通信相手が九に丁寧な口調で言った。
「この場では将軍だ。撤退は許されない。いけ」
通信相手から溜息が聞こえた。
「お偉いさまはこれだから困る」
「上手に生きていたいならば上官にはよく選んだ言葉を使うようにしろ」
通信相手はそれに笑って答えた。
「言葉を選んでも選ばなくても、あんたらは簡単に人の命を捨てるでしょ」
通信はそこで途切れた。
思わずウィルスンは近くの瓦礫を殴りつけた。周りの兵士たちの肩がびくっと震える。
拳から血が垂れてきた。
ウィルスンは今の怒りで、少しだけ活力を取り戻したようだった。
娘のために戦わなければ。
それにしても……
「さっきの頭の悪そうな隊員の名前はなんだ?」
はっ!と兵士が答える。
「こちらが兵士のデータになります」
情報ウインドウに、営業第四課。ニール・スラッグ。と表示された。
――ニール・スラッグ!!
こいつだ!この男だ!
ウィルスンは悪夢と現実のつながりを引きちぎるように、長い夢から目覚めた。