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ロコ  作者: Onimichi
10/16

8.悪夢の続き


<ウィルスンは悪夢の続きを見る。フォルク社とヤギュウ社の抗争で、ウィルスンは指揮を執っていた。目の前に現れた敵歩兵部隊の銃口に晒されたウィルスンは……>


 ウィルスンは敵の銃撃に負けじと自らもFBR16を構えた。


 ウィルスンが指揮していた歩兵部隊もそれに合わせ、遮蔽物から身を乗り出す。


 一斉にエネルギー弾が連射される。


 ここで敵を抑え込み、一旦下がって立て直そう。ウィルスンはそう思った。




 フォルク社の兵士たちは、流れるような手つきでマガジンを排出した。




 空のマガジンが地面に落ちる音。




 薬莢がリズミカルに地面をたたく音。




 周囲の緊迫した空気で、それらが命の脆さを奏でている。




 敵兵の歩兵たちは素早い身のこなしで射線から隠れる。それと交代して、身を乗り出した敵部隊が、被弾しながら突っ込んできた。




 「くそ、パワードスーツ部隊だ!」




 人間の肉体的な限界を超えるために全身に取り付けられた装甲。


 人の本来の反射神経をより高め、エネルギー弾を避けることができる。


 ウィルスンの部隊の歩兵ではとても敵わない。部隊の壊滅は必至だった。




 「止めるな!撃て!」




 戦うしかない。




 ウィルスンはスライドを引き、銃に新しい弾丸を食わせた。金属が金属を打つ音を小さく響かせる。

 

 彼は即座に身を乗り出した。


 エネルギー弾が飛び出す連続した反動が、鎖骨の隙間から全身に伝わる。




 敵のパワードスーツがウィルスンの弾をうけて爆発した。


 しかし、依然として大量の敵が迫り続ける。




 「だめだ、止めきれない!」


 敵部隊がエネルギー弾を装甲の硬さで、弾をはじき返す。その弾が味方の身体を貫通する。味方は声も上げずどさりと倒れた。




 「まずいぞ」ウィルスンは目を見開いた。




 ウィルスンの視界の中央に映る敵部隊は瞬く間に大きくなっていた。人間離れした速さだ。




 数少ない歩兵部隊。弾をはじき返すほどに強い敵のパワードスーツ部隊。




 人間の足の何倍も速い機動力。




 太刀打ちできない。




 死。




 ウィルスンの脳裏に虚無がよぎった。



 ● ● ●



 ふと、以前に食べたサラが焼いたピザの味をウィルスンは思い出した。


 初めて使うチーズの味が想像以上に絶品で、娘と三人で喜んだっけ。ウィルスンは内心でほほ笑んだ。


 娘がピザを落として、泣きだしてウィルスンは焦っていた。




 ウィルスンが、おろおろしてる間に、サラは娘の口を拭いながら


 「あなた、拭くものをとってきて」


 と落ち着いていった。




 娘が大粒の涙を目にためながら、ウィルスンを見上げて……


 ウィルスンは、どう声をかけるべきか思案していた。




 サラの唇が動いた。




 あの時言った言葉は――




 ● ● ●



 ウィルスンは止まっていた時間から現実にかえった。


 こんなところで死ぬわけにはいかない。




 考えろ。




 ウィルスンは、高まる心臓と乱れる呼吸で、ぶれる照準を敵に合わせた。




 一体でも多く、殺す。




 突破口を作る。必ず帰る。




 命が終わろうとしている。時間の流れが遅くなる。必要のない映像が脳裏に浮かんでいく。身体中の細胞全部が壊れそうな気がする。




 それでも、ウィルスンは死を拒絶する。




 目の前まで来たパワードスーツ。振りかぶられる鉄塊の剣。振り降ろされたら、身体が跡形もなく潰れるのだろう。




 ウィルスンは雄たけびを上げながら、パワードスーツの足下に飛び込んだ。





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