140字小説まとめ9
仕事で疲れて帰っていたら、男性とトラックが現れた。
「安息の場所、トラックホテルでございます」
男性はお辞儀し、トラックは尻を向けて荷台の扉を開けた。中は煌びやかな部屋だ。驚いて中に入ると、目の前が急に真っ暗になった。
「美味しい?」
トラックはエンジンを吐いて返事をした。
『トラックホテル』
大学の小説創作の授業に落ちた。せっかく講師が私の大好きな作者さんだったのに……。仕方ない、モグリしよう。そう覚悟を決めていると、母親が呆れたように言った。
「そんなに必死に取るもの? 必修単位優先にしなさい」
「嫌だ!」
「いつでも受けれるわよ。目の前に当の講師がいるんだから」
『取りたい!』
その龍の絵は今にも動き出しそうだった。横にした細長い紙を上手く使って、龍の飛ぶ姿を緑色のボールペンで巧みに描いている。野心の輝きが秘められていると分かる瞳に、人間の爪程の細かい鱗。
職人技だ。私は感動した。
でも、試し書きの紙で書かないで……。
後片付け、したくなくなるよ……。
『書店員の嘆き』
君が悪いんだ。僕の事を気にかけておいて、こっちが歩み寄るとすぐ逃げる。だから家を特定したり、付き纏いをしたり……僕のものにする為に君を手にかける事は当然の事理だ。息絶え絶えになっている好きな人を見下ろした。反対に、好きな人は涙目で俺を見上げた。
「殺してくれて、ありがとう……」
『他人任せ』
演劇部所属の妹が主役を取った。号泣した。いつも頑張ってたもんね。しかも台本も演出も殆ど妹が手掛けたらしい。さらに号泣した。本番当日、劇を見に行った私はハンカチが重くなるぐらい号泣した。
だって、劇の内容が不登校の姉を救う物語だったから。
現実のお姉ちゃんも、学校に行くね……!
『泣き虫お姉ちゃん』
俺の知り合いは毎日誰かと遊んでいる。そもそも一人でいるところを見た事ない。
「なんでそんなに人といるの?」
予定帳に遊ぶ予定を隙間なく埋める知り合いに、ふと聞いてみた。
「僕、本当はいなくなりたいんだ。でも人といると、この人達が悲しむかもしれないなって、立ち止まれるから……」
『強制抑止力』
初登山に挑戦した山が、傾斜がなく、平坦な道ばかりだった。初心者向けの山と聞いたが、これは山といえるのか。とりあえず進んでいくと、すぐに頂上に着いた。白い雲の上に燦々と輝く太陽が見え……って、標高が高くなってる!? その時、地面が蠢き、何かが浮き上がってきた。
『登頂おめでとう!』
『初心者に優しすぎる山』
好きな人にアプローチをし続けて、デートをこじつけた。長かった……。連絡先を頑張って交換して、暇さえあればメールでやりとりして……やっと私の恋が実るのね。スキップしながら待ち合わせ場所に行くと、好きな人の他にもう一人いた。
「僕の友達だよ」
好きな人が紹介した相手は私の今カレだった。
『罠』
「太陽の神様と月の神様は仲直りしたの?」
娘が『明』と書かれた紙を持ってきた。天照大神と月読命のお話を聞かせたからかな。
「どうだろう。仲良くなって欲しいって願ってるのかもしれない」
「そうなら、叶うといいね」
娘は、和音という名にふさわしい思いやりのある子に育ってきている。
『文字の願い』
「もしもし母さん、俺……」
『あら、どんなツラ下げて電話してんのかしら?』
「え……」
『家の全財産持って行って、水商売の女と駆け落ちして、私に借金肩代わりさせて……他にもあったわよね?』
「いや、その」
『骨の髄まで祟ーー』
ツーツー……
「オレオレ詐欺リストから、消しとこう……」
『歪んでいるから』
友達は明鏡止水という言葉が似合うような奴だ。優等生で、非の打ち所がない。だけど、好意を寄せられると柔らかく突き放す……冷めた瞳を、浮かべながら。これは私しか気づいてない秘密事。少しの優越感はあるが、友達が自分に向ける瞳はいつもと変わらず温かい。
本性はまだ、見ることができない。
『暴きたい』
友達が幽霊屋敷に引っ越したらしい。俺は心配になって様子を見に行ったが、そこに住む幽霊は優しかった。扉を開けて出迎えてくれたし、お茶も出してくれた。姿は見えないけれど。
「良かったな、イイコで」
友達は笑顔でこう答えた。
「調教しがいのあるコだよ」
空気が震えた、ような気がした。
『幽霊調教』
「愛しているわ……もう、貴方をこの部屋から」
「出さないし、出たとしても脱出不可能な立地にいるのかな。後、君は初心者? 鎖を足に付けないと被害者はすぐ逃げちゃうよ」
「なんでそんなに詳しいの……?」
「十回程経験してりゃね」
詳しくもなるよ、と俺はイカレ誘拐犯の鳩尾を殴った。
『監禁慣れ』
窓際族の元上司は、いつもパソコンに齧り付いている。仕事なんてないのに、くだらない見栄張ってるなぁ。私含め職場の皆は呆れている。窓際族は頑張っていたが、やがて辞めていった。空気が綺麗になった職場で、私は今日の新聞を広げた。
作家となった窓際族が、笑顔でインタビューを受けていた。
『人知れず努力』
遠くに行きたくて運転をしていたら、いつの間にか助手席に誰か座っていた。
「お前もうちょっと走る?」
「まあ……」
「やめときな〜」
楽になれんから、と顔中血塗れの幽霊は消えていった。残されたのは、崖っぷちにある車とそれを運転している私。
「……一旦戻るか」
私は車をバックさせた。
『踏み止まる』
友達から久しぶりに連絡が来た。赤ちゃんが生まれたとの事。結婚してたのかあいつ。さらに、赤ちゃんを見に来て、と誘われた。男だから行かない方が良いんだろうけど、夫さんは歓迎しているというので見に行った。友達は『人形の』赤ちゃんを抱いて、出迎えてくれた。
「家族になるのよ、私たちが」
『誘い出し』
人のすすめで、一人暮らしを始めた。四六時中傍にいて、心配だからと学校にも会社にも送り迎えをかかさず、進路を決めてくれた両親から離れるなんて不安だ。だけど、いざ距離を取ってみると、不安はなく楽だった。二人とも大好きなのにな……。
自分で作ったあたたかいご飯を食べながら泣いた。
『気づき』
友達とお泊まり会をした。会話の流れから恋バナが始まり、友達は好きな人とは実際に会えないけど、必ず会ってみせると語った。凄い熱意だ。どんな人なのか問うと、友達はベッドの枕を退けた。
枕の下には、とあるアニメキャラのブロマイド写真があった。
「私の推しキャラよ! カッコいいよね!」
『次元が違う』
「ここ危ないよ」
歩いていたら、突然通りすがりの少年が私のお腹を指差した。何、怖い。子宮辺りに違和感あるから、今まさに産婦人科に行って検査するところであった。私が怯えていると、少年は優しい声色で続けた。
「僕が入るから、ちゃんと手術してもらってね」
少年は、消えていった。
『教えてくれた』
女手一つで育ててくれた、母さんの背中が好きだった。僕は病弱だったから、病院に行く時とかよく背負ってもらった。母さんの背中は案外広くて、温かかった。
「どうしたの? ニヤニヤして」
懐かしくなっただけだよ、母さん。
大きくなった僕は小さくなった母さんを背負い、帰路へと向かう。
『交代』
寝たい。でも、持ち帰りの仕事が終わらない。俺は重い瞼を起こすため、コーヒーを淹れに一旦席を離れ、台所へ向かった。
行ったみたいだね。いつも一人で大量の仕事をこなしてる、ここの家の人は凄いなぁ。
よぉし、この座敷童子様が幸せを運んであげよう。
僕は腕捲りをして、仕事に取り掛かった。
『座敷童子の仕事』
「お前この日空いてる? 空いてるよね、いつも暇だって言ってるし」
「え」
「コラボで商品売り出したんだ、俺の好きなアニメ。でも数量限定のモノだからさー、着いてきて?」
「……じゃあ、助けろ俺を!」
友達が、屋上の手すりにぶらさがりながら叫んだ。
あ、故意じゃないのね。良かった。
『見当違い』
「そうは言ってもさ、やることやんなきゃ、ね?」
友達が、貼りつけた笑みを浮かべている。もう言い逃れは出来ない、というか言い逃れしすぎた……。
「やんなきゃ一生進まないの、分かってるよね?」
友達は、鞄の中から悍ましいモノを取り出した。
「進級条件の課題、早く終わらそ?」
『平和な追い詰め』
「こっちに来てはいけないよ、坊や」
山奥を歩いていたら、美人なお兄さんに出会った。
「この先は化け狸が住む世界だから、人の子はダメだよ」
そう言うと、お兄さんは消えた。
……未熟者か。俺は宙で一回転すると、お兄さんに化けた。
新参者の化け狸くんを、ちょっくら鍛えてやらねぇとな。
『先輩の有難いご指導』
近所に男性と女子高生が引っ越してきた。叔父と姪御という関係らしい。
「姪御の両親は、去年交通事故で他界してて……」
疲れた様子の男性を見て、私は支えたいと思った。男性の家に毎日訪れて差し入れ等をしていたが、姪御ちゃんに来るなと言われた。
「あいつ、私目当てで両親殺したから」
『忠告』
「見えてる〜?」
『うん』
恋人がスマホ画面越しに現れる。風邪を引いて寂しくなったと言うので、オンライン通話を繋げた。
「顔色悪いね……看病したいな」
こんな時に仕事の出張なんてなぁ……。その言葉を聞いた彼女は、俯いた。かと思うと、画面の中から飛び出してきた。
「ヤサシイネ……」
『えっ……?』
姉の婚約者が亡くなった。姉は悲しみに暮れ、朝から晩まで泣き続けてたから、姉を元気づけるために、こう言った。
「冥婚っていうのがあるらしいから、僕が仲人さんやるよ」
姉は当然怒った。
「アンタを犯罪者にする程か弱くない!!」
姉はその後、段々元気になっていった。
作戦、大成功。
『ちょっとした刺激作戦』
学校の図書室で本を読んでたら、リア充がイチャつき始めた。幸い視界には入ってないが、声で分かる。最悪、人気がないからってしないでよね。私は腹いせにリア充の間を突っ切る事にした。声がする方へと、力強く足を踏み出す。
担任の先生と、同級生が顔を赤くしていた。
……二人は、同性だった。
『しのぶ恋』
このままベッドと結婚したい。会社行きたくない。でも働かないとお金貰えないし、行くしかないな……。俺はベッドから起き上がろうとすると、突然部屋のドア付近に大量の金袋が現れた。さらに、ドアが勝手に閉まり、鍵のかかる音がした。
『結婚しようね!』
ベッドから、妙に弾んだ声が聞こえた。
『良い相手?』
「あーあ」
「元気出して! 次は好きな人とうまく行くよ!」
「次なんてない。あいつ、デキ婚してた……応援してくれてたのに、ごめんな」
友人に弱々しく微笑むと、急に取り乱し始めた。
「ダメ! 私が生まれてこない事になる——」
声が、ブツリと途切れた。
「……俺、今誰と話してたんだ?」
『手遅れ』
最近、商品の万引きが相次いでいるから、いつもより注意深く店内を見回していた。ん? 棚で怪しい動きをしている客がいる! 咄嗟に捕まえると、何とバイトだった。今日は出勤日ではないはず……。問い詰めると、バイトは嬉しそうに言った。
「商品に発信機仕込みました! これで万事解決ですね!」
『違うそうじゃない』
私は、誰も愛せない。例え、男手一つで育ててくれた父でも。でも、父はそんな私を認めて愛してくれる。私を愛して、何が楽しいんだか。父の事を内心見下していた。やがて、父は病に罹って亡くなった。父の葬式では沢山の人が泣いた……私も、泣いた。
これから、私は誰に食わせて貰えばいいんだ。
『非道』
飛行機に乗った事も、空港に行った事もなかった。……だから今、めちゃくちゃテンションが上がっている。もうすぐであの空の中にいるんだと考えると、興奮で顔中が熱を帯びた。もうそろそろ時間だ。俺はゲートまで行くと、手荷物検査を難なく済ませた。
案外、上手くいったな。
クスリ持ってても。
『初密輸』
「待って〜!」
先を歩いていた、彼氏の腕を掴んで引き止める。私を見た彼氏の表情は、どこか固い。緊張してるの? デートなんて何回もしてたじゃない。私は笑顔で言うと、彼氏はゆっくりと呟いた。
「なんで……? 連絡先も住所も変えたのに」
何言ってるの? 私は一生貴方の彼女よ!
『恋する乙女』
星が出来た、と友人は黒い玉を見せてくれた。薄汚れた小さな玉で、夜空に浮かぶ星ではなさそうだ。そして夜、星が上がるから、と友人に誘われて、私は屋根の上に座っていた。空は真っ暗だ。困惑していると、ドーンと大きな音がした。
「星の集合体だ!」
友人は笑顔で、大輪の花火を指差した。
『星の花火』
幼少期、野生の狐と一緒に遊んでいた。野生の狐と人間が戯れるのは良くないらしいけど。数年後、疎遠だった狐は僕の前に現れた……絶世の美女に化けて。
「私、仲間外れになったの」
責めるような口調に、僕は恐怖で身がすくんだ。
「貴方と居るために」
君から、逃げれたと思ったのに……。
『狐の自発的な嫁入り』
朝起きたら歯がムズムズした。嫌な予感がする……。試しに歯を触ってたら揺れた。俺は洗面所に駆け込み、鏡の前で口を開けて絶句した。全部の大人の歯が子供の歯になっていたのだ。
「助手くーん? 私が発明した口内が幼児化する薬、成功した?」
同居人の博士が笑顔で問いかけるまで、後3秒。
『小さな波乱の前触れ』
絵を描く事が人生だった。何にも食べず、一睡もせず、鉛筆を取って画用紙に力強く滑らし続けた。描いて描いて……やっと大作が出来上がり、力尽きた。でも、まだ描ける……私は瞼だけ動かして、完成した絵を見た。
『絵を描いている自分』の絵が画用紙から飛び出した。
……これで一生、絵が描ける。
『画霊』
あ、美人さんだ。ふわり、と香水が鼻腔を擽り、振り返る。モデルみたいに背の高い女性が、白いフォーマルなワンピースを着て歩いていた。秀麗な百合だな。そう思いながら、私はそのまま帰路に着いた。
「おかえり……どした?」
おかしい。出迎えてくれた兄からさっきの女性と同じ匂いがする……。
『秘密』
もう会えなくなる。親しくしている村娘にそう伝えた。
「へぇ、そりゃまたなんで?」
俺は、黙って俯いた。卑怯な奴で、すまん……。
「アンタの正体が村中にバレたからかい? おにぃさん?」
俺は慌てて顔を上げる。村娘は目を細めて手を差し伸べる。
「オニさん、一緒にいきますかい?」
『誘惑』




