4 ♨♨♨♨ あたしと銀髪の小人(?)
「あ、おれ?」
泉に落ちて気絶した後、次に目覚めたらあたしは泉の隣に寝ている。当然体はびしょ濡れだった。もう服を脱ぎたい。でもそんなことより今気になっていることはいっぱいだ。
あたしはどうやって泉から上がってきたの? もしかして希湖浬くんがあたしを救った?
でも身を起こして周りを見回してみたら誰もいない。希湖浬くんはどこに?
「これは?」
あたしは人間みたいな形をしている小さな何かを目撃した。動いているから人形ではなく、小人か妖精かな? ここは異世界だからこういう生き物がいてもおかしくないかも。そう思ってその生き物をじっと見つめたら……。
「あたし? なんで銀髪?」
なぜかこの生き物はあたしと同じ顔で、同じ格好をしている。髪の毛はあたしと同じツインテールだけど、銀髪になっている。
「妖精? 小人?」
あたしは右手で小人(?)を掴んで、はっきり見えるように自分の顔の近くまで持ち上げてきた。
肌が柔らかい。今自分の指の感触からわかった。やっぱり生身の生き物だ。
なんか可愛い……って言いたいけど、この子はあたしと同じ顔をしているからもし褒めてしまったらなんか自分のことを褒めるみたいでなんか複雑な感じだ。
「よ、澪乃ちゃん、無事でよかった」
「わ! 喋った!?」
小人(?)があたしに話しかけてきた。やっぱり喋れるよね。しかもあたしのことを知っているようだ。あたしと同じ顔をしているから知ってもおかしくないとは思うけれど。
「澪乃ちゃん、落ち着いて。オレだ」
「え? 『オレ』って誰? あ、まさか希湖浬くん? そうだよね!?」
姿は全然違うけど、この喋り方は確かに希湖浬くんと似ている。大体女の子なのに『オレ』って普通はないしね。
「うん、そうだよ。ここはオレとお前しかいないだろう」
「やっぱりそうだね。でもなんでこんなにちっちゃくなって……。しかもあたしの姿に? でも銀髪?」
まだ今の事情をよく把握できなくて聞きたいことはいっぱいある。
「それは……。これについて話したらちょっと長いけど……」
そして希湖浬くんは目覚めたばかりで何もわからないあたしに今までの出来事を教えてくれた。それは本当に突拍子もない話だった。
「それでオレは『オレが落としたのはその銀髪の彼女』と答えたら、嘘吐いた罰として女神はこの体にさせたというわけだ」
「……」
希湖浬くんがこの姿になった原因をここまで聞いて、あたしは愕然とした。
「もう、希湖浬くんの馬鹿!」
「うわっ……!」
あたしがそう大きな声で罵ったら希湖浬くんが苦しそうな顔をした。もしかして小さな希湖浬くんにとってあたしの声がでかすぎるのかな? 声を小さくしないと。
「あ、ごめん。なんか呆れすぎて、つい……」
「ううん、オレが悪かったから。反省してるよ」
「自覚していたらそれでいい」
まったく、希湖浬くんったら。もし銀髪のあたしが欲しいのなら言ってくれればいいのに。金髪でも銀髪でも、希湖浬くんのためなら髪を染めるくらい安いご用だし。
「でも銀髪の澪乃ちゃんは本当に可愛いんだよ」
「……っ!」
またそんなこと……。希湖浬くん、全然反省してないじゃないか。もう……。
「い、痛っ!」
「あ、ごめん」
今あたしはつい希湖浬くんのいる右手に力を入れすぎたから、彼(女?)は痛そう。この小さな体はなんか脆すぎて優しくしなければすぐ潰れそうだ。
「オレを潰す気か!?」
「だって、希湖浬くんはまたあんなこと言うから」
「とりあえず、今の体勢は変えてもいいかな? さっきからオレはずっと澪乃ちゃんに握られたままだし」
「そうね。じゃ……」
あたしは希湖浬くんの小さな体(あたしの姿だけど)を自分の左手のひらの上に乗せた。手の中で握ったままではもし力加減が誤ったらやばそうだけど、手のひらの上に置いたらその心配はないだろう。
「これでいいかな?」
「まあ、さっきよりましかな」
希湖浬くんはあたしの手のひらの上に胡坐をかいた。あたしと同じ姿なのに、何というだらしない姿勢だ。
「今は女の子の体だから『女の子座り』にして欲しいね。ワンピース服だし」
「いや、あんな座り方はしたことないよ。どうやればいいか……」
「ならあたしが手伝ってあげようか」
そう言ってあたしは右手を希湖浬くんの下半身に近づけようと……。
「いや、要らない! わかった。オレは自分で座り方を変えるから」
あんなに怖がらなくても……。脅かすつもりはないのにね。
「やっぱりこんな座り方、慣れないね」
文句言っているけど、結局希湖浬くんはちゃんと女の子座りにした。ほら、やればできるんじゃないか。
「ところでその体は結局一体何なんだろうね? あたしとそっくりだし。違うのはサイズと髪の色だけみたい」
「オレもよくわからない。確かに澪乃ちゃんそっくりだ」
「服の下も同じかな?」
見た目はあたしそのままだけど、服の下はあたしが見えないからわからないよね。
「うん、ブラも付けて、パンツも履いているし、胸も……」
「うっ……!」
「澪乃ちゃん、なんか顔怖い! 手は震えてるよ!」
「知ってるってことは、まさか脱いで全部見たの?」
「あっ」
今希湖浬くんは「しまった」と言わんばかりの顔をしている。
見られた? 胸も、スカートの中も……。たとえあれはあたし自身の体ではなくても、同じように作られた体だから男の子が勝手に触ったり覗いたりしたらやっぱり……。
「いや、全然脱いでないし、見てないよ。何となく感じただけで。胸を揉んだ時も服越しで……」
希湖浬くんは狼狽えながら弁解しようとしている。
「む、胸……揉んだの!?」
「うっ……。それは……」
「あたしは揉んだのと訊いている!」
まごまごした希湖浬くんにあたしは答えを促した。
「……は、はい!」
「……っ! やっぱり……」
否定はしないんだ。正直でよろしい。
「ご、ごめんなさい! もう勝手なことはしないから、落ち着いて!」
「まったく……」
冷静にして、あたし。今怒ってうっかりして手を出したら希湖浬くんは潰されて取り返しのつかないことになっちゃうかもしれない。
希湖浬くんも男の子だし。いきなり女の子の体になってこんなことくらいするんだよね。男は誰だってエッチなんだから、恋人のあたしはちゃんと理解しないとね。
あたしだってもしある日目覚めて希湖浬くんの体になって、好き放題勝手なことができたら……。って、そんなことは今関係ないし。
とりあえず今は揉め事をする場合ではない。もう些細なことはもう構わず、さっさと真剣にこの状況を打開する方法を考えないとね。