6 ♨♨♨♨♨♨ オレと金髪の彼女(?)
「う……」
オレはまだ生きている? 確かにさっきオレは泉の中に投げ込まれて、沈んだ。その後のことを覚えていない。
そして今気がついたらオレはすぐ自分の体をチェックしてみた。ちゃんと元の体に戻ったか一番気になっているから。
「やっぱり、まだ澪乃ちゃんの体のままじゃん!」
その事実を知ってオレはがっかりした。せっかく元の体に戻ると思って泉に飛び込んだのに。やっぱりそう簡単にはいかないのか。
「あれ? この髪の毛……金髪?」
なぜか髪は銀色ではなく、金色になっている。これってあの金髪の澪乃ちゃんでは? オレは銀髪から金髪に変わったの? 変わったのは髪の色だけみたい。
「あの……」
「……っ!」
澪乃ちゃんの声が上の方から響いてきた。さっきまでと同じ巨大な黒髪の彼女はこっちの方を見下ろしている。
「やっぱり希湖浬くんなの?」
「うん、そうだけど」
なんで澪乃ちゃんはあまり自信なくオレにそんな質問をしたのか? オレ以外に誰かいると思った?
「そうか。だったら、あっちの希湖浬くんは?」
「え? あっちのって?」
オレが澪乃ちゃんの指した方向へ視線を向けたらそこには……。
「あれはオレ!?」
あっちで巨人みたいにでかいオレが眠っている。今オレは夢でも見ているのか?
「なんで巨大なオレがここに?」
今つい『巨大』って言ったけど、実際にサイズは澪乃ちゃんと同じくらいだ。つまり等身大。小さいのはこのオレの方だから。
それにそれだけでなく、銀髪の澪乃ちゃんもそばに寝ているようだ。サイズは今のオレと同じ。
「ね、澪乃ちゃん、どういうこと?」
オレは巨大な黒髪の澪乃ちゃんに訊いてみた。
「いや、あたしもまだよく把握できていないけどね。えーと、実はさっき女神が泉から出てきて……」
澪乃ちゃんはオレが泉に沈んだ後のことを教えてくれた。
「それで女神があたしにご褒美をあげると言って呪文みたいな言葉を唱えたら、次に気づいたら希湖浬くんの体と、小さな金髪と銀髪2人のあたしの体が泉のそばに寝ている」
「それでその『金髪の澪乃ちゃん』ってのはこのオレのことだよね?」
「うん」
大体事情はわかってきた。いや、まだわからないことの方が多いけどね。
「う……」
ようやく銀髪の澪乃ちゃんも目が覚めたようだ。そしてすぐ自分の体を調べ始めた。
「やっぱり元に戻ってない! 銀髪の澪乃ちゃんのままじゃん!」
と、彼女(?)はさっきのオレと同じような台詞を言った。
「え? なんで巨大なオレがここに!? それに金髪の澪乃ちゃんも?」
これもさっきのオレと同じだ。やっぱり間違いなくこの体に入っている人格はオレと同じオレだ。
オレは2人いる? どっちもオレ? それってどういうこと?
「君はオレなの?」
オレは銀髪の澪乃ちゃんに話しかけてみた。
「え? まさかそっちもオレ?」
「そうだけど」
「でもオレはこっちだから、お前はオレであるはずがない」
「は? それはこっちの台詞だよ」
オレから見ればこっちはオレで、そっちこそただオレと同じ人格を持つ誰かだ。
「あの……。よくわからないけど、二人共希湖浬くんってことね?」
巨大な黒髪の澪乃ちゃんはオレたちを見下ろしてそう言った。
「「希湖浬はオレだ!」」
と、オレと銀髪の澪乃ちゃんは同時に返事した。
「やっぱり同じだね。息ピッタリ。不思議だ」
「「うっ……」」
澪乃ちゃんは笑った。
「じゃ、あっちの希湖浬くんはどうだろうね?」
3人の澪乃ちゃん(その中の2人の人格はオレだけど)の視線は『オレ』の体に集まっていった。さっきまで眠っていたが、ちょうどその時その体が動き始めた。
「うっ……」
その『オレ』が目覚めたらすぐ自分の体を調べ始めた。
「やった! オレの体だ! 元に戻った!」
彼(?)は自分の体を見て大喜びした。その反応もしかして……。
「希湖浬くん?」
澪乃ちゃんは『オレ』に声をかけた。
「あ、澪乃ちゃん、良かった。ちゃんと同じサイズに戻ったね」
「やっぱり、希湖浬くんだ……」
「どうしたの? なんか嬉しくないみたい」
「それは……。あのね希湖浬くん、ちょっと言いにくいんだけど」
苦笑いしながら澪乃ちゃんはオレと銀髪の澪乃ちゃんの方に視線を向けてきた。
「小さな金髪と銀髪の澪乃ちゃん? なんでここに?」
あっちの『オレ』もこっちの存在に気づいて驚いた顔でオレたちを見つめた。
「「お前はオレなの?」」
と、オレと銀髪の澪乃ちゃんは同時に質問をした。
「え? 今『オレ』って、君たちって一体……」
「「おい、『君』って言うな! オレはオレだ。お前と同じオレだ!」」
「えーと……もしかして2人とも『オレ』!?」
「「まあね」」
やっとわかってくれたか。さすが人格が同じオレ。でもなんであっちのオレだけまだオレのままなんだ? なんか不公平じゃない?
「なるほど。何となくわかったかも。多分ね」
澪乃ちゃんは自信なさそうな声で言った。
「本来の『金の斧銀の斧』の話では鉄の斧を落として正直に答えたら、女神から『金と銀と鉄』3つの斧をもらうだろう。これと似ているようなものだ。ただ人間の場合は状況がちょっと違うかも。だって人間は生き物で、魂が……つまり人格が必要だ。いきなり1人から同じようなもう2人を作ろうとしても、人格がなければただの抜け殻じゃないか。だからそういう時に人格のコピーが行われるというわけだ」
なるほど。正しいかどうかわからないけど、確かに一理ある。オレより澪乃ちゃんの方が童話をたくさん読んでいたし。
「「「で、オレたちはどうすればいい?」」」
「おー、3人本当に息ピッタリだ。さすがに同じ人格」
「「「……」」」
こうやってオレが3人になったことで混乱は続く。
その後元に戻る方法を探すために4人で一緒に奮闘していくけど、説明は面倒だから割愛する。
2人で冒険するつもりなのに、いつの間にか4人になって、そしてこれからまた増えるかも?
とりあえず、どうやらオレたちの異世界冒険はまだスタートラインにすら達していないみたいだ。
-終わり-
最後までお読みいただきありがとうございました。
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