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140字小説まとめ9

作者:
掲載日:2023/03/28


仕事で疲れて帰っていたら、男性とトラックが現れた。

「安息の場所、トラックホテルでございます」

 男性はお辞儀し、トラックは尻を向けて荷台の扉を開けた。中は煌びやかな部屋だ。驚いて中に入ると、目の前が急に真っ暗になった。

 

「美味しい?」

 トラックはエンジンを吐いて返事をした。


『トラックホテル』







大学の小説創作の授業に落ちた。せっかく講師が私の大好きな作者さんだったのに……。仕方ない、モグリしよう。そう覚悟を決めていると、母親が呆れたように言った。

「そんなに必死に取るもの? 必修単位優先にしなさい」

「嫌だ!」

 

「いつでも受けれるわよ。目の前に当の講師がいるんだから」


『取りたい!』







その龍の絵は今にも動き出しそうだった。横にした細長い紙を上手く使って、龍の飛ぶ姿を緑色のボールペンで巧みに描いている。野心の輝きが秘められていると分かる瞳に、人間の爪程の細かい鱗。

職人技だ。私は感動した。


でも、試し書きの紙で書かないで……。

後片付け、したくなくなるよ……。


『書店員の嘆き』









君が悪いんだ。僕の事を気にかけておいて、こっちが歩み寄るとすぐ逃げる。だから家を特定したり、付き纏いをしたり……僕のものにする為に君を手にかける事は当然の事理だ。息絶え絶えになっている好きな人を見下ろした。反対に、好きな人は涙目で俺を見上げた。


「殺してくれて、ありがとう……」


『他人任せ』







演劇部所属の妹が主役を取った。号泣した。いつも頑張ってたもんね。しかも台本も演出も殆ど妹が手掛けたらしい。さらに号泣した。本番当日、劇を見に行った私はハンカチが重くなるぐらい号泣した。

 

だって、劇の内容が不登校の姉を救う物語だったから。

現実のお姉ちゃんも、学校に行くね……!


『泣き虫お姉ちゃん』








俺の知り合いは毎日誰かと遊んでいる。そもそも一人でいるところを見た事ない。

「なんでそんなに人といるの?」

予定帳に遊ぶ予定を隙間なく埋める知り合いに、ふと聞いてみた。

「僕、本当はいなくなりたいんだ。でも人といると、この人達が悲しむかもしれないなって、立ち止まれるから……」


『強制抑止力』








初登山に挑戦した山が、傾斜がなく、平坦な道ばかりだった。初心者向けの山と聞いたが、これは山といえるのか。とりあえず進んでいくと、すぐに頂上に着いた。白い雲の上に燦々と輝く太陽が見え……って、標高が高くなってる!? その時、地面が蠢き、何かが浮き上がってきた。


『登頂おめでとう!』


『初心者に優しすぎる山』








好きな人にアプローチをし続けて、デートをこじつけた。長かった……。連絡先を頑張って交換して、暇さえあればメールでやりとりして……やっと私の恋が実るのね。スキップしながら待ち合わせ場所に行くと、好きな人の他にもう一人いた。

「僕の友達だよ」

好きな人が紹介した相手は私の今カレだった。


『罠』







「太陽の神様と月の神様は仲直りしたの?」

 娘が『明』と書かれた紙を持ってきた。天照大神と月読命のお話を聞かせたからかな。

「どうだろう。仲良くなって欲しいって願ってるのかもしれない」

「そうなら、叶うといいね」

 娘は、和音という名にふさわしい思いやりのある子に育ってきている。


『文字の願い』








「もしもし母さん、俺……」

『あら、どんなツラ下げて電話してんのかしら?』

「え……」

『家の全財産持って行って、水商売の女と駆け落ちして、私に借金肩代わりさせて……他にもあったわよね?』

「いや、その」

『骨の髄まで祟ーー』

ツーツー……


「オレオレ詐欺リストから、消しとこう……」


『歪んでいるから』








友達は明鏡止水という言葉が似合うような奴だ。優等生で、非の打ち所がない。だけど、好意を寄せられると柔らかく突き放す……冷めた瞳を、浮かべながら。これは私しか気づいてない秘密事。少しの優越感はあるが、友達が自分に向ける瞳はいつもと変わらず温かい。

本性はまだ、見ることができない。


『暴きたい』








友達が幽霊屋敷に引っ越したらしい。俺は心配になって様子を見に行ったが、そこに住む幽霊は優しかった。扉を開けて出迎えてくれたし、お茶も出してくれた。姿は見えないけれど。

「良かったな、イイコで」

 友達は笑顔でこう答えた。

「調教しがいのあるコだよ」

 空気が震えた、ような気がした。


『幽霊調教』







「愛しているわ……もう、貴方をこの部屋から」

「出さないし、出たとしても脱出不可能な立地にいるのかな。後、君は初心者? 鎖を足に付けないと被害者はすぐ逃げちゃうよ」

「なんでそんなに詳しいの……?」

「十回程経験してりゃね」

 詳しくもなるよ、と俺はイカレ誘拐犯の鳩尾を殴った。

 

『監禁慣れ』








窓際族の元上司は、いつもパソコンに齧り付いている。仕事なんてないのに、くだらない見栄張ってるなぁ。私含め職場の皆は呆れている。窓際族は頑張っていたが、やがて辞めていった。空気が綺麗になった職場で、私は今日の新聞を広げた。

 

作家となった窓際族が、笑顔でインタビューを受けていた。


『人知れず努力』








遠くに行きたくて運転をしていたら、いつの間にか助手席に誰か座っていた。

「お前もうちょっと走る?」

「まあ……」

「やめときな〜」

楽になれんから、と顔中血塗れの幽霊は消えていった。残されたのは、崖っぷちにある車とそれを運転している私。

「……一旦戻るか」

 私は車をバックさせた。


『踏み止まる』







友達から久しぶりに連絡が来た。赤ちゃんが生まれたとの事。結婚してたのかあいつ。さらに、赤ちゃんを見に来て、と誘われた。男だから行かない方が良いんだろうけど、夫さんは歓迎しているというので見に行った。友達は『人形の』赤ちゃんを抱いて、出迎えてくれた。


「家族になるのよ、私たちが」


『誘い出し』








人のすすめで、一人暮らしを始めた。四六時中傍にいて、心配だからと学校にも会社にも送り迎えをかかさず、進路を決めてくれた両親から離れるなんて不安だ。だけど、いざ距離を取ってみると、不安はなく楽だった。二人とも大好きなのにな……。

自分で作ったあたたかいご飯を食べながら泣いた。


『気づき』








友達とお泊まり会をした。会話の流れから恋バナが始まり、友達は好きな人とは実際に会えないけど、必ず会ってみせると語った。凄い熱意だ。どんな人なのか問うと、友達はベッドの枕を退けた。

枕の下には、とあるアニメキャラのブロマイド写真があった。


「私の推しキャラよ! カッコいいよね!」


『次元が違う』








「ここ危ないよ」

 歩いていたら、突然通りすがりの少年が私のお腹を指差した。何、怖い。子宮辺りに違和感あるから、今まさに産婦人科に行って検査するところであった。私が怯えていると、少年は優しい声色で続けた。


「僕が入るから、ちゃんと手術してもらってね」

 少年は、消えていった。


『教えてくれた』








女手一つで育ててくれた、母さんの背中が好きだった。僕は病弱だったから、病院に行く時とかよく背負ってもらった。母さんの背中は案外広くて、温かかった。


「どうしたの? ニヤニヤして」

懐かしくなっただけだよ、母さん。

 大きくなった僕は小さくなった母さんを背負い、帰路へと向かう。


『交代』







寝たい。でも、持ち帰りの仕事が終わらない。俺は重い瞼を起こすため、コーヒーを淹れに一旦席を離れ、台所へ向かった。


行ったみたいだね。いつも一人で大量の仕事をこなしてる、ここの家の人は凄いなぁ。

よぉし、この座敷童子様が幸せを運んであげよう。

僕は腕捲りをして、仕事に取り掛かった。


『座敷童子の仕事』








「お前この日空いてる? 空いてるよね、いつも暇だって言ってるし」

「え」

「コラボで商品売り出したんだ、俺の好きなアニメ。でも数量限定のモノだからさー、着いてきて?」

「……じゃあ、助けろ俺を!」

友達が、屋上の手すりにぶらさがりながら叫んだ。


あ、故意じゃないのね。良かった。


『見当違い』








「そうは言ってもさ、やることやんなきゃ、ね?」

友達が、貼りつけた笑みを浮かべている。もう言い逃れは出来ない、というか言い逃れしすぎた……。

「やんなきゃ一生進まないの、分かってるよね?」

友達は、鞄の中から悍ましいモノを取り出した。


「進級条件の課題、早く終わらそ?」


『平和な追い詰め』








「こっちに来てはいけないよ、坊や」

 山奥を歩いていたら、美人なお兄さんに出会った。

「この先は化け狸が住む世界だから、人の子はダメだよ」

 そう言うと、お兄さんは消えた。

……未熟者か。俺は宙で一回転すると、お兄さんに化けた。

 

新参者の化け狸くんを、ちょっくら鍛えてやらねぇとな。


『先輩の有難いご指導』








近所に男性と女子高生が引っ越してきた。叔父と姪御という関係らしい。

「姪御の両親は、去年交通事故で他界してて……」

疲れた様子の男性を見て、私は支えたいと思った。男性の家に毎日訪れて差し入れ等をしていたが、姪御ちゃんに来るなと言われた。


「あいつ、私目当てで両親殺したから」


『忠告』








「見えてる〜?」

『うん』

 恋人がスマホ画面越しに現れる。風邪を引いて寂しくなったと言うので、オンライン通話を繋げた。

「顔色悪いね……看病したいな」

 こんな時に仕事の出張なんてなぁ……。その言葉を聞いた彼女は、俯いた。かと思うと、画面の中から飛び出してきた。


「ヤサシイネ……」


『えっ……?』









 姉の婚約者が亡くなった。姉は悲しみに暮れ、朝から晩まで泣き続けてたから、姉を元気づけるために、こう言った。

「冥婚っていうのがあるらしいから、僕が仲人さんやるよ」

 姉は当然怒った。

「アンタを犯罪者にする程か弱くない!!」

 姉はその後、段々元気になっていった。


 作戦、大成功。


『ちょっとした刺激作戦』








学校の図書室で本を読んでたら、リア充がイチャつき始めた。幸い視界には入ってないが、声で分かる。最悪、人気がないからってしないでよね。私は腹いせにリア充の間を突っ切る事にした。声がする方へと、力強く足を踏み出す。

担任の先生と、同級生が顔を赤くしていた。


……二人は、同性だった。


『しのぶ恋』








このままベッドと結婚したい。会社行きたくない。でも働かないとお金貰えないし、行くしかないな……。俺はベッドから起き上がろうとすると、突然部屋のドア付近に大量の金袋が現れた。さらに、ドアが勝手に閉まり、鍵のかかる音がした。


『結婚しようね!』

 ベッドから、妙に弾んだ声が聞こえた。


『良い相手?』








「あーあ」

「元気出して! 次は好きな人とうまく行くよ!」

「次なんてない。あいつ、デキ婚してた……応援してくれてたのに、ごめんな」

 友人に弱々しく微笑むと、急に取り乱し始めた。

「ダメ! 私が生まれてこない事になる——」

 声が、ブツリと途切れた。


「……俺、今誰と話してたんだ?」


『手遅れ』








最近、商品の万引きが相次いでいるから、いつもより注意深く店内を見回していた。ん? 棚で怪しい動きをしている客がいる! 咄嗟に捕まえると、何とバイトだった。今日は出勤日ではないはず……。問い詰めると、バイトは嬉しそうに言った。

「商品に発信機仕込みました! これで万事解決ですね!」


『違うそうじゃない』








私は、誰も愛せない。例え、男手一つで育ててくれた父でも。でも、父はそんな私を認めて愛してくれる。私を愛して、何が楽しいんだか。父の事を内心見下していた。やがて、父は病に罹って亡くなった。父の葬式では沢山の人が泣いた……私も、泣いた。


これから、私は誰に食わせて貰えばいいんだ。


『非道』








飛行機に乗った事も、空港に行った事もなかった。……だから今、めちゃくちゃテンションが上がっている。もうすぐであの空の中にいるんだと考えると、興奮で顔中が熱を帯びた。もうそろそろ時間だ。俺はゲートまで行くと、手荷物検査を難なく済ませた。


案外、上手くいったな。

クスリ持ってても。


『初密輸』








「待って〜!」

 先を歩いていた、彼氏の腕を掴んで引き止める。私を見た彼氏の表情は、どこか固い。緊張してるの? デートなんて何回もしてたじゃない。私は笑顔で言うと、彼氏はゆっくりと呟いた。

 

「なんで……? 連絡先も住所も変えたのに」

 

 何言ってるの? 私は一生貴方の彼女よ!


『恋する乙女』








星が出来た、と友人は黒い玉を見せてくれた。薄汚れた小さな玉で、夜空に浮かぶ星ではなさそうだ。そして夜、星が上がるから、と友人に誘われて、私は屋根の上に座っていた。空は真っ暗だ。困惑していると、ドーンと大きな音がした。


「星の集合体だ!」

友人は笑顔で、大輪の花火を指差した。


『星の花火』








幼少期、野生の狐と一緒に遊んでいた。野生の狐と人間が戯れるのは良くないらしいけど。数年後、疎遠だった狐は僕の前に現れた……絶世の美女に化けて。

「私、仲間外れになったの」

責めるような口調に、僕は恐怖で身がすくんだ。


「貴方と居るために」

 君から、逃げれたと思ったのに……。


『狐の自発的な嫁入り』







朝起きたら歯がムズムズした。嫌な予感がする……。試しに歯を触ってたら揺れた。俺は洗面所に駆け込み、鏡の前で口を開けて絶句した。全部の大人の歯が子供の歯になっていたのだ。


「助手くーん? 私が発明した口内が幼児化する薬、成功した?」

 同居人の博士が笑顔で問いかけるまで、後3秒。

 

『小さな波乱の前触れ』








絵を描く事が人生だった。何にも食べず、一睡もせず、鉛筆を取って画用紙に力強く滑らし続けた。描いて描いて……やっと大作が出来上がり、力尽きた。でも、まだ描ける……私は瞼だけ動かして、完成した絵を見た。


『絵を描いている自分』の絵が画用紙から飛び出した。

……これで一生、絵が描ける。


『画霊』








あ、美人さんだ。ふわり、と香水が鼻腔を擽り、振り返る。モデルみたいに背の高い女性が、白いフォーマルなワンピースを着て歩いていた。秀麗な百合だな。そう思いながら、私はそのまま帰路に着いた。


「おかえり……どした?」

 おかしい。出迎えてくれた兄からさっきの女性と同じ匂いがする……。


『秘密』








もう会えなくなる。親しくしている村娘にそう伝えた。

「へぇ、そりゃまたなんで?」

俺は、黙って俯いた。卑怯な奴で、すまん……。

「アンタの正体が村中にバレたからかい? おにぃさん?」

俺は慌てて顔を上げる。村娘は目を細めて手を差し伸べる。


「オニさん、一緒にいきますかい?」


『誘惑』


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