七十八話 部隊分けについて
支援の内容について詳細を詰めると、ギオールはバルドザードへ帰っていった。
戦力の支援も担っているのかと思っていたが、本当にお使いだけのようだった。
しかしよく考えれば、リシュコールと今も戦い続けているバルドザードに戦力を貸し出す余裕はなかったのかもしれない。
ギオールは普段から前線で戦っているだろうから、リシュコールの将とも顔見知りだろう。
それが反乱軍にいれば、バルドザードの関与がバレる事になる。
始めからありえない事だったな。
多分、彼女がお使いに出されたのはシロが私の用件を優先してリシュコールに来ていたからだ。
一度こちらに来た事のあるリジィを向かわせたかったが、人間が嫌いな彼女に交渉ごとができるとは思えない。
そのため、人当たりの良いギオールを向かわせたという所だろう。
「じゃあな、可愛いガキども。また会おうぜ」
「うん。ギオール姉ちゃん。また遊びに来てくれよな」
別に今回も遊びに来ているわけではないんだろうけどな。
リューの言葉に心の中でつっこみを入れながら、涙交じりの見送りを見守った。
ギオールが帰り、それを機に侵攻作戦の内容を詰める事にする。
反乱軍の主要人物を集め、会議を行った。
会議の主軸となったのは、部隊を二つに分ける事についてである。
シャパドから東、ディナール方面には二つの領が隣接しているという事だ。
さらに一つの領を経て、ディナールに到達できる。
部隊を分けると戦力に不安はあるが、ミラとしても十分に攻略は可能であるという判断に至ったようだ。
隣接した領はクラド、ルマルリの二つであり、どちらもディナールの方向へ領地が長く延びている。
幸いというべきか、どちらの領も自衛のため最低限の私兵を残し、他はバルドザードとの戦場へ送り出していた。
むしろ、必要以上の戦力を残していたシャパドの方がおかしかったのだ。
本来、今のリシュコール領内はどこも手薄なものである。
ゼリアの考え方から見ても、鎮圧に有名な将が使わされる事はなさそうだ。
攻めるには絶好の機会と言えた。
シャパドから北東に位置するクラド、南東に位置するルマルリ。
どちらに誰を向かわせるかという話し合いになる。
「私はクラド攻略部隊の総指揮を担います。ロッティ様はルマルリ攻略の指揮をお願いします」
ミラはそう要請する。
指揮官として、私の名が挙がった事に少し驚く。
「僕は頭が良いわけじゃないんだがなぁ」
「あなたほど人の扱いが上手い方もいませんよ」
「持ち上げてくれるね」
「事実です」
「で、他の配置は?」
「クラド領主は従軍の経験があります。我々がシャパド領を占領した時より警戒し、陣を整え各地の防衛を固めています。陣地を攻略しつつの戦いとなるでしょう。対して、ルマルリの領主には警戒心がなく、これといった動きが見られません。攻め入れば領城に立てこもる可能性が高いです」
それはそれで厄介だ。
「クラドには戦略的な動きが必要だな。領地を縦横に動き攻めるには、人手は多い方が良いだろう」
「一ついいか?」
スノウが手を上げる。
「どうぞ」
「あたしはリューと同じ部隊に置いてくれ」
「なら、俺はマコトと同じ部隊にしてくれ」
スノウに便乗してヨシカもそう要求する。
「え、何で?」
「そうだ、何でだよ?」
戸惑うリューとマコト。
「マコトは未熟だ。危なっかしくて目を離せないからだ」
「あたしも同じ理由かな」
保護者二人が理由を述べる。
「はぁ? 子ども扱いすんなよ!」
リューは口を尖らせて反論するが、マコトは思う所があるのか押し黙った。
「いいか、マコト。未熟である事は恥じるべき事ではない。恥じる事が悪いわけでもない。足りないと思うからこそ、人は得ようとするものだからな。先達から学べ。差し当たって、今回は俺を見ていろ。答えが見つかるかもしれない」
「……わかった」
裏切りにあったリューが「えぇ……」という顔でマコトを見る。
「そういう事だ。お前はあたしを見てろよ」
「あんたから学ぶ事なんてねぇよ」
「そう言うな」
はっはっは、と笑ってスノウはぐしゃぐしゃとリューの頭を撫でた。
リューは「やめろぉ!」と逃げようとしたが、それでも容赦なくスノウは撫で続けた。
「丁度いいので、二組は分ける方向で考えましょうか」
「いや、両方ルージュの方で使えばいい。明らかにクラドの方が強敵なのだから」
ミラの言葉に答える
「しかし、ルマルリでは城攻めとなる可能性もございます。そちらにも戦力は必要かと思いますが」
「まぁ、こちらにも考えがある」
マコトがいなければ、クローディアを戦力に数える事もできるし。
「ケイ、ジーナ、一緒に行ってくれるかな?」
「あたいらでいいんスか?」
「リューと離れるのは寂しいか?」
「そんな事思ってないッス。ただ、あたいらだけじゃ力が足りないんじゃないかって……」
「大丈夫さ。私達ならやれる」
私はジーナの方を向く。
「ジーナは何も不満はないかな?」
「ああ。あんたがそう判断したなら大丈夫だろう」
えらく信用してくれるもんだ。
次に、ボラーを見た。
「あなたにはクラド攻略に加わってもらうが、それでいいかな?」
「はい。大丈夫です」
彼女は柔らかく答えた。
「私はどうすればよいですか?」
リアが訊ねてくる。
「あなたにはシャパド領の守りをお願いします。あなたの聖具ならば、一人でも領地を全体をカバーできるでしょう」
「わかりました! お任せください!」
クラド攻略にはボラー、リュー、マコト、ヨシカ、スノウ。
ルマルリ攻略にはケイ、ジーナ、クローディア。
それぞれその人員を率いて向かう事となった。
今回の更新分はここまでです。
では、また次の月末に。




