12.包囲と混戦
<ウィルスンはD区の退却任務の途中、仲間のマイケルの足が撃たれた。ウィルスンは仲間を救出しながら、戦闘を続ける。戦闘の舞台は仮想空間ネルビオ内にも及ぶ。ウィルスンは家族の安否を確認する。態度の悪い兵士が現れる。>
ウィルスンは凄まじい反応速度で、足下に転がった手りゅう弾を蹴り飛ばした。
そして手近な瓦礫の壁に飛び込んだ瞬間、手りゅう弾が爆発。
ウィルスンはマイケルを抱えたまま吹き飛ばされた。その身をしたたかに地面に打ち付けながら転がり、尖った瓦礫が何度も身に刺さり、瞬時に駆け巡る激痛が嵐のように神経を巡る。彼の筋肉のあちこちが裂傷を起こしていた。
ウィルスンは四肢が無事であることを確認するように、身をよじりながら、
「ジョージ、そのまま隊を率いて後退しろ」
脳波で仲間に通信した。
● ● ●
ジョージの返事を聞き、ウィルスンはマイケルの応急処置をした後、また前線で戦う仲間と合流し、他の部隊の撤退作戦を支援した。
自分の部隊だけ逃げても、前線に穴をあけられれば総崩れとなる。
ゆるやかに、そして確実に前線を下げていく必要があった。
ウィルスンは指揮を取りながら自ら銃を取り奮闘した。
「他の味方はどうした?」
ウィルスンが叫ぶ。
「間もなく到着します!」
「指示を送る。合流せず、レーダーの索敵をかわせ。ガンマにネルビオで錯乱させろ」
敵の援軍がどんどん前にきている。アンドロイド兵、パワードスーツ兵が増えてきた。
軍事訓練を受けた狼のような姿をした”理獣”が、人間の兵士たちと息を合わせて戦闘に身を投じている。
理獣の暗い紫の毛は、触るだけで刺さりそうだ。
全方位に跳ねるその毛を揺らしながら、理獣どもが四方に散らばった。
ヨダレを垂らしながら呼吸を繰り返す。口から飛び出た舌が、呼吸に合わせてびらびらと揺れる。
地面に鼻をつけてひくひく動かし、何かを見つける。するとおもむろに顔を上げ、遠吠えした。仲間への合図だ。
理獣はレーダーより正確に、フォルク社の兵士たちの位置を特定した。
そして人間と同等の狡猾さで包囲して、ウィルスンたちを追い詰めた。
ウィルスンたちは敵のアンドロイドや理獣たちに囲まれた。
敵はじりじりとウィルスンたちに詰め寄った。
確実に殲滅する意向だ。
しかし、それはウィルスンにとって予想通りだった。
ウィルスンが指示を仲間に出す。
「なに!レーダーにはうつらなかったのに!」
敵がどよめいた。
敵の更に外側。援軍のフォルク社のアンドロイドと理獣が現れた。
仲間が敵を囲む。
ウィルスンは敵に囲まれる事を見越して、あらかじめ指示を出していたのだった。
ウィルスンは腰のベルトにぶら下がった銃剣を取り外す。
洗練された無駄のない所作。
銃剣が、風の縫い目を裂くように、銃の先端まで流れついた。
FBR16の先端に取り付けると、金属が金属に触れる。おうとつが噛み合った音が空間を刺す。
どこからともなく一発の銃声が鳴り響き、乱戦が始まった。
ウィルスンの股の下を走り抜ける敵の理獣。
速い。
ウィルスンは即座に上体を前に畳んで、自分の足の間から背後を確認した。剣先を獣に向ける。
すると理獣がウィルスンが銃を撃つ前に――すでに倒れていた。