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パーティから物理的に追放され、勢い余って結界をぶち破った先は精霊達が住む森でした

 


「は? また休憩を取れって?」


「すみません……」


 パーティの空気が重くなるのを感じる。

 ダンジョン攻略開始から2日ほど経ち、なんとかボスを倒し、ようやく出口付近まで来たところだった。


 そこにきて本日4回目の休憩。

 その理由全てが僕の魔力切れによるものだった。


「魔法を使えるから優遇していたものを……これじゃまるで使い物にならないな。荷物持ちどころか荷物そのものじゃねぇか」


 岩に座って愚痴をこぼす剣士のルーイ先輩。盾使いのダンさんと回復士のミラさんも呆れた顔で僕を睨み付けている。


「本当にすみません……」


 迷惑にならないようにと薬は常備しているが、即時的な効果がないため、落ち着いた場所で回復を待つのが安全だ。

 ただ、それだけパーティの足を止めることになる。

 僕がいなければとっくに踏破してたに違いない。


「なぁ、とりあえず荷物全部出せよ」


「え?」


「深い意味はねぇよ。荷物がなくなればお前の負担も減るかなと思っただけだ」


「あ、ありがとうございます!」


 僕は収納(ストレージ)を使い、荷物を引っ張り出した。たしかに荷物の重さや数によって魔力の減りが決まるし、皆さんが持ってくれるなら魔力の節約にもなる。


 四人分の鞄に、数日分の食材、調理器具、野営の道具、採掘道具、四人分の予備の防具、四人分の予備の武器、予備の矢筒、道中倒した魔物の死体、ボスの死体、採掘した鉱石、宝箱のアイテムなど――


「魔法の威力もショボいし、結界は脆いし、荷物持ちくらいにはなると思ったけど、それすらままならないだなんて」


 斥候のリリィさんが不機嫌そうに魔物の素材を剥ぎ取り始め、他の三人は各々の戦利品を鞄に詰めていく。

 食材や調理器具類、野営道具などはそのまま置かれていた。


「それはアナタが持ってて。もったいないけど、どのみち一緒(・・)だし」


 イライラした様子のミラさん。

 皆さんのおかげでかなり軽くなった。


 リリィさんが貴重部位だけ剥ぎ取った後、残った物を再び収納(ストレージ)に入れる。周囲に魔物の反応はないので、節約のため隠密魔法と結界魔法を解く。それから照らす光の範囲を広げ、ダンジョン内の光量を上げた。


「残りは出口だけですが、灯りだけは付けておきますね」


「……」


 ボス戦でも僕は戦力にならなかった。


 皆さんは元々強いから付与魔法(エンチャント)なんてあってないようなものだし、魔法攻撃でも大して貢献できてないらしい。


 唯一の救いは、僕がいかに未熟で弱いのかを声に出して教えてくれるところだ。

 言われているうちが華とはよく言ったもので、他人にしか見えない問題点は当然他人にしか指摘できない。

 課題は山積みだけどその分やりがいがある。

 はやく皆さんから頼られる存在になりたいなぁ。


「おいアルゴ」


 不意に立ち止まったルーイ先輩は、ボス戦前にあった幼稚なトラップ魔法陣を指差した。全員がそちらへ向かうので、慌てて僕は止めに向かう。


「あれってもしかして王都に帰れる転移魔法陣なんじゃないか? 戦い詰めでクタクタだし、転移で帰れるならそれに越したことはないんだが……」


 転移魔法陣というのは、ダンジョン内にも稀にある空間移動魔法の類だ。特に何階層もあるダンジョンには救済措置的に設けられてたりするけど――


《鑑定結果:吹き飛ばしの魔法陣》

《効果:魔法陣の上に乗った対象をランダムな場所に吹き飛ばす。90%が発射・落下の衝撃で死亡する》


「ダメですね、やっぱりコレは――」


 そこまで説明した瞬間、僕の体は大きく弾かれた。見ればそこに盾を構えたダンさんと、笑みを浮かべた皆さんの姿があった。



「今回の報酬でもっといい魔法使いを雇うわ。悪いけどお前、クビな」



 足が魔法陣に乗った刹那――

 僕は砲弾のように空へと射出された。


 全身の骨という骨が砕ける痛み、そして重圧によって僕の意識は暗転した。







 遠くで硝子が砕ける音が聞こえた。


 体が落下していく感覚の後、水とも沼とも違う場所に落ちた僕は、目の前に転がった石のような物が割れるのを、ただボーッと眺めていた。

 

 体が痛い。

 指一本も動かせそうにない。


『助かったーーー! って、人間!?』


 どこからともなく声がする。

 若い、それも女性の声のようだ。


 答える力も残ってない僕は、ただただ目の前を眺めるしかできなかった。


『人間は殺、ころさなきゃ……』

『でもでも私を助けてくれたよね』

『怪我してる。そこまでして私を……』

『それになんだか、いい香りがする――』


 その言葉は断片的にしか聞こえなかったが、人間の言語ではなかった。

 それは昔趣味で勉強していた〝精霊語〟によく似た言語だった。







 賢狼パーティがダンジョンから帰還すると、ギルド内は大いに盛り上がった。


「クリアしたのは摩天ダンジョンらしいぞ」

「嘘だろ? あんなのどうやって攻略すんだよ」

「てかあの人数でボスまでよく倒せたな」


 摩天ダンジョンとは、王都近くにある難攻不落ダンジョンのうちの一つ。

 階層はそこまで多くないが、一つ一つが広大かつ複雑。罠の種類が大陸一多く、ボスはS級合同パーティでも苦労する強さだと聞く。


「まぁアルゴさんがいるなら当たり前か……」


 皆に担がれるルーイから視線を逸らし、グラスの酒をあおる。

 ()の優秀さを知る人なら、この結果は驚くほどのものではない。

 そもそも、なぜあんなパーティに未だに所属しているのか理解できない。


「なにぶつぶつ言ってんのパトリシア」


「え! な、なんでもないですよ」


「あーーわかった、賢狼のルーイ様に見惚れてたんでしょ?」


 賢狼パーティはここ最近目覚ましい活躍で一気にS級に駆け上がった期待の冒険者達だ。特にリーダーのルーイは容姿端麗・頭脳明晰で追っ掛けがいるほど人気らしい。


「私が? 有り得ませんね」


「そ、それは言い過ぎでしょー」


「そもそも賢狼とか……あのパーティに賢い人なんていませんし」


 行き当たりばったりの脳筋パーティだから、アルゴさんが帳尻を合わせてくれてるのにも気付かない。

 まともに依頼報告書すら書けない連中だ。雑務も全部アルゴさん任せだし、不当な扱いを受けてるアルゴさんが気の毒でならない。


 でも、一番馬鹿なのはアルゴさんだ。

 自分が利用されてることに気付いてない。


『あんな所は抜けて私のパーティに入ってください』

『ありがとう、気持ちだけ受け取っておくよ。でも僕は先輩達からまだ何も学べてないから』

『そもそも学べる物がないんだから、学べなくて当然ですよ!』

『あははは。相変わらずパティは厳しいね――』


 アルゴさんは偉大な魔法使いだ。

 膨張抜きで私はそう思っている。


 収納魔法が使えるだけでも超貴重なのに、回復士の専売特許である結界魔法、斥候の役割である索敵・隠密・鑑定も魔法でこなし、攻撃魔法の精度だってギルドトップなんだから。


 生まれ(・・・)は私と似た境遇なのに、彼は決して弱音を吐かない。ハンデを理由にしない彼を私は心から尊敬している。


「そもそも魔力量だって……」


「やあパトリシアちゃん。今日も素敵だね」


 噂をすれば例のルーイ様だ。

 私はこの軽薄そうな笑みが大嫌いだ。


「摩天攻略で名実共に俺はトップ冒険者になった! なぁいい加減うちに来ないか? ちょうど魔法使いの枠が空いたんだよ」

 

「……え?」


 枠が空いた? 魔法使いの?

 ここの魔法使いって――


「どこ……?」


 いない。彼がいない。


「さあ? 今頃空でも飛んでるんじゃね?」


 無能な狼達がゲラゲラ笑い出す。


 いない。いない。彼がいない。

 魔力探知にも彼の気配は映らない。

 ダンジョンに置き去りにされた?

 もしかして死――

 

「ゔうううあああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 気付けば私は凍て付く竜の咆哮(アイスロア)でルーイ達を氷漬けにしていた。

 こんなもの、アルゴさんなら簡単に魔法無効化(ディスペル)できるのに。


 こんな奴らに。

 こんな奴らに。

 こんな奴らに。


「今迎えに行きますからね」


 ギルドメンバー達の制止を振り切り、

 私は一人摩天ダンジョンに向かった。



 その頃ギルド内では――

 賢狼パーティの救出が行われていた。


「おい誰か火の魔法使える奴連れてきてくれ! 最悪お湯でもいい!」


 強者揃いのギルドだが、相手も普通の氷ではない。冒険者総出で破壊を試みるも半端な魔法では傷一つ付かず、剣や斧をナマクラに変えた。


「パトリシアがぶちギレるとこうなるのか」


「他のS級が来るまで待つしかねえよ!」


「S級パーティを瞬殺とは……恐るべしドラゴンハーフ」


 氷塊の中で笑顔を浮かべたままの四人。恐らく、自分達が攻撃されたことにすら気付いていないのだろう。


「ちょっと待って。摩天のボスを倒せるパーティを一撃で倒すパトリシアって何者?」


「パーティが弱かったとか?」


「あの実績でそれはないだろ」


 などと囁かれながらも数時間後、他のS級冒険者の助力によって賢狼パーティは無事救出された。

 経緯を聞いて四人は激怒するも、一連の報告を受けたギルドマスターは、パトリシアおよびアルゴの救出部隊派遣を行い、四人の実力再検査を実地するのであった。





 驚くべきことに、ここは精霊の森らしい。


 精霊は今から数百年前に人間と絶縁した種族で、今や接触自体が禁忌とされている。ひとたび精霊の領地に踏み入れれば、問答無用で引き裂かれると言い伝えられていた。


「って、聞いてたんだけど……」


 気がつくと僕は豪華な椅子に座らされており、たくさんの料理、美しい舞いを見ながら、隣で頬を染める綺麗な女性と手を繋いでいた。


『こ、これはその、あれよ。キミの魔力と私の魔力を一体化させて、その、治療よ……』


 輝く金色の髪を靡かせながら、恥ずかしがりながらも手は離さない女性。

 一見して人間と変わりない姿だけど、宝石のようなその瞳は紛れもなく精霊の特徴だ。

 治療と聞いて気付いたけど、体の骨折が完治している。彼女が僕を助けてくれたのか?


『ありがとう、ございます』


『キミ! 精霊語が話せるの?!』


『少しだけです。趣味で勉強しました』


『趣味で勉強……というか人間はそもそも精霊の言葉を声に発することができないはずなんだけど……』


 そうなの? だとしたら多分、僕の生まれが関係してるのかもしれない。


『それと、この宴のような状況はなんですか?』


『のような、というか宴で合ってるわ。キミと私が契約を結ぶための儀式ともいうかな』


『契約?』


『精霊契約に決まっているでしょ?』


 精霊契約とは、人間と絶縁するに至る大きな原因となったものだ。

 簡単に言えば、契約を結んだ人間は、精霊の力を借りて強力な魔法が行使できるようになる。

 互いの共存と文明共有のための第一歩として交わされたそれは、次第に人間の戦争に悪用され、多くの精霊が乱獲・命を落とす結果となった。これは人間には過ぎた力だ。


『なんでそんな展開に……?』


『私を助けてくれたじゃない? 精霊は借りを倍にして返すの。ジャンボスライムの餌にならずに済んだし、キミに命を預けても構わないわ』


 あのクッションになってくれた物体はジャンボスライムだったのか。

 なら目の前にあった石が核で、割れたってことは倒したってことになる。

 落下衝撃で倒してたんだ……。


『責任とってね?』


 悪戯にニッと笑う精霊さん。

 僕はその笑顔に思わず見惚れていた。


 宴が終わり、儀式が始まると、皆さんが手を繋ぎ魔力を流し始めた。

 契約するにはまず僕の魔力を満タンにしなければならないらしい。

 それらはバケツリレー的に僕の方へと渡され流し込まれていく。

 まるで胸の奥に空いた〝大きな穴〟に、水が注がれていくような感覚があった。


『妙ね。普通の人間ならそろそろ満腹になってもおかしくないはずなんだけど……』


『僕は精霊と人間のハーフですからね。多分そこが原因かもしれません』


『なぁッ!? そういえば魔力で骨折が治るのも、よく考えたらおかしい話よね……』


 両親についてはよく知らない。ただ、この胸の傷が〝魔力路〟の断裂手術の痕であることは教わっている。

 精霊との接触を一切禁じた人間達からすれば僕は禁忌の子供。普通の子供に変えるための手術で臓器は傷付き、人よりも魔力が少なく、扱いが不慣れとなってしまった。


『そうなの……なら朗報よ。その断裂した魔力路は私が治しておいたから』


『え? そんなことできるんですか?』


『人間に対しては無理だけど、キミの体の構造は私達とよく似ている。大抵の傷は魔力によって治るもん』


 うふふと笑ってみせる精霊さん。

 知らなかった……というか、魔力路が治ったら(契約するにしても)精霊の力が使えるようになる=罰せられるんじゃないだろうか?


 そんなことを考えてる間にも魔力はどんどん送られてくるわけで、もうどうにでもなれといった気持ちで待つことにする。


『おいどうなってるんだ?』『漏れてるんじゃないか?』『普通こんなに入らないのに……』『魔力欠で5霊倒れたぞ!!』『なんという器じゃ……!』


 なんだか周りが騒がしい。

 隣の精霊さんの様子もおかしい。

 他の精霊さんからの視線が痛い。


『どうしたの?』


『キミの器が巨大すぎて全然満たされないの。ちなみに器の大きさは力の大きさ。鹿の角や鳥の羽と同じ、雌にとって一番魅力的なポイントよ』


 そう言って僕の手をより強く抱く精霊さん。

 唇をブルブルさせ他の精霊達を威嚇している。


『私はキミのモノだけど、キミも私のモノだから』


 その直後、ずっと満たされなかった何かから魔力が溢れ出す感覚と、全身を包み込む全能感――今までの魔力総量が1だとしたら、使える魔力が100くらいに上がっている気がする。


『私との契約が終われば使える魔力はさらに倍。たぶんこれから先、魔力で不便することはないんじゃないかな』


 そう言って僕の顎をクイと持ち上げる彼女。

 頬を染め、真っ直ぐ僕の目を見ている。


『私の名前はアルストロメリア。キミは?』


『ぼ、僕はアルゴ、です』


『アルゴ!』


 そう言って彼女は僕に口付けをした。

 花のような香りと、蜜のように甘さ。

 彼女の魔力が僕と一つになる感覚。


 永遠とも思える時間のあと、ゆっくり離れた彼女が微笑む。


『これからよろしくね、アルゴ』


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