1 ♨ オレと青髪の美女(?)
「あなたが落としたのは金髪の彼女ですか? それとも銀髪の彼女ですか?」
突然泉から出てきた超美人さんはオレにそう言った。
彼女は足で水面に立っている。整った顔で太腿まで長い水色の髪の毛がとても美しくて、しかも着ている真っ白なドレスもなんかギリシア神話で登場する女神と似ている。
もしかしたら彼女は本当に女神だったり? あれ、でも『泉から出てきた女神』ってどこかで聞いたことあるお話のような……。
いや、そんなことより、今一番気になっているのは彼女の両手の中にある(いる?)もののことだ。
彼女の両方の手のひらの中にはそれぞれ人の形をしている小さなものを握っている。人形かな? ……と思ってその顔をよくじっと見てみると……。
「澪乃ちゃん!」
その可愛らしい顔とツインテールの髪の毛、間違いなく泉落澪乃、15歳で高校1年生。オレの幼馴染でクラスメイトで、そしてオレの彼女でもある。
なぜこんなことに? ちょっと思い返してみよう。
今日オレは澪乃ちゃんと一緒に商店街や神社でデートして、帰り道の途中でいきなり不思議な光に包まれて、次に気づいたら2人は森の中にいた。周りの木は全然見慣れないものばかりで、まるで日本じゃない。……いや、それどころかまるで地球じゃないみたい。
だからこれはアニメや小説でよくある『異世界転移』だとオレは確信した。つまりここは地球じゃない、魔法も存在するファンタジー世界だ。
そう思ってワクワクしたオレたちはしばらく森の中を散策してみたら結局迷子になって、この泉に辿り着いてきた。しかし澪乃ちゃんはこの泉に近づいたらつい後が滑って泉の中に落ちて沈んでしまった。
そしてこの女神さん(?)は現れて、今に至った。
つまり彼女はこの泉に沈んだ澪乃ちゃんを見つけて助けてくれたのか?
いやいや、それはなんかおかしいんだ。だって、なんで澪乃ちゃんが2人になっているの? しかも髪の色は違う。女神さん(?)の左手の中にいる澪乃ちゃんは金髪で、右手の方が銀髪だ。髪の色の他にこの2人の澪乃ちゃんは完全に同じで、まるで双子みたい。
でもどちらも澪乃ちゃんの本当の髪の色ではない。彼女はオレと同じ普通の日本人だから、当然髪の色は真っ黒だ。『黒髪ツインテール』は澪乃ちゃんのトレードマークだし。だからこの2人の少女はただ澪乃ちゃんの顔をしている他人で、どっちも本当の澪乃ちゃんではないはずだ。
それに気になることはもう一つある。澪乃ちゃんあんなにちっちゃいはずがないってこと。
この女神さん(?)は別に巨人であるわけではなく、オレと同じ人間サイズだ。それなのにこの金髪と銀髪の少女はこの女神さん(?)の手に乗れるくらいのサイズになっている。つまり妖精か小人みたいなものだ。サイズは恐らく普通の人間の10分の1くらいだろう。
当然だけど、澪乃ちゃんは小人ではなく、普通の人間だ。背も165センチで、オレと同じくらいの身長だ。女性にとって比較的に高い方だしね。
この2人の小さな澪乃ちゃんは目を閉じて全然動いていない。ぐっすり眠っているのかな? それともただ同じように作られた人形? 触らずに見た目だけでは判断しにくい。
「あの、聞こえていますか? 答えてください。あなたが落としたのは金髪の彼女ですか? それとも銀髪の彼女ですか?」
オレの返事がないから、女神さん(?)はもう一度質問を繰り返した。
どっちって訊かれてもね。オレが落としたのは金髪でも銀髪でもない。ただ普通の黒髪ツインテールの彼女だ。しかもこんな小人ではなく、等身大サイズの彼女だ。
でも今金髪と銀髪のツインテールの澪乃ちゃんを見て正直オレはついドキッとした。普通の黒髪の澪乃ちゃんも可愛いけど、こういう髪の色もいいかなって思ってしまった。特に銀髪の方。
オレはちらっと女神さん(?)の右手の中の銀髪ツインテールの澪乃ちゃんを見た。やっぱりすごく可愛い。澪乃ちゃんって銀髪になるとこんな可愛いのか。今まで考えたことはなかったけど、実はオレ、銀髪少女が好きかも。
そう思ったら魔が差したようにオレの口は動いてしまった。
「オレが落としたのはその『銀髪の彼女』です」
言ってしまった!
そしてオレの答えを聞いた女神さん(?)は……。
「あなたは嘘を吐きました。罰を受けてください」
「えっ!?」
それを聞いた瞬間、オレは後悔してしまった。『銀髪の彼女を欲する』という邪念を持ってしまったオレは馬鹿だった。
あれ? 待って。今突然オレは何か思い出した。
これってあれじゃないかな? イソップ寓話に出た『金の斧と銀の斧』のお話。この女神さん(?)はいわゆる『泉の女神』ってやつ? ならオレは木こりで、澪乃ちゃんは鉄の斧なの?
だったらオレの正しい答えはもしかして「いいえ、オレが落としたのはどっちでもなく、黒髪の彼女です」って、そのはずだった。そうしたらきっと本物の澪乃ちゃんを返してもらえて、金髪と銀髪も同時にもらえるはず。
でも今更こんなことに気づいたとしてももう遅いだろうね。なんでもっと早く気づかなかったのだろう?
オレはこのまま女神から罰を受けることになるのか?
『འུ་སོ་འོ་ཙུ་འི་ཏ་འ་ན་ཏ་ཝ་གིམ་པ་ཙུ་བི་ཤོའུ་ཇོ་ནི་ན་རེ།』
聞き慣れない言葉だけど、恐らく女神さん(?)は何か呪文を唱えているみたいで、次の瞬間彼女の体が青く光り始めて、オレはその眩しさに包まれて目を閉じてしまった。
そして次に目を開けたら女神さん(?)の姿はどこかで消えてしまった。
「あれ、何も起こらない? ……って、何この声!?」
オレは自分の発した声に違和感を感じた。なぜか高くて綺麗な声だ。まるで女の子の声みたい。なんか嫌な予感が……。
「何、この髪の毛?」
なんか頭が重たいと感じて、手で自分の頭を触ってみたらなぜか長くてツインテールになっている。しかもこの髪を引っ張って目の前まで持って見つめてみたらこれは銀色だとわかった。
「まさか……」
恐る恐るオレは自分の体を詳しく調べ始めた。
まずは服、これは今日澪乃ちゃんが今日着ていた可愛らしい桃色のワンピースだ。
次は胸、ちょっと触って揉んでみたら、やっぱりわずかだけど確かに膨らみを感じている。澪乃ちゃんと同じAカップ程度。しかもブラが付いているようだ。
そして股間に感じる変な違和感。ドレスの下を捲って確認しなくても何となくわかるくらい。きっとあるはずのものはもうないだろう。
最後に、オレは泉の水面を覗いて自分の顔を調べてみたら……。
「やっぱり……」
そこに映っているのは間違いなく大好きな澪乃ちゃんの顔だ。髪の毛は銀色になっているけど、確かに澪乃ちゃんだ。
オレ、銀髪澪乃ちゃんになっている!?