2 ♨♨ オレと黒髪の巨人(?)
「あの泉の女神、よくもやってくれたな!」
オレが『銀髪澪乃ちゃん』になったのは自分の所為だとわかっているから、今はただの八つ当たりだ。
これは泉の女神さんから罰だよね? どういう理屈なの? もしかしてオレが銀髪の澪乃ちゃんが欲しいからその体をオレにくれたっていうの?
まったく嘘を吐くんじゃなかった。オレはつい銀髪の誘惑に負けたからこうなったんだ。ごめんね。澪乃ちゃん。オレはつい澪乃ちゃんの黒髪ツインテールに裏切ってしまった。反省しています!
「女神さん! オレが悪かったです! 黒髪大好きです! オレの体を返してください。お願いします!」
オレは泉に向かって必死に叫び出したけど、やっぱり返事は全然来なかった。
これからオレはずっとこのままなの? 確かにこの体はずっと抱き締めたい超可愛いけど、これが自分の体になってしまったら抱き締めることはできないし。それにこれはオレのものではなく、澪乃ちゃんのものだよね? いや、正確にいうと澪乃ちゃんのコピーかな? そういえば本物の澪乃ちゃんの体はどこに行ってしまった? 結局泉の中に沈んだままなの?
このまま放っておくわけにはいかない。でも今のオレに何かできるのか? 泉に飛び込んで澪乃ちゃんとオレの体を探してみようか? なんか怖いけど、これしかないかも。
オレは泉の水面を眺めながらそう考えていたら、何かに気づいてしまった。
「この泉、さっきより大きくなってない?」
泉というより、今はまるで大きな湖みたい。さっきと同じ泉で間違いないのか? と考えたらその時水面が揺らぎ始めて、何か出てきた。
「……っ!」
出てきたもののサイズはあまりにも巨大なので、オレは愕然とした。しかも人間みたいな姿をしている。あ、でもこんな巨大サイズの人間って、『巨人』と呼んだ方が適切かも? この巨人の手はもしかしたらオレの体を乗せられるくらいでかい。なんで泉からこんな巨人が?
しかしオレが驚いたのはそのでかさだけでなく、この巨人の顔をよく見てみたらオレのよく知っている顔だった。
「澪乃ちゃん……」
そう。目が瞑っていて髪もびしょ濡れでボサボサになっているけど、この巨人は間違いなく澪乃ちゃんだった。それもいつもの黒髪ツインテール。
でかいな! なんで澪乃ちゃんがこんな巨人に!?
「いや、それは違う……」
はっきりと確認するためにオレは周りをよく見回してみたら、今の状況を何となくわかってきた。どうやら巨大になったのは澪乃ちゃんの体だけでなく、泉も周りの木も草も、オレ以外の何もかもだ。
もういい加減現実を受け入れよう。周りが大きいのではなく、オレは小人になったんだ!
なんで今まで気づかなかったのかな? 多分自分の体だけ夢中しすぎた所為かもね。それにオレの近くに草も木もほとんど生えていないから、ちゃんとした比較対象はなかった。泉の水面も波がなくて動きがないし。
そういえば、この体はもしかしてさっきあの泉の女神の手の中にいた銀髪澪乃ちゃんそのものだったじゃないか。つまり手のひらサイズしかない。まさかオレはそのままのサイズのこの体に入るとはね。
「あ、おれ?」
隣に寝ていた巨人が……、澪乃ちゃんが目覚めたようで、声を出し始めた。
彼女は体を起こして周りを見回し始めた。
「これは?」
やっと澪乃ちゃんの視線はオレのところに止まった。彼女は今オレの存在に気づいたみたいだ。
「あたし? なんで銀髪?」
この様子から見たらオレは彼女が澪乃ちゃん本人だと確信した。
「妖精? 小人?」
怪訝そうな顔でオレを見た澪乃ちゃんは、自分の巨大な手をこっちに伸ばして、オレの体を掴んで持ち上げていく。
「あっ……!」
いきなり自分の体と同じくらい巨大な手に掴まれてさすがオレも驚いた。それに彼女の手は濡れているから、オレも濡れてしまった。
そして澪乃ちゃんはオレの体を自分の目の前まで持ってきた。オレの感覚では自分の身長と同じくらいサイズの彼女の巨大な顔は自分の2メートルくらいの距離で浮いている。でもこれはあくまでオレの感覚で、彼女から見れば多分距離は20センチくらいだろう。彼女の吐息の声もよくオレははっきりと聞こえている。
「よ、澪乃ちゃん、無事でよかった」
「わ! 喋った!?」
オレが澪乃ちゃんに声をかけたら、彼女は幽霊でも見ているような顔で驚いた。好きな人にあんな目で見られるとさすがオレも落ち込んだよ。でも無理はないか。彼女から見ればいきなり小人や人形は勝手に喋っているということだから。しかも自分と同じ顔だし。
「澪乃ちゃん、落ち着いて。オレだ」
「え? 『オレ』って誰? あ、まさか希湖浬くん? そうだよね!?」
彼女はオレの名前を呼んだ。ちゃんとオレだとわかったみたいで、嬉しい。
それにしても巨大な澪乃ちゃんの声は大きすぎてちょっと耳にやばい。オレがこんなに小さすぎた所為で。
「うん、そうだよ。ここはオレとお前しかいないだろう」
「やっぱりそうだね。でもなんでこんなにちっちゃくなって……。しかもあたしの姿に? でも銀髪?」
澪乃ちゃんは訝しげな顔でオレに訊いてきた。
「それは……。これについて話したらちょっと長いけど……」
言いにくいことが多いけど、やっぱりちゃんと今までのことを説明しないとね。
「実は……」
そしてオレは澪乃ちゃんにさっきからの出来事を語り始めた。