3 ♨♨♨ あたしと異世界転移(?)
今回は彼女の方の視点で、時間は2人が付き合い始める前まで遡ります。
あたしの名前は泉落澪乃、15歳の女子高校生。身長165センチ。体重は秘密。黒い髪の毛はいつもツインテールにしている。好物はきりたんぽやずんだ餅で、異世界もののアニメが好き。
そんなあたしには仲のいい幼馴染の男の子がいる。彼の名前は小野望希湖浬。あたしと同じ15歳で同じ学年。小学校の頃から一緒の学校で、今高校に入って同じ1年A組にいる。
希湖浬くんは元々あたしより体が小さくて弟って感じもしたけど、やっぱり彼も男の子だから、中学校に入った頃から背がどんどん伸びてあたしに追いついてきて、高校生に入ってやっとあたしと同じくらいの身長になった。
あの時あたしと同じ視線の高さになって喜んだ彼は、突然顔を赤くしてあたしにそう言った。
「オレは、澪乃ちゃんのことが好きだ。オレの彼女になってくれないか?」
「え?」
これはもしかしなくても告白だよね? いきなりなのであたしも戸惑ってしまった。ずっと一緒にいて友達だと思っていたのに、希湖浬くんはあたしのことをそんな風に思うとは気づかなかった。
「なんで突然そんなことを?」
「突然じゃないよ。オレはずっと前から澪乃ちゃんのことが好きだ。でも澪乃ちゃんは背が高いし。自分より背が低い彼氏が嫌かなと思って、今まで告白できなかったんだ」
「だからこんな時をずっと待っていたの?」
「うん、澪乃ちゃんって時々オレのことを子供扱いしたし」
そんなことを気にしていたのか。男の子ってこういうものだよね。
「別に身長なんて関係ないよ。そんなことあたしは気にしていない。希湖浬くんからの告白ならあたしはいつでも……その……いぃ……ょ」
ちょっと恥ずかしくて言葉尻の声が小さくなってしまったけど、これはあたしなりの返事だ。
「え? 今のはどういう意味?」
「もう、そのままの意味よ。あたしも、ずっと前から希湖浬くんのことが好き。だから告白されて本当に嬉しい。あたしで良ければよろしくね」
実はあたしも希湖浬くんに告白しようと思っていたけど、彼がどう思っているのかわからなくてずっと怖くてできなかった。でもまさか彼が先に告白してくるとはね。それはなんかちょっと悔しいけど、それでいい。
こうやってあたしと希湖浬くんは恋人同士になった。あれから2人一緒にいる時間が増えて、デートもした。
そしてある土曜日、あたしたちは一緒に町の商店街でデートに来た。
「ね、希湖浬くんはさっき何を祈ったの?」
その商店街の近くにある神社から出てきた後、あたしは希湖浬くんに聞いた。
「異世界に行って冒険してみたいって」
「何これ? 子供か? アニメ観すぎよ」
希湖浬くんの方はあたしより異世界もののアニメが大好きで、実はあたしもこんなアニメが好きになったのは彼がきっかけだった。
「そういう澪乃ちゃんもいつも一緒にアニメを観ているくせに」
「確かにこういうアニメは好きだけど、実際に異世界に行くとなると大変になりそうだよ。モンスターや魔物もいて危なそう」
ファンタジー世界なら魔法が使えて、チートスキルを得られるかもしれないけど、戦うとなると痛そうだよね。なんか嫌だ。
「オレは絶対澪乃ちゃんを守るから心配しないで」
「もう、希湖浬くんったら。あたしと一緒に異世界に行くつもり?」
「嫌かな? オレと一緒に異世界で冒険するのは?」
「そ、それは……。確かに大変かもしれないけど、希湖浬くんと一緒なら……」
2人での冒険、これも悪くないかもね。
「じゃ、いつか行こう!」
「行く気満々か!? どうやって行くかもわからないくせに」
「だから神様にお願いしたんだよ」
「神社の神様って異世界の神様と繋がっているの?」
「いや、それはよくわからないね。ただちょっと願ってみただけ」
「もう……」
今の会話は当然ただの何気ない話だ。異世界に行くことなんて非現実的だから本気で思っているわけがない。
しかし……。
『その願い、聞き届けよう』
「え?」
今誰かの声が? 耳ではなく、まるで頭の中に直接に入ってきたような感覚だ。
「どうしたの? 澪乃ちゃん?」
「いや、何でもない」
きっと気の所為だろう。
「ところで、澪乃ちゃんは何のことお願いしたの?」
「それはね、希湖浬くんとずっと一緒にいられるようにって」
「なんか意外と地味だな」
「何だと!? 希湖浬くんの願いより現実的だと思うけど?」
希湖浬くんったらまったく……。
あの時のあたしたちはこの後自分の身に何が起きるか思いもしなかったけれど……。
「あれ? ここはどこ!?」
今日の商店街でのデートが終わって一緒に家への帰り道の途中、突然不思議な光に包まれて、気づいたらあたしたち2人は見慣れない森の中にいた。
「これは何の木なの?」
「わからない。オレも見たことない」
「希湖浬くんも知らないなんて……」
希湖浬くんはこう見えて植物のことに結構詳しい人なのに。
「もしかして、ここは異世界?」
「え?」
異世界って……。まさかね。
「きっとそうだろう。町の中にいたのに突然知らない森の中に移動した。それってアニメでもよくあるよね」
「確かにそうだけど……」
「きっと神様はオレたちの願いを聞いてくれただろう」
「そうかな?」
実は『オレたち』ではなく、ただ希湖浬くんだけの願いだけだよ、と突っ込みたいけど、希湖浬くんを止めようとなかったあたしも同罪かも。
「チートスキルはあるのかな?」
「そうね」
不安であまり何も言えないけど、希湖浬くんは楽しそうだから、あたしもあまり空気を壊したくない。
「試してみようか。ステータス・オープン!」
と、希湖浬くんは中二病っぽく叫び出したが、どうやら何も起こらないみたい。
「やっぱりゲームみたいな異世界ではなさそう」
結局何のチートスキルを見つからない希湖浬くんはしょんぼりした。
「とりあえず村とか探そう。このままだと何もできないし」
「あ、うん」
やっぱり異世界は甘く見すぎない方がいい。チートがあるとは限らない。何のチートスキルもなく異世界に飛ばされてきた異世界ものもあるし。
それでも希湖浬くんはまだ滅気ずに元気でいられるみたい。そんな彼を見てあたしも少しでも不安が治まっている。こういう時こんな元気な彼氏は頼りになれるものだよね。まあ、そもそもこんなことになったのもその彼氏の所為みたいだけど。
「あれは? 泉かな?」
木しかない森の中でしばらく歩いていて、やっと水面らしいものを見つけた。
「ここで休憩していいかな? あたしは疲れたし」
「そうだね。そうしよう」
村とかまだ見つかっていないけど、あたしたちは結構歩いていたから、もうすぐ限界だ。この泉の辺りは周りと比べたら木が少なくて比較的にさっぱりな場所だから少なくとも安全で休める場所だろう。
「この水面は綺麗ね」
あたしは泉に近づいてきた。さすが異世界の泉、なんか地球のとは違う気がする。どう違うか上手く説明できないけど、何となく不思議な何かが入っているって感じだ。
「澪乃ちゃん、あんなに泉の近くに立つと危ないだろう」
「大丈夫よ。あたしは水に落ちるようなドジっ子じゃないんだから。……あっ!」
今自分の言った台詞は何かのフラグっぽいと気づいた時はもう遅かった。あたしの足が滑って泉の中に落ちてしまった。
「澪乃ちゃん!」
その後あたしは泉に沈んで、そのまま意識が途切れた。