10.挟撃のアンドロイド
10.挟撃のアンドロイド
<フォルク社のウィルスンの部隊はヤギュウ社の猛攻により壊滅した。彼は孤立した。しかし、どうあっても愛する家族の元へ帰らなければならない。ウィルスンはジョージたちの部隊と合流する。その後、撤退の途中、アンドロイドに挟まれてしまい、絶対絶命の状況に陥るが……>
ウィルスンたちは二体のアンドロイドに挟まれた。戦うしかない。
ここは全員で一か八か片方を倒す。ウィルスンは決意した。
「本部側のアンドロイドを全兵力をもって制圧する。全員武器を構えろ」
しかし、後ろからもう片方のアンドロイドに撃たれるのは必至だ。
「将軍、自分が後ろのアンドロイドに向かいます」
マイケルが言った。
マイケルは小隊長であるジョージのバディだ。
十人でアンドロイドと戦っても勝てる保証がない。
一人でアンドロイドに立ち向かうのは自殺行為だった。
マイケルがやろうとしていることは、部隊の後方を守るための時間稼ぎ。
それは、仲間のために自らの死を望む提案だった。
ジョージは何か言いたげだったが、マイケルの意思を尊重したのか、言葉を飲み込んだ。
「わかった。時間を稼ぐだけでいい。無理だと思ったら下がってこっちに合流しろ」
ウィルスンは言った。
アンドロイド二体はまもなく角を曲がり、ウィルスンたちの目の前に現れようとしていた。
「将軍」
マイケルが言った。もう時間がない。
「下がってもよいというお話ですが、アンドロイドを倒してからでも構いませんか?」
それは人気の作品で、ヒーローが命がけで格好つける時のセリフのようだった。
ウィルスンは笑った。
「背中は任せた。あいつを倒してこい」
部隊は一斉に敵に向かって駆け出した。
アンドロイドは素早く、ウィルスンは何度も命を刈り取られそうになった。
桁違いの強さだ。
しかし、アンドロイドにしてはどうも動きが遅い。とウィルスンは感じた。
その理由を深く考える余裕がないほどに、ウィルスンは意識を集中していた。一瞬の一つ一つをなんとか乗り切る事に。
日が高く上る。そこに向かう戦場の煙。まるで神がタバコを吸いながらウィルスン達の運命を眺めているようだった。
どすん、とアンドロイドが倒れた。
味方の死傷者は一人もいなかった。
もともと、ここいら一帯のアンドロイドはほとんどいないという話だった。今二体も同時に現れたのが想定外だった。
残っていた今のアンドロイドも、これまでの戦闘で消耗していたのだろう。
マイケルも――信じがたいことだが――アンドロイドに対して何時間もの間、たった一人で奮戦していた。
ウィルスン達はマイケル側のアンドロイドも消耗してると判断し、全員でマイケルを援護した。
そしてアンドロイドを二体、無傷で倒したのであった。
もうすぐ本部に着く。そしたら戦線は安定する。R区にいけば家族に会える。
ウィルスンは自分を奮い立たせるように自らの頬を叩いた。
しらけた太陽が、高い位置からウィルスン達の奮戦を眺めていた。まるでつまらない映画の結末を見てるように。
● ● ●
隊員たちは、少しひらけた道に出た。
敵と味方が撃ち合っている。
お互いが崩れた建物や、柱を遮蔽物にしていて、膠着しているようだ。
K区の本部にいくにはここを通らなければならない。
ウィルスン達の向かい側。
その遮蔽物にいるたくさんの味方と、合流する必要がありそうだ。
そこまでいくと他の味方部隊とも合流できる。
そうすると、人数が増えて撤退の動きが安定する。
すぐそこだ。簡単にたどりつける。少し駆ければたどり着けそうだった――敵味方の弾丸が、ひらけた路面に飛び交ってなければ。
建物と建物のあいだのひらけた路面。
遮蔽物から銃口を突き出して弾幕を展開しあう両陣営。
敵の銃弾が飛び交う中をつっきらなければならず、危険が大きかった。
無事に抜けられるだろうか。ウィルスンの額に冷や汗が滲む。
ここで一発でも弾を食らって倒れたら、救護される可能性は低い。
もし、倒れたら――敵味方の弾丸が飛び交う中で、続けて被弾するだろう――絶命する確率が高い。
ウィルスンの隠れていた遮蔽物のすぐそばに銃弾が当たり、地面に穴が開く。
ウィルスンは地を踏みしめた。
「サラ。俺を守ってくれ」
ウィルスンは愛する妻に祈った。
彼は仲間たちの先頭に並び、敵の弾丸が飛び交う難所に向かって飛び出した。